第5話 雲を掴むような変わった依頼
とにもかくにも、俺は、身分証明書を発行してもらい、イドンの町に入る事が出来たのだが、町は中世のヨーロッパを想像させるような町並みであった。
また、後で聞いたところ、先程の爆裂魔法の轟音はイドンの町長の耳にも届いていたらしい。
まあ当然なのだが…
当然、直ぐに町長の使者が検問所にやって来て、事情を説明しろと大騒ぎをしていたようで、兵士達は、先程の爆音は自分達の不手際であり、もう済んだことだから良いだろうと言って使者を追い返そうとしたが、そんな事で帰るような使者ではなかったらしく、その使者が兵士達に、
『あれは一体何の音だったんだ?!私もこのまま帰ったのでは町長に報告が出来ない!』
とひつこく食い下がったため、土下座兵士らはしぶしぶ、先程の出来事を説明したらしい。
俺はこの時、既に町の中に入って、飯屋で飯を食っていたのだが、検問所の兵士達が使者を案内して、俺が飯を食っている飯屋までやって来たのだった。
俺は一応、町に入るとき、
『どちらに行かれますか。』
と兵士達に行き先を聞かれていた。
俺は腹が減っていたので『美味い飯屋』に行きたいのだがどこにあるのかと尋ね、教えてもらった。
それが、この店『チャバネゴ亭』だった。
名前を聞いた瞬間、鳥肌が立ち、行こうかどうか躊躇したものの、カイナド村の質素な食事よりはマシだろうと思い直し行くことにした。
結果は最高だった。
まさか、こんなに美味い店だとは思わなかったので、涙が出た。
カイナド村の者には悪いが、あの村で出された食事は俺には質素過ぎた。
確かにさあの時は芋一本でも感謝したが、とにかく俺は、この世界に転移してから、今のように、まともと言えるような食事をしていなかったので、この店の料理に感動し、打ち震えてしまった。
そうしていた時に、兵士達が町長の使いを店まで案内してきたのである。
「ヒロシ様!」
使者は若い20代中頃の男で、金髪の短髪に黒色の背広のような服を着ていたが、俺の所にやって来るなり、土下座をした。
名前はゴニューと言うらしい。
どうも昨日から俺に土下座する奴が増えているようだ。
「賢者ヒロシ様、聞くところによると私共の町の衛兵が賢者である貴方様に大変失礼な事をしたと聞き及びまして、こうやって謝罪に参りました。なんでも先程の爆音はあなた様の魔法の音であったとか?我が町にあの様な恐ろしい魔法を使用されていたならば、間違いなく、町の大半の人間は死んでいたでしょう。それをあなた様のお慈悲により、魔法の威力を見せ付けるだけに終わらせて頂いたこと、誠に有り難く存じます。今回の事案につきましては、衛兵を指揮しております私の不徳の致すところであり、…」
口上が長げえ!
俺は飯の途中で邪魔されるのが一番嫌いだ。
なので、途中で止めさせる。
「ちょっと待て、で、結局、君は一体何が言いたいのだ?」
と俺が言うと、使者の男は直ぐに答える。
「はい、出来うるならば、私共の町の
「あっそ。それならちょっと飯が終わるまで待っててくれるかな?」
と言うと、その使者はようやく俺の思っていることを理解したようだった。
「し、失礼しました。」
使者は直ぐに店を出て、俺の食事が終わるまで店前で待機していた。
俺の飯が終わる頃再びその使者は店内に入ってきた。
「先程はお食事中のところ大変失礼しました。それで…私の申し出の方は、いかがご返答頂けますでしょうか?」
と使者が聞いてきたので、俺が逆に尋ね返す。
「お前のところの町の長とは、どんな奴なんだ?」
と言ってゴニューに町長の人と成りを確認する。
ゴニューは俺に、
「私の見る限りでは人格者だと思いますが。」
と応えてきた。
「そうか、ならいい、別に会わなくても良いだろう。」
と俺も答えた。
「いや、しかし…」
「マトモじゃなかったら会ってやろうと思ったのだがな。」
「えっと…それは一体どういう?」
「そのまんまの意味だ、くだらない奴ならお灸を据えてやろうと思ったんだがな。」
と俺がニヤリとしながら言うと、ゴニューは、
「ご、ご冗談を…」
と言って引き吊った愛想笑いを見せる。
「まあいい、俺もこの町にそう長居をするつもりがないのでな、すぐにお
「そうでしたか…それは残念です。」
そう言うとゴニューは俺に一礼して店を出ていった。
俺は、その後、兵士から聞いた冒険者ギルドというところに立ち寄っていた。
この冒険者ギルドには冒険者として所属していなくても、駆除、討伐した魔物等の素材の査定と買い取りなどをしてくれる部所があると聞いていたので、インベントリの中の素材を売りに出すことにした。
魔猪の肉はカイナド村に渡してきたので、インベントリ内に残っていたのは、魔猪の毛皮の他、カイナド村でアズキに見せたゴブリンの死体とウルフの死体等であった。
ゴブリンは討伐の報酬のみで素材の買い取りは無かった。
魔物化したウルフは毛皮と牙が買い取り対象となっていた。
ある程度の金額で買い取りをしてもらえたので俺は満足したが、その後、俺はこのギルドで、ひょんな頼み事をされる事になった。
それは、ギルド長、つまり冒険者ギルドの一番偉い人だ。
髭を生やしたこの御仁は、名をヤイダルといった。
しゃべりは冒険者に有りがちな話し方だが、特に偉そうにしている訳ではないので、『お前』と言われようが、今回はスルー事にした。
ヤイダルから、この町にある冒険者ギルドはイドン支部というらしいのだが、先日、クエストを受注したパーティーのひとつが帰って来ていないらしい。
そこで、『爆裂魔法を使用して検問所の兵士を土下座させた俺』の噂を聞き付けたギルド長のヤイダルが、俺の実力なら捜索を任せても大丈夫だろうと依頼をしてきたのだという。
「で、そのパーティーとやらは?」
「パーティーの名前は『ファングオブラビット』という三人組で、リーダーはカナリアというB級の女剣士だ。」
「『ファングオブラビット』、つまり『ウサギの牙』ねえ、可愛いのか可愛くないのか…それで、どんなクエストを受けたんだ?」
「それが、雲を掴むような変わった依頼でな…」
「雲を掴むような変わった依頼?」
俺は、ヤイダルが芝居掛かった様に適当に言ったのだと思っていたが、そうでもないようだった。
その依頼というのは、
『天空城にあると言われる伝説の魔法剣を探すこと。』
であった。
さすが、ファンタジーと言いたいところだが、マジでこんな依頼をしてきた者がいると言うのだから驚きだ。
で、肝心のファングオブラビット達の消息なのだが、かなりというか、ヤイダルの話では結構具体的な情報が入っていたようで、それを元に探しに行ったのだと言う。
・アズニュート火山の中腹に建っている六芒星の石碑の正面の位置を少し南向きにずらして待てば、天空城は、跳び跳ねて掴まれば乗れる程、近くの頭上にやって来る。
上を見ると入口が見えるので、そこから天空城に入る事が出来るであろう。
・天空城内では様々な誘惑があるが、誘惑に負けてはいけない。誘惑に負ければ二度と望むものは手に入らないだろう。
そのためには絶対に目的物以外の物には手を触れない事が賢明である。
この文章はこの国のある所から掘り出されたもので、頑丈な金属で作られた箱の中に入れられていた羊皮紙に書かれていた。
「アズニュートと言えばドラゴンが棲んでいると言われる火山だろ?そんなところに行ってこいって。依頼人も変わった依頼を出したもんだな。」
と俺が言うと、ヤイダルも、
「確かに、普通、こんな危険な場所には誰も行きたがらないし、こんなクエストなんかは命あっての物種という感じだから受注する者もあまりいないんだが、カナリア達がどうしても行きたいとゴネてな。まあ、行き方についてはこの通り、かなり具体的に書かれてはいるが、帰りの方法が書かれてはいない。これは何かの罠か何かだと思われるのだが…」
「それを確認もせずに彼女らは出発した。」
「ああ、若いというべきなのか、無鉄砲と言うのが正しいのか…私もあの時必死で止めれば良かったのだが…」
「で、依頼人というのは一体?」
「うーん、それはギルドの方では守秘義務があるので、言うことはできないのだが。」
「わかった。とりあえず、俺もアズニュート火山へ向かうことにする。」
「すまないな。初めて会った冒険者登録すらしていない者に頼むのは心苦しい限りだが、他に頼めるような力量を持った者がいなくてな。」
「気にするな、じゃあ行ってくる。」
こうして俺は、人探しならぬ、パーティー探しのためにドラゴンが棲むと言われているアズニュート火山に向かうことになったのである。
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