第7話 神スキル発動

俺が迷宮の第一階層の使用人の側を通り抜けようとしたその時であった。


突然、その使用人は大きなドラゴンに変化した。

何となくだが、何かあるとは感じていた。

「あーあ、やっぱり簡単には通してはくれないわけね。」

多分、このドラゴンは下層の中ボスといったとこだろう。

真っ赤な鱗に包まれたその体は、体長が30m近くも有りそうで、背中には大きな翼、4つの巨大な足には恐ろしく鋭い爪が光る。

頭部は正にファンタジーの物語に出てくるドラゴンそのものであり、爛々と光る目と一度噛みつかれると何でも食いちぎれそうな大きな牙。

そして、最大の武器である炎のブレス。

今にも口から吐き出しそうなくらいに口の回りから炎がチラチラと洩れて見えている。


「おい、どうやれば勝てる?」

俺は【チュートリアル】の【チュート】さんに質問する。

序盤の機能のはずのチュートリアルを中ボスクラスにまで使おうとする俺。


『炎等、火系統の魔法は効きません。』

【チュート】様は当たり前の事を言う。

「それは俺でもわかる。」

『それに硬い鱗は、普通の剣では傷を付けることは出来ません。』

「それも、わかる。」

『また、あの背中の翼で空を飛び、尻尾は鞭の様にしなって攻撃に使われます。』

「いや、そんな事は聞いていない。」

『炎のブレスは直接当たれば死にます。』

「…」

コイツ、俺を舐めてるな。

と頭で思ったら、【チュート】様はこれにも答えてくる。

『いえ、ヒロシ様が、城のダンジョンを楽しまれていましたので、少し苦戦してみれば楽しんで頂けるのではないかなと…』

「こらー!別にそんなところ忖度そんたくする必要はない!俺はそんな当たり前の事を聞いているんじゃない!奴の倒し方を聞いてるんだ!」

『そうですか、了解しました。では、お答えします。ドラゴンは逆鱗げきりんが弱点となります。逆鱗の位置はドラゴンの耳の後ろとなります。』


あーなるほど、確かに…心臓のあたりが弱点かと思いきや、そこは頑丈な硬い鱗が護っていて普通の剣などは刃すら通らない。

逆に耳の後ろは耳とともによく動く場所であり、鱗も小さく、刃が通りやすい。

ドラゴンの体の構造はわからないが、この部分は人間で言えば呼吸を司る頸動脈にも近く、弱点と言われれば納得である。


だが、俺がドラゴンに攻撃を加える前に、奴から炎のブレスが飛んできた。


あわや直撃かと思われたが、スキル【自動絶対防御】が発動し、完全に炎をシャットアウトする。


「【氷刃《ひょうじん》】!」

俺は水魔法の上位魔法である氷魔法で空中に短剣の様な形の氷の刃を展開した。

そして、硬い鱗にも負けないように硬度を上げてからドラゴンにそれを放った。

360度全方位の角度から放たれた氷の剣はドラゴンに無慈悲な攻撃を与える。

それは俺の魔力が無限のため、相手の急所に氷の短剣が突き刺さって倒れるまでマシンガンの様に魔法は打ち続けられたのだった。

とうとう弱点の『逆鱗』に魔法を受けたドラゴンは形を保ち続ける事なく、そのまま次第に消えていった。

このドラゴンは最後に死体が残らず、消えてしまう特徴からみて、恐らく魔法で作られたものか、召喚獣かどちらかの可能性が高かった。

魔法なら魔方陣等に魔力が溜まれば再び、展開出来るだろうし、召喚獣は、少しでも体力が残っていれば、その召喚状態をキャンセルして元に戻せば再び使用することが出来る。


この召喚獣と言うのも、元々がこの世界のシステムかどうか怪しいものだ。


と言うのも、このシステムは、その昔、ウルトラセ○ンというヒーローもののテレビ番組で、主人公がカプセル怪獣を取り出すときに使用していたシステムであり、俺も小説に使わせてもらっていた。


まあ、このシステムはその後の日本のアニメなどに多大な影響を与えている。

例えばポ○モンとかなんかはモロでしょ。

名前は違えどある意味『召喚獣』ですから。

まあ、今の漫画やアニメなどは混沌としているから、『どこかで、誰かが書いてそうなストーリーや設定』は至るところにある。

今の異世界もののライトノベルの題名なんかはその最たるものだろう。


『転生した異世界のオッサン賢者はスローライフを夢見ながら、無双勇者と無敵魔法使いとドジっ子エルフに役立たずと罵られながらも、復讐のために死に戻りのスライムが神からチート能力をもらう。』

等という全く訳がわからないが、一見興味をそそる題名に読者の読書意欲を掻き立てさせ、それに引きずられてついつい見てしまうという、無限ループに陥らされ、結局、中身のない物語に疲れ果てさせられるという訳だ。

いかん、俺は一体何の話をしているのだ。


『召喚獣の話です。』

いや、【神の導き手】さん、そんなツッコミいらないですから。


「ふー、やれやれ。」

俺は、ドラゴンが消えると、

【特殊魔法 召喚】

を思い出した。


そして、それとともに、先程まで上層の一階部分のように見えていた場所が、再び、石組みのフロアに戻る。

幻想魔法であったようだ。


『【特殊魔法 幻想】を取得しました。』

あー、もう何でもありだな。

こう突っ込むのも何回目だろうか。


とにかく俺はフロアの階段を上に上がっていく。

そして、ようやく上層部分に到着した。


建造物の造りなどは先程のものとよく似ているが、幻想魔法と違って、ここでは青い空が見えた。

それに、さっきは無かった巨大な城が目の前にそびえ立つ。

また、少し高い場所から城壁の外を見たところ、眼下に小さくアズニュート火山が見え、遠くの地平線から周辺の景色までが一望出来る程の高さまで浮かんでいた。


こんな景色を見るのも旅行で飛行機に乗って見た以来だな。

と思った瞬間、再び【神の導き手】さんの声が…


『【スキル 宇宙衛星】を取得しました。』

いやいや、何だそれ?俺はそんなスキル聞いたことないぞ、と言うかそんな設定したこと無かったと思うが…

『というか』ばっかり言っている様な気がする。

で、どんな能力なんだ?その、えーと?

『【スキル 宇宙衛星】ーーこれは自動地図作成機能の派生スキルで、遥か上空から世界を俯瞰する様に何でも見ることが出来ます。対象範囲は全世界で、これは人や物を探したりすることが主な能力で、建物内でも透過して見ることが出来ます。なおスキルが進化すれば【神の目】というものに変化します。これは、どこに隠れていても必ず目的のものを探し当てるという能力で、【宇宙衛星】よりも発見確率や、対象の魔法やスキルによる隠蔽効果を無効化、もしくは無視して対象物を探し出します。当然、発見能力や索敵能力等も飛躍的に向上することになります。』


スゲー、何だこれ?

今の時点でもかなりすごいんだけど…

スキル名は意味わかんないけど、これ使ったら『ファングオブラビット』見つけられるんじゃね?

『可能です。』

可能かよ!

「じゃあ、魔法剣は?」

「可能です。そこに辿り着くまでのトラップも索敵済みです。」

う~ん、痒いところに手が届く~って優秀な社員かよ!

『ありがとうございます。』

考えようが、しゃべろうがお構いなしかよ!


「で、彼女達は今どこに?もしかして死んでたり?」

『いえ、生存しています。ですが、虫の息と言うところでしょうか。』

「おいおい、何だよそれ?」

『この城の落とし穴トラップに掛かり、餓死寸前です。』

「えっ?もしかして、俺、彼女達を追い抜いていたのか?」

『はい。』

「いやいや、そこは教えるべきなんじゃないの?」

『ヒロシ様の冒険を妨げては、面白味も半分かなと思いまして…』

「いや、だからさっきから言ってるけど、そんな微妙な忖度要らないし、死にそうなら教えろよ!で、何階層なんだ?」

『30階層です。』

「は?一番最初の階層じゃねーか!」

『その通りです。戻られますか?』

「ちっ、しょうがねえな、わかったよ。戻ります!」

俺は、再び元来た経路を辿り、下層迷宮を急いで下って行った。


俺は【スキル 宇宙衛星】を使用した。

確かに自動地図作成機能の派生スキルであるのか、地図機能と連動しているようで、今まで建物の内部構造の造りしかわからなかったのに、設置された罠の位置や隠し扉など構造物の状態やその気になれば素材なども完全に把握出来る。

また、当然ながら自分の現在位置から目的地までの最短ルートが表示されている。


探しているもの、隠されているものを全て明らかにするスキルって、使いようによればとんでもない事になりそうだ。

俺の想像では凄いことになりそうな気がしていた。

「何だよこれ?ほぼ神スキルじゃねーのか?」


俺は飛行スキルで30階層まで直ぐに移動する。


「この下か…」

俺が立っている場所の下に目的のパーティー『ファングオブラビット』の三人がいる。

「これは…ああ、なるほど…」

俺は【スキル 宇宙衛星】により罠の仕組みを瞬時に理解する。

トラップが作動すれば地面の床が開く古典的なタイプの罠である。


「こいつを開けるには、こうだ…」

俺はそう言って、隣で山積みとなっている金貨のひとつを手に持った。


バタン!


俺の足元の床が開き、下に落ち抜けた。

だが、俺は飛行スキルを使用しているため、その場に立っている状態で浮いていた。


破壊すれば早かったのだろうが、そうすれば、下にいる彼女らが床の構成物の落下によって怪我をしてしまうため、遠慮した。

つまり、仕掛けを作動するだけなら、罠の構造物は下まで落ちず、途中で止まっているし、時間が経過すれば再度仕掛けは復元され、元に戻るため、破壊などという無駄な行動は必要ないと判断した訳だ。


俺は静かに落とし穴を降りていく。

穴は垂直に落下しているのではなく、途中で転がりながら、指定された目的の場所へ落ちるようになっていた。

これは、色々な場所で設置された罠に掛かった者達をひとつの場所に集めるような構造になっていた。


「なんか、大きな生き物がいるな。名前が『ビッグゲコ』?大ヤモリか。」

『この城に住む魔物と判断します。』

「のようだな。彼女達に近付いているようだ。今まで食べられなかったのは、爬虫類系統だから食事の間隔が長くて助かっていたみたいだな。」

『正解かと…』


「よっしゃ!やったるで!」

何度も言うが、俺は【スキル 超人】によりスーパー○ンの能力を持ち合わせている。

はっきり言ってこれだけでも、完全にチートな存在だ。

その中でもパワーと瞬間的に移動する能力はずば抜けている。


俺は一瞬で、彼女達がいる最下層フロアの底辺部分に到着した。


【神の導き手】さんによるとビッグゲコは大きいもので体長が10mくらいになるらしい。

ここにいる奴も8mくらいはありそうだ。

また、【スキル 宇宙衛星】の力で、ビッグゲコは体内に毒を持っていることがわかっていた。

解説が遅れたが、このスキルは、『探しているもの、隠されているもの』を探し出す能力である。

なので、一見してわからないような魔物の体の情報も『探せば』瞬時にわかるというわけだ。


その魔物がファングオブラビットのパーティーに近づいている。

既に彼女達もその存在に気付いていたが、体力が無いのか、抵抗もせず、怯えてしまって後退あとずさりしている。

その、後退りでさえ力が無く、ほとんど動けていないのだが…

剣士のカナリア、魔法使いのスズメ、斥候のインコ、いずれも10代中頃から後半といった若い女性のパーティーだった。

何だよ、もっと熟練の熟女パーティーかと思ってたよ。

俺は体は18歳だが、思考年齢は45歳だ。

若いし、可愛い女性だといってもあれは俺の好みではないので恋愛の対象外だ。

俺の好みならもうちょい上だな。


だからといって彼女達を助けない訳ではない。


俺は氷魔法のひとつ【瞬間冷凍魔法】でビッグゲコを瞬時に凍らせる。


これは、ドラゴン戦の時に使用した氷魔法を展開する時に思い出した魔法のひとつで、これなら毒が周囲に飛び散ることもなく安全に討伐処理できる。


さて、今度は彼女達の救助だな。

俺は怯える彼女達に近付いて行った。

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