第28話 王の間突入!
俺はオウルソングの案内もそこそこにドンドンと王の間に向けて足を進めていた。
「ちょ、ちょ、ちょっと、ヒロシ様!?えっ?えっ?なんで?」
オウルソングは俺が迷いもなく王の間に足を進めている事実に気付いていた。
そして、とうとう王の間の前に到着した。
当然ながら扉の前には守衛の騎士が二人、扉の両側に立っている。
俺の隣にいるオウルソングを見て、
「どうしたのですか?オウルソング様?」
流石に部隊の隊長だけに顔を知られており、守衛騎士も敬語を使う。
「あ、いや、ええい!もうこうなったら、私も腹を括りますよ!」
オウルソングはそう言って、守衛騎士に対し、
「こちらはイリノス王国ヒロシ大公爵殿下でございます。火急の事態に付き、国王のお目通りを願いたい。」
「は?えっ?ちょ、しばらくお待ちくだされ!おい、お前聞いていたか?!」
と守衛騎士は隣の騎士に確認する。
「えっ?いやあ、おれは何も聞いていな…」
その騎士が答えようとしたときに俺は既に【スキル 超人 高速移動】で彼等の横をすり抜け、扉を開けていた。
「えっ?」
まあ、驚いたのは守衛騎士だけではない、オウルソングも流石に、いきなり俺が扉を開けるとは思ってもみなかったようだった。
バーン!
扉が勢いよく開く。
王の間にいた者達の視線が一斉に俺の方へ注がれる。
「何者だ!」
王国騎士団長のドリエル・コネクリオが剣の柄に手を添えこちらを恫喝する。
「お待ちください。ドリエル様!」
オウルソングが俺の前に進み出る。
「貴様はオウルソング!?無礼であろう!ここが王の間と知っての事か!?」
「いえ、こちらにおられますのはイリノス王国大公爵のヒロシ・オハラ・イリノス様でございます。火急の要件でこちらに出向かれたと申され、国王へのお目通りを…」
オウルソングがそう言うと、王の間がざわつく。
「あのウィルマジス王国を落としたと言われるメテオ賢者か?!」
なんだその二つ名は?
メテオ?隕石?
ああ、なるほどウィルマジス城に飛び込んだ時の事を言っているんだな。
「まさか、何で、こんなところに?!」
「今度はこの国を潰しに来たのか?!」
等と、王の間にいた王族や貴族達が口々に囁く。
流石にこの国を潰すことはないのだが…
そんな中、ざわつく周囲を制したのは大魔導師ウィーダリーだった。
「お静かになさいませ、皆々方!王の御前でございますぞ!」
その声を聞き、ざわついていた王の間が一瞬で静かになる。
そして、ウィーダリーは俺の前に進み出て、
「ヒロシ様、ようこそアレリカイア王国にお出でくださいました。ただ、少々、強引なお越しでございましたな。」
と少し嫌味がかった口調で俺に言う。
なので、
「そうだな、だが、俺の爵位を知りながらも、俺にその様な態度を取るとは、お前も命知らずだな。」
と【スキル 威圧】を併用して返してやる。
ウィーダリーはハッと気付いたのか、直ぐに俺に跪く。
「こ、これは大変失礼しました。」
既に顔色は真っ青になってきている。
当然ながら俺は、大賢者でありながらイリノス王国の大公爵という地位をもっている。
大魔導師のウィーダリーとは立場が全くちがうのだ。
いくら急な訪問と言えど、国の王族に対して口の聞き方がある。
先程のウィーダリーの言葉遣いであれば、普通なら今の時点で国交問題となり、俺に殺されても仕方がないレベルなのだ。
それに、他の者も同様にそれに気付いたのか王族の者達は頭を下げる。
「ヒロシ殿!」
そう言ってきたのはアレリカイア国王シングレアス・フォルト・アレリカイアであった。
「大変失礼した。火急の要件とか?」
俺はシングレアスの対応力の柔軟さに頷きながら、
「実は、今ここで行われていた『魔族』の話についてなのだが…」
俺がそう言うと、再び王の間の中がざわつく。
「どうして、それを?!」
シングレアスが驚いて尋ねる。
「少々、面倒な話なので難しい事は省略するが、俺は先程までフォーレイヤの町にいたのたが、あそこには、この国が危惧していたような魔族はいなかったということを伝えようと思ってな。」
「な?、何ですと?それはまた一体?」
「それは、もう解決したと?」
シングレアスに続きとウィーダリーが口を開く。
自分を頼ってマーケイが送ってきていた手紙の事を少なからず気にしていたのだ。
「ああ、それはもう済んだのだ。それよりも、トゥレイヤの町の件について少し話を聞きたいのだが?」
「な?そんなことまで、一体あなた様はどこまで、知って…いや、どのようなお力をお持ちなのですか?」
トゥレイヤの話は今、宰相からこの場で初めて聞かされた話であり、流石の大魔導師ウィーダリーも他国の情報をヒロシのように、リアルタイムで知る様な魔法は持ち合わせていない。
当然ながら、その力について尋ねたいのは自然なことだろう。
だが、あまり自分の力の秘密を他人に教える馬鹿はいない。
まあ、俺の能力は教えたところで、人間レベルではどうすることも出来ないだろうが…
宰相のローデスト・グレイアスがシングレアスに確認する。
「シングレアス様、いかが致しましょう?」
「うむ、構わん、説明を…」
国王のシングレアスが了承すると、ローデストは頷きながら俺に説明を始める。
「では…、現在のトゥレイヤは厳戒態勢を取っており、外周騎士団第二部隊を配置しております。また町の者は別の町に避難している者もおりますが大半は町に残り、建物内で息を潜めている状態であります。この町に出現した魔族については一人だけですが、状況からワンレイヤの町に出現した魔族の者とは別の者と推測されております。使用する魔法は火魔法を主とした火炎の魔法で、後は氷魔法等も使用すると報告されています。攻撃方法は空中に浮遊しながらの攻撃のため、兵士達の攻撃が届かず、相手から攻撃をされるがままであったと…」
「なるほど、ではそいつは俺が始末してやろう。」
「な、なんと、それは誠ですか!?」
シングレアスがその言葉に驚く。
ウィーダリーも驚きながら、
「ヒロシ様!いくらなんでも、相手は魔族ですぞ!いくらヒロシ様が強いと言われましても、所詮は人間が持つ魔力…到底敵う相手ではございますまい。ここは、私共と連携して頂き…」
「いらん!」
「は?えっ?」
ウィーダリーが俺の言葉に驚き、ポカンと口を開ける。
「必要ない。俺だけで十分だ。もし、何かあってもいけないので、俺の従魔を置いていく。」
「えっ?じ、従魔?置いていく?」
ウィーダリーはさらにキョトンとした表情となる。
俺が連れているのはどう見ても人間の少女だけだから、そう思うのは仕方ないが…
「おい、ミラージュ、お前はここに残って、もし魔族が来たら皆を守れ。」
「あい、わかりまちた。」
と言って得意の敬礼をした。
それを見て王の間にいた者全員が驚く。
「えっ?!こ、子供、というか少女が従魔ですと?えっ?あれ?ヒロシ様?」
俺は、既に王の間を【スキル 超人】の超高速移動でトゥレイヤの町に向けて移動していた。
恐らく、彼等には全く俺の姿は見えなかったであろう。
あたかも目の前から一瞬にして消え失せたように。
俺は、移動中、魔族のロウミオの事を思い出していた。
それは、ロウミオに対して人間の住むテリトリーに現れた本当の理由を確認した時の事であった。
俺が確認したかった事、それは、本当の魔族の動きだった。
俺は、魔族であるロウミオが人間の世界に接近していたことに不審を抱き、ロウミオをジュリアナから引き離してロウミオから事情を聞いたところ、実はロウミオは、魔族の王、つまり、『魔王』の命を受けて人間の町を探りに来ていた事がわかったのだ。
それも、侵攻を前提とした調査であり、後三日を期限として魔王に報告を上げ、侵攻しやすい町や、王国の王都に向けた侵攻ルートを決定するための調査であったらしい。
魔族の者は一人でもかなりの戦闘力を持っているので、何故そんな面倒臭いことをするのかと言うと、時々、人間達の中には『勇者覚醒』した者が生まれる事があり、もし、この勇者の能力が覚醒した者が国に生まれているとなると、例え魔族であったとしても国の侵攻がたちまち困難になるからだと言っていた。
そのために、攻め込む前に綿密な調査をして勇者がいないことを確認してから実行に移す予定であると説明した。
だが、ロウミオは元々、戦うことがあまり好きではなく、さらにジュリアナに出会って恋に落ちてしまい、もう魔族の集落には戻れないと話していた。
それに、自分が報告をしなくても、自分が死んだと判断されれば、別の誰かが報告し、いずれは侵攻は実行されるので、このフォーレイヤの町が、攻め込まれることを危惧していた。
そのため、俺はロウミオに、魔族の集落の事は自分が何とかしてやると約束して、フォーレイヤを離れたのだ。
ロウミオの話では、戦闘になるならば、特に注意すべき魔族が自分以外に二人、他の町へ調査に向かっていたという。
ロウミオは異端児というかこの世界がイメージする魔族らしくない。
魔族らしいと言えば、その二人の魔族の方が魔族に近い凶暴性や残虐性があるという話だ。
そして、その攻撃性を顕著に示したのがトゥレイヤの町に現れた魔族であったという訳なのだ。
ロウミオから二人のうち一人はドルマグオルと言い、恐らくこれはかなりの力自慢だが、殺しを好む性格ではないらしく、話からこちらがワンレイヤの防護壁を破壊した者だと思われた。
そして、もう一人のレオルゲイラという魔族の男は冷酷無比、人間を殺すことに何ら
なので、こいつがトゥレイヤを襲ってきた奴だと思われた。
「やれやれ、魔族退治か、同族のロウミオに悪いが、仕方ないな。」
俺は移動と同時に【スキル 魔神眼】でレオルゲイラとドルマグオルらがアレリカイア王国の町を再度攻撃したら『死の呪い』の魔法が発動展開するように設定する。
それに、既に【スキル 魔神眼】に進化した時にロウミオの所属していた魔族の集落は探し終わっており、ここに住む全ての魔族の位置を把握していたので、それらが、人間に対し『殺気』を持った時点で『死の呪い』が発動展開するようにした。
あれ?と言うことはもう、別にトゥレイヤに行く必要無いんじゃね?
『正解です。』
あらあら、【チュートリアル】さん、やっぱりそうですか。
ですよね。
じゃあ、アレリカイア城に戻ろっと…
『………』
と一旦、そうは思ったが、流石に魔族の奴等も理由もわからず死んでいくのも不憫だろうと思い直した俺は、
「やっぱり、警告くらいはしといてやるかな。」
と考えを一転して魔族の集落に行くことにしたのだった。
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