第8話 最強の刀
俺は、落とし穴の罠にはまって最下層のフロアにいた女性パーティー『ファングオブラビット』の救助のために、この魔法の力で浮いている【天空城トランクラージュ】の最下層に来ていた。
「な、何者!?」
パーティーリーダーのカナリアが近付く俺に剣を向ける。
他の二人も顔に警戒の色を見せる。
だが、全員、飢餓状態であり、息も絶え絶えといった感じである。
とりあえず、不安と警戒を解かなくてはなと思い、俺はカナリアに向かって話しかけた。
「俺は冒険者ギルドのヤイダルから依頼を受けてお前達を助けに来た。」
「ヤ、ヤイダルさんが?」
カナリアはヤイダルの名前を聞いた瞬間に緊張の糸が切れたのか、膝の力が抜け、その場に崩れ落ち気を失う。
他の二人も同じ様に、安堵からその場に座り込むようにして倒れる。
「おいおい。安心しすぎだろ。」
俺は三人に応急の【回復魔法】をかける。
この魔法は最初の段階で思い出していたものであり、かなり上位のものが行使出来るようになっていた。
「ううっ」
全員が回復魔法で少し体力が戻り、意識を取り戻す。
また全員が、落とし穴に落ちて怪我をしていたため、回復に併せて治癒の魔法で負傷部位を治療する。
俺の現在の魔法では、体力については魔力で一時的に回復しているだけなので、体全体の体力を元通りに戻すことは出来ない。
そのためには、後で食事や回復薬などで徐々に回復しなければならない
なので、ヤイダルから念のためにと渡された回復薬を飲ませたりした。
その甲斐あってか何とか立ち上がって歩けるようにまでなった。
「ありがとう、もう駄目だと思っていた。」
とカナリアが涙を流して俺に礼を言う。
他の二人も頭を下げる。
「しかし、こんな所にいたとは…俺はお前達を探して、下層迷宮の一番上まで行ってしまってたぞ。」
と俺が言うと、カナリアは驚いて俺を見る。
「この城の上層まで行ったのですか?」
「ああ、まあ、下層一階のドラゴンを倒して、さらに上層に行く途中で、お前達がここにいる事がわかったからな。」
「えっ?ド、ドラゴンを?」
カナリアが俺を二度見する。
普通、ドラゴンなんて魔物は人間が一人でどうこう出来るような相手ではない。
そんな魔物を一人で屠ったと言われて驚かない奴はいない。
大体は嘘と聞き流して良いだろうが、この場所が場所だけに、話に真実味が増す。
「まあ、召還獣みたいだったけどな。」
「どうやって倒したんですか?」
「まあ、一応魔法かな…」
「す、すごい!」
魔法使いのスズメが目を輝かせる。
斥候のインコは、
「オレがもっと慎重にしていれば罠に掛かることはなかったのに…」
と男勝りな言葉遣いで上層に行けなかった事をかなり反省している。
実のところカナリア達は、最初、少しは歩けていたが、やはり体力低下が深刻だったため、すぐに座り込んで、しばらく座ったままでいた。
だが、いつまでもここにいる訳にもいかないため、出発することにした。
「とにかく、ここを出よう。立てるか?」
俺は立ちあがり、カナリア達を促す。
「ああ、大丈夫だ。」
ヨロヨロしながらもカナリア達は立ち上り、歩き始めた。
俺はその様子を見て、ひとつの魔法を思い出す。
【重力魔法 グラビティス】
展開対象に対する重力を操作する魔法である。
攻撃をする場合は対象に展開行使して、身体にかかる重力を増大させ対象の動きを鈍らせるという魔法であり、今のところ約1000倍までは増幅出来る。
重量が1kgなら1000kgつまり1t(トン)だ。
だが、ここでは、カナリア達に重力操作して、体にかかる重力を軽減してほぼ体重を無くした。
「す、すごい!」
カナリア達が自分の体の軽さに驚いている。
「じゃあ、全員俺に捕まれ。」
俺はその状態で、俺に三人を捕まらせて、【スキル 超人】の飛行能力で全員を一旦30階層のフロアまで引き上げた。
彼女達は魔法で自分自身の体重が軽くなったため楽に捕まることが出来た様子であった。
「助かったあ~!」
スズメが声を上げる。
カナリアとインコもホッとした表情となる。
彼女達の目の前に財宝の山があるが、彼女達はもう手を出すことはなかった。
「よし、帰るぞ。」
と俺が言うとカナリアが驚いたように俺を見た。
「えっ?魔法剣を取りに行かないんですか?」
「えっ、どうして?」
逆に俺が聞き返すとカナリアは、
「いや、だってヒロシ様のような実力があれば魔法剣なんて直ぐに取れるんじゃないんですか?」
「んーまあ、そうだな。いつでも取れるんなら、別に今日、取らなくてもいいんじゃないのかなと…」
「あ、なるほど、確かにそうですよね。」
「ふっ、だから、それよりもお前達の救助の方が優先するんでな。」
「ヒロシ様…」
三人が俺を見てウルウルしている。
その後は、先程の続きとなるが、彼女達を連れて下層迷宮を抜け、上層階層の一階まで引き上げた。
眼前にそびえ立つ巨大で鮮やかな色彩の天空の城を前に三人が目を大きく見開く。
「これが、【天空城トランクラージュ】なのですね。」
カナリア達が自分達の力で到達することが出来なかった城を感慨深く見ている。
まあ、城を攻略するどころか命を失いそうになっていたのだから仕方がないだろう。
「さあ、捕まれ。」
俺は再度、彼女らを自分に捕まらせて空に浮き上がった。
ここからなら城の外へ移動することが出来る。
「ちょっと飛ばすぞ!」
「えっ?」
俺は彼女達が落ちない様に色々と細かい魔法を使いながら速度を早めた。
特に移動時の風圧については抵抗を軽減するため防御魔法を展開しつつ進んだが、時速で言えば250~300km/h位だったろうか。
ちょっと速い車程度だが彼女達には刺激が強すぎたようで、途中で休憩を入れたりしながら、ようやくイドンの町に到着した。
一応、外から帰ってきたので、そのまま中へ入らず、検問所の前に三人を連れて降りていった。
まあ何とも律儀なことだ。
検問所にいたのは例の土下座兵士ことデイザーであった。
「うわあ!」
デイザーは再びその場に尻餅をつく。
まあ、普通の人間は空から降りてくる事はないからな。
「ヒ、ヒロシ様!?」
デイザーは俺の姿を認めると直ぐに立ちあがり頭を下げる。
そして、消息不明となっていたカナリア達の姿を認めると驚いて目を見開く。
「お、お前達!無事だったのか?」
「ヒロシ様に助けてもらいました。」
とカナリアが簡単にそれまでの経緯を話すと、
「そ、そうか…まあ、何にしても命が助かっただけでも良かった。」
と言ってデイザーは検問所を通してくれた。
検問所を通る際、デイザーが俺に声をかけ、
「ヒロシ様、彼女達を助けていただいて、ありがとうございました。」
と深々と頭を下げる。
まあ、町の人間を助けたのだからそうなるだろうな。
まあ、デイザー君、君も丸くなったね。
俺達はその足で冒険者ギルド・イドン支部に向かった。
「お前達!無事だったのか!!」
カナリア達の姿を見たギルド長ヤイダルが声を上げる。
イドン支部では俺が出ていった後で彼女達の捜索隊が結成されようとしていた。
「で、お前達は一体どこにいたんだ?」
「えっ?どこってトランクラージュ城だけど?そこで罠にかかっちゃって、で、そこで死にそうになってたのをヒロシ様が助けてくれたんですよ!」
カナリアがそう言うとヤイダルは『は?』というような表情となる。
「バカな!オレがヒロシ様に捜索を依頼したのは今日の昼くらいだぞ、いくらなんでもそんな…」
と信じられないと言うような表情で俺の方を見る。
まあ、距離的に見てもクエストの内容からみても、1日というか半日でどうこう出来るような代物でないことは十分にわかっているから尚更だ。
だが俺は肯定の意味でヤイダルに頷く。
ヤイダルもそれを見て、彼女らが嘘をついていないことを知る。
「そ、そうでしたか…まさか、ヒロシ様がそんな凄腕の方であったとは…」
「俺の事を兵士から聞いていたんじゃないのか?」
「いえ、かなり強いとは聞いていましたが、まさか、これほどの実力者とは思っても見ませんでしたので…」
ヤイダルは俺の実力を見謝っていたことに反省しきりといった表情である。
「そういうことか…」
俺はヤイダルがカナリア達の捜索隊を結成しようとしていた理由がわかった。
まあ、過小評価というやつだが、仕方がないだろう。
まあ、ようやくこれで問題も解決し、次の町に行くことが出来るので建物を出ることにする。
彼等に背中を向けたとき、ヤイダルから声をかけられる。
「ヒロシ様!捜索の報酬を…」
俺は振り向く事なく、片手でいらないという意味で手を数回振って意思表示する。
そして、建物を出る。
「ヒロシ様!」
カナリア達だった。
外まで追いかけてきたようだ。
俺が振り向くと頭を下げ、礼を言う。
「あ、ありがとうございました。」
「気にするな、命を大事にな。」
俺はそう言うと、そこから飛行スキルで空に飛び上がった。
さあ、次の目的地はどこだっけ?
えーと【チュート】様?
『イリノスの中心街エルネイアです。』
ああ、そう言えばそうだった。
で、そこで何をすればいいんだろうな。
『とりあえず、もう少しで日が暮れますから、そちらで食事などはいかがでしょう。』
「そうだな。ここの飯屋も美味かったが、エルネイアの飯はどんなものかな?」
そう言いながら、俺はエルネイアの方向へ移動しながら、周辺の地図を確認する。
「エルネイアの美味い店」
そう言うと神スキル【宇宙衛星】が動き出す。
エルネイアの俯瞰地図が3D表示で空中に立ちあがり、そのうち、飲食店が矢印と店名で表示される。
また、それらの店名を指定すると、その店で出される全ての料理が表示される。
かなりすごいんだけど。
「これが上位進化したらどうなるんだ?」
俺は今の段階でもこのスキルのスゴさはヤバイと思っているのだが、進化したらどうなるのか、ちょっと想像したが、想像しきれなかった。
「おっ、『魔猪の香辛料煮込み』だと!カレーっぽいな。」
と思った瞬間だった。
俺の中ですごい探し物が出来る。
「そうだよ!すっかり忘れてたよ!」
俺はそう言うと再び【宇宙衛星】を展開し、「『米』を探してくれ!」
と言った。
そうなんだよ、この異世界アルカリオンにまず、ジャパニーズソウルフード!『米』があるのかどうか、そして…
「カレーの材料に使われる香辛料や具材!」
と指示する。
さあ、どうだ【宇宙衛星】!俺の期待に応えられるのか?
だが、
『米はこの世界には存在しません。類似のものを探すのであれば、スキル進化が必要です。』
だよなあー、わかってたんだけど。
でもスキル進化すればなんとかなるというのは朗報だ。
『また、カレーの材料に使われる香辛料や具材ということですが、品名は異なりますが、類似成分が含有する植物は数点存在を確認しました。』
「何!?それは本当か?!」
『事実です。ですが、そのうちその他の含有成分に問題があるものがあるようで、現在のところそれが何なのか不明のためオススメ出来ない状態です。』
「そうなのか、よし!それもスキル進化して成分問題を解決してからにするか。」
そんなことをしながらも俺は、エルネイアの街に着いた。
街にはイドンの様に検問所は無いが、街の周囲には、街を護るための外壁が作られていて、その出入口には一応、門番の兵士が立っていた。
当たり前だが、流石に目の前で空から降りることはせず、離れたところで地上に降り立ってから街に入る。
まあ、イドンの検問所と違って国境ではないから、警戒感も比較的低そうであった。
なので俺がイドンで発行してもらった身分証明書をその門番兵士に見せると、イドンと違い、あっさりと通してくれた。
やっぱり身分証明書とかは必要だね。
流石に、俺がこちらの街へ移動するまでに、既に日は暮れ、かなり薄暗くなっていた。
外壁の門の方から街中を見ると、建物の明かりが窓からチラチラと漏れているのが見える。
街の中は日が暮れたとは言え、まだたくさんの人々が行き交い、賑わっていた。
食事が出来る屋台の店もあり、かなり街は混雑している。
まあ、街が元気なのは結構なことだ。
俺は街を散策する。
目的の店はある程度散策が終わってから行く予定だ。
「おー
俺は屋台が焼いている異世界定番の串焼き肉を注文して、受け取る。
味に関しては対して期待はしていなかったのだが、これはいい意味で裏切られた。
口に入れると、柔らかい食感と肉の旨味が肉汁と共に口の中を刺激する。
ヤバい、なんだよ、定番では異世界ってあんまり料理が発達していなかったんじゃないのか?
美味いじゃないかあ~!!
飯が美味いと幸せな気分になるー。
串焼き肉の屋台の親父に何の肉か尋ねる。
「それはなあ、この近くで採れる『ウーシ』の肉だ。」
ウーシ?牛じゃあないのか?
まあなんにしても美味いものは正義だ。
他にも新たな発見があるかも知れない。
俺はさらに散策をする。
こういった時は、敢えて【宇宙衛星】の機能は使わない。
調べてからそこに行けば、それは必然であり、それは面白味に欠ける。
偶然の出会いが素晴らしい奇跡を生むかも知れないからな。
だが、串焼き肉を食べている時に貧しそうな獣人の子供に出会うとか、教会に出入りする手癖の悪い孤児が串焼き肉を奪い取るとかというイベントはないようだ。
「ん?」
俺は街中であるものに興味を惹かれた。
屋台というよりは出店形式の武器屋であった。
「そう言えば、イドンで鍛冶屋とか行かなかったなあ。」
と思いながら、その武器屋に立ち寄った。
そこは店の前にガラクタの様な剣を置いて二束三文で売っていたが、店の中にも商品を置いているらしく、良く見ると中々良いものを置いている様であった。
俺は、賢者だが、剣術も使えるので一本くらいは持っていても良いかなと思ったので、良いのがあれば買うつもりで店内を見て回った。
しかし、この店は客も少なく、あまり出来の良いものを置いている様子は無かったのだが、ひとつだけ気になる剣を見つけた。
剣というか刀だ。
良い刀っぽいのだが、かなり安く、売れ残っている様であった。
俺は店番をしている女性店員に声をかける。
「この刀は結構、良さそうなんだが、どうしてこんなに安いのだ?」
と尋ねるとその店員は、
「はい、その刀自体に呪いが掛かっている訳ではないようなのですが、何故か所有する方達が怪我をするらしくて、皆さん気味悪がってしまって…」
「あーなるほどね。」
俺、実は設定の時、賢者のクセに鑑定の呪文を付け忘れていたようであり、どうしたものかと思っていた。
だが、
「【宇宙衛星】!」
このスキルは、人や物を探すためのスキルで、スキルレベルが上がれば隠された物も探し出せるというものである。
俺がこのスキルを発動したら何が起こったと思う?
スキルがその物にある『性能や付与スキル』等の能力を探してくれたのだ。
つまり、鑑定と同じ能力を発揮したのだ。
結果は、
【
・二つ名あり『
・何でも切れます。『切断不可避』
・普通の人は持てません。『守護神ヴィシュヌ』
※下手に持つと怪我をします。
だった。
ただ、それ以上の能力についてはスキルレベルが低いため確認できなかった。
何じゃこれ!?
これって、いわゆる
最強じゃないのか?
って、これの値段…銀貨三枚って。
神様泣くよ。
とりあえず値段は安いのだが、売ってくれるだろうか?
俺はドキドキしながら店員に尋ねる。
「あ、あの」
「はい、何でしょう?」
「すまんが、この刀を売ってくれないだろうか?」
と俺が刀を指差して言うと女性店員は、ため息をつきながら、
「はあ、それは構いませんが、怪我しても知りませんよ。」
「構わん、では、これを頂くぞ。」
と言いながら俺は、その刀を手にする。
特に抵抗もなく、何も起きなかった。
すると、店員が驚いた。
「あらっ?不思議ですね、いつもなら急に重くなったとかで、床に刀を落としてしまったり、その勢いで皆さん転んだりして怪我をするんですけど…しませんね。」
「という事は、この刀は俺を持ち主と認めた訳だな。」
と、俺は店員に言いながら銀貨三枚を手渡す。
それにしても、何故、このようなとんでもない刀がこんなところにあったのか、俺は不思議でしょうがなかった。
何か理由があったのだろうが、あまり考えないようにすることにした。
まあ、いずれ分かる時が来るだろう。
さあ晩飯食うぞ!
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