第6話 ドラゴンが棲むと言われる山
俺は【チュートリアル】様、略して【チュート】様の言うことを無視しつつ、ドラゴンが住んでいると言われる、アズニュート火山へ、【スキル 超人】の飛行能力ですっ飛んできた。
地図機能で見たところ、イドンの町からアズニュートまでの距離は約300km以上はあるが、流石超人、あっという間であった。
ここへは冒険者ギルドの冒険者パーティー『ファングオブラビット』のメンバーを探しにやって来ていた。
まずは、目的物である、山の中腹にある六芒星の石碑を探すことだった。
火山といってもこの火山はかなりデカイ。
恐らく、富士山くらいは優にあるのではないかと言うくらいデカイ。
なので、どのくらいの大きさの石碑なのか知らないが、探すとなればかなりの時間がかかると思われた。
しかし、何ということでしょう。
俺の地図画面にアズニュート火山を映し出したところ、石碑の名前と位置が地図上に表示されていたではないか。
優秀過ぎる、もう、何も言うまい。
俺は地図表示のあった石碑の場所に移動した。
周辺は火山から洩れ出る火山ガスの臭いなのだろうか、硫黄の様な臭いが辺りに立ち込める。
噂のドラゴンはこの中腹辺りにはいないようだった。
元々生息数が少なそうなので、こんな大きな火山で遭遇する機会は少ないのかなと思われた。
まあ、もっと上の方に行けば、会えそうだが、生憎、今はドラゴンに付き合っている暇はなかった。
「おお!見つけた!」
その石碑は思っていたよりも小さかった。
まあ、確かに動かして向きを変えなければならないような石碑ということなんだから、もし巨大な石碑なんかだと、普通の人間の力では動かすことも出来ないだろう。
とりあえず見つけた石碑は高さが約1m程、形は一辺が30cmくらいの四角柱で、4つある側面のうち、一つの面に、正三角形の一辺同士がお互いに逆を向くような格好で2つ重なっているマーク、いわゆる六芒星のマークが刻まれていた。
俺はそれを例の羊皮紙に書かれていたように、動かして正面を少しだけ南に向くようにした。
南の方向については、地図の機能に方角表示機能というものがあるため、それを見ながら石碑の位置をずらす。
石碑の正面の位置については六芒星のマークのある面を正面だと判断した。
「カナリア達もここまでは来ているのかな?」
俺がイドン支部で最初に確認したのは、彼等がクエストを受注した日にちだった。
というのも彼等が受注した日が最近で短ければ、それはまだ彼等が山にすら到達していないと言うことであり、目的地がこのような遠くの火山であれば、ここに来るまでの日数やクエストを処理する時間、帰るまでの道のりに掛かる時間等を計算してからのこととなる。
一応、このクエストの期限は6週間だったが、案の定、彼等がクエストを受けてから、既に2ヶ月以上が経過していた。
ギルド長の話では、快速馬車を使えば早く到着するらしいが、彼等がどの様な移動手段を活用したのかは不明であった。
俺が石碑の向きをずらして、しばらくそこで待っていると、辺りが急に暗くなってきた。
暗雲が立ち込め、雷が鳴り響く。
「おー何かやってきたぞ!」
俺は、上空を見上げた。
それは城なのであろうが、俺のこの立ち位置では、その姿の全容は見ることは出来ない。
何故なら、あまりにも巨大すぎるのと、建物の真下のため、見えるのは城の底辺部分だけだからだ。
『天空城トランクラージュ…その昔、雲の国ヌビアを支配した王国の城。』
【神の導き手】の解説が入る。
俺は、目の前に、その城の底辺部分から垂れ下がる鎖でできた梯子が城の降下と共に降りてきたので、それが垂れ下がる入口まで飛んで行く。
梯子の長さは、20m以上はあろうか、結構長い。
城自体があまり下まで降りてしまうと本体部分が山の斜面にぶつかるからなのだろう。
俺は浮遊した状態で城の内部に入り込んだ。
その瞬間だった。
開いていた入口部分が大きな音を立てて閉まった。
既に梯子は内部に回収されていたのか、俺が城内に入って直ぐの事だった。
入口の扉は頑丈な鋼鉄製とでもいうのか、見慣れぬ金属で出来ていた。
明らかに罠だ。
欲望で人を誘い込み捕らえるという仕掛けである。
ゴキブリを捕まえる罠の人間版というところだろう。
最初に入った所は入口の部屋とでも言えばいいのだろうか。
そこは何の変哲もない石壁で出来た部屋であった。
その入口の部屋は二重扉構造になっているためなのか、外には直ぐに出ることは出来ない様になっていた。
「まあ、中を探索してみるか。」
俺は、さして焦ってはいない。
この世界に転移してきてから得られた強力な能力による万能感は、何かゲームをしているような感覚で俺の精神を満たしていた。
まあ、考えても見てくれ、こんな体験、他では出来ないぞ!
ということで、俺は、城の内部へ足を進める事にした。
腐臭やカビ臭さというようなものは一切無いが、所々に人骨と思われる骨が転がっている。
ここから出ようとした人間のものなのだろうか。
俺は底辺の入口の部屋にあった外部の扉とは違う、反対側の壁にある内部の扉から部屋を抜け出た。
そこにあった狭い通路には特に危険な仕掛けは見当たらなかった。
しばらく通路を歩いていると、目の前が急に開けた。
そこには、大きなフロアが広がっていた。
窓は見当たらないが、外部からの光が差し込んでいるのかのように明るい。
壁にはルビー、サファイア、エメラルド、トパーズ等の宝石が散りばめられ、壁を支える柱は巨大な水晶で出来ていた。
また、床面には山のように積み上げられた金銀財宝があった。
「罠だな。」
そう、明らかな罠である。
あの羊皮紙にも書かれていた。
『天空城内では様々な誘惑があるが、誘惑に負けてはいけない。誘惑に負ければ二度と望むものは手に入らないだろう。
そのためには絶対に目的物以外の物には手を触れない事が賢明である。』
そして、そこにはそれらの財宝に触れたかどうか定かではないが、人間のなれの果てと言うべき、人骨の山もあった。
普通、そんな光景を見れば、ここに何か仕掛けがあると思わなければならないのだろうが、人間の欲とは恐ろしいもので、目の前の宝物を見た瞬間に忘れてしまうのであろう。
まあ、カナリア達もあの羊皮紙の警告をみていることだろうし、そんなに馬鹿ではないだろう。
ということで俺は、その財宝の山を横に見ながらさらに奥へ進む事にした。
幸いにも、フロアの奥に扉を見つけた。
鍵は掛かっていない。
恐らく、財宝に手を出した瞬間に鍵が掛かる仕掛けなのだろうか。
俺はそこからフロアを出て、目の前の廊下をさらに進む。
俺の自動地図作成機能がようやく作動し始めたようだ。
城の内部構造を解析して部屋の状態や階層等も立体的に表示している。
やはり、かなり優秀過ぎる。
城の全体像も解析が終了したようで、確認したところ、城は、今、俺がいる30階層からなる
基本的に下層の構造物内部には窓といったものは無いようであるが、そのほとんどが先程のフロアと同じ様に外の光を取り込んでいるかのように明るく、歩行に支障は全くない。
だが、窓が無いため、外に出て上までショートカットすることは出来なかった。
もしかすると、その為に窓が無いのかも知れないし、もし壁をぶち破って外壁を伝って上に登ると、ルール違反になってしまい、彼女らに会えなくなるかもしれないから、壁を破ることは見送った。
迷宮はかなり入り組んでいて、その進路には必ず、人の欲望を掻き立てるように金貨や宝石などが積まれていた。
流石に、最初は警戒していた人間も、こう度々、無神経に財宝が目の前に現れると警戒心も徐々に薄れついつい手を出してしまうのかもしれない。
ある意味、恐ろしく罠であった。
俺としては逆に、この金貨に一枚でも触れれば、どんな罠が出てくるのか、そちらの方に興味があった。
そして、俺が驚いたのは地下の第一階層に辿り着いた時であった。
そこは、上層一階となる部分だと言わんばかりに、平地部分に周囲が城壁あり、綺麗な植樹や花畑が作られていて、上層と思われる様な景色になっていた。
だが、ここはまだ、地下の第一階層だ。
俺の地図機能がそう表示している。
上層階ではない。
そしてさらには、少し開けた場所に『人』がいた。
メイド、つまり使用人のような服装をした女性が立っている。
そして俺に声を描けてきた。
「ようこそ、トランクラージュ城へ。」
と言って、軽く会釈する。
そして、その使用人は続けて、
「ここまで、大変だったでしょう。お腹を空かされていましたら、お食事を御用意しております。どうぞ。」
と言って、立っている側にあるテーブルを指した。
そこには豪華な料理があった訳ではなかった。
俺の大好きなカレーライスだ。
子供と呼ぶなら呼んでくれ!
俺は転移前の心残りは好物のカレーライスが食えなかった事なんだから!
ん?好物のカレーライス?
何で、こんなところにカレーライスが?
ここは異世界、それも中世ヨーロッパを俺は設定していたはず。
カレーライスなど異世界情緒をぶち壊すだけではないか。
なのに何故?
そこで導き出されたのは…
『罠だ…』
しかし、何とも人の欲望や願望をこれほど揺さぶる罠は今まで経験したことがない。
『それなら…』
こちらもこちらで手は打たせてもらう。
「【神の導き手】よ、これは一体どういう仕掛けだ?」
『はい、これは人の思念を読み取り、本人が一番欲しがっているものを提供するという仕掛けとなっています。』
ぶほっ!
テンプレートとは言え、そんな恐ろしい仕掛けだったとは!
人の深層心理というよりも本能に働きかけるというとんでもない罠だな。
地図機能を確認しておいて良かったなとつくづく思う。
そして、俺はその使用人の側を通り抜けようとした。
『これで下層とはおさらばだな。』
俺がそう思った瞬間だった。
が、そうは問屋が下ろしてはくれなかった。
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