第29話 魔族達への警告

俺は、魔族が人間の国に攻め込む前に全員が死ぬという恐ろしい『死の呪い』の魔法を魔族全員に施してしまったが、それでは余りにも理不尽過ぎると言う事で、一応、魔王さん達に警告をしに行くことにした。


魔王以下、魔族の者達が住む集落は、アレリカイア王国の西にある『神の隔壁』と呼ばれる超巨大な絶壁の中腹にあった。

余りにも巨大で、垂直の壁が何千mも続く危険な絶壁のため、人間には到底登ることは出来ないし、魔物でも余程の強さを持っていないと住むことすら出来ないとさえ言われている。

そんな絶壁の非常に硬い岩盤に横穴を掘り、彼らは住んでいた。


俺は【スキル 超人】の超高速移動と飛行を使用して、一気に彼等の集落となる、絶壁の横穴にやって来た。


横穴の大きさは高さや幅が10mを超える大きな穴であり、形状は横長の長方形をしていた。


入口付近には、一応と言うか、番人と思われる魔族の男が一人だけ立っていた。

まあ、こんなところに上がってくる物好きな奴もいないだろうし、もし、ここに登って来る者がいたとしても、彼等の方が恐らく強い。

魔物であっても魔熊程の強さ以上でない限り、彼等をどうこう出来る者はいないからだろう。


まあ、俺には全く関係ない話なのだが、とりあえず騒がれても面倒臭いので、【気配隠蔽】で姿を消して、番人の横を通り過ぎる。


番人も、普通はやってくる事がない侵入者をあくびをしながら待っていた。


俺は横穴集落の構造をスキルで確認して、移動する。

中は、思った以上にかなり広く造られていた。

巨大な洞窟の中に、さらに横穴が掘られ居住スペースが確保されていた。

よく確認すると俺が入ってきた横穴以外にも数ヶ所横穴が開けられ、空気を通したり、抜け穴としても利用出来る様になっていた。

まあ、そんな場所なのだが、集落というくらいだから、男女併せて200人程が住んでいた。

かなり原始的な生活をしているようで、強いがために、生活水準を上げる必要が無かったのであろう。

人間は、強い様で、弱い存在である。

そのため、まず強くしたのが『頭脳』であると言われている。

木の上に住んでいる弱い猿が、敵の多い地上に降り、自分達の生活圏を広げていく。

そのためには、頭を働かせ、道具を産み出し、知恵を絞り、武器を作り、家を建て、服を着て、食べ物を育てる。

それは、自分達が弱いがために、自分達を守るための『鎧』として産み出されていた。

こうして、人間は徐々に種族を増やしていった。


だが、彼等『魔族』は違った。

彼等は強いがために成長することを自ら止めていた。

俺はそんな彼等が、いつ頃からこんなところに住んでいるのかとか、何を食べているのかとか、色々と興味が尽きなかったが、そういう事は後に回して、先ずは彼等に『警告』を先に済ませることにした。


俺はまず魔王のいる場所にやって来た。

他の者が住んでいる部屋よりもかなり大きく造られた部屋には、何人もの女性の魔族がはべっている。

そして、本人の前に移動する。

魔王は岩盤を平らにしたところへ獣の毛皮を敷き、そこをベッドにして、間抜けな顔をして寝ていた。

体格などは俺達とあまり変わりがないが、魔力の量や骨、筋肉等の密度が、ロウミオ等、他の魔族に比べて非常に高い事がわかる。


イゴウルス・ガルファイザー

魔族の王 年齢180歳 男性

魔族種の突然変異種で、魔力、筋力等の基本的な能力が普通の魔族の10倍以上ある。

性格は残忍、冷酷である。

妻子はいない。

全属性魔法を使用。


ほう、全属性とはなかなか、面白い奴だな。

全属性とは、火、水、土、風、光、闇等を言い、全ての属性を使えるのはかなり珍しい。


あーあー大変な奴だな。

普通の人間達なら、絶対に勝てないレベルだ。

確かに勇者と呼ばれる存在が誕生しない限りは勝てねーな。

とか思いながら俺は魔王イゴウルスに近付く。


「おい、起きろ。」

俺は、魔王の部屋の中で、隠蔽魔法を解除し、声を掛ける。

「うーん。」

魔王イゴウルスは、寝惚けているのか、反応が悪い。

こんなところに、敵となる人間がいるとは思ってもみないのだろう。

それにしても何て品の無い奴なんだ。

俺が想像する魔王はもっと悪の帝王らしく、堂々としているのだが、こうも印象が違うとは…

こんな奴が、自分の配下の者達にトゥレイヤの町の人間を殺させたのだと思うと、無性に腹が立つ。

それは、殺された者達が俺の国の人間でないにしても、兵士でもない一般の人間を殺していく様な奴は許し難いし、それを許したり指示する『魔王』と呼ばれる指揮官とは一体どんな奴なのかという気持ちがあった。


なので、魔王の顔を見ていると、段々と『イラッ』としてきた。


「起きろ!」

俺はイゴウルスの鼻を指でつまんで引き起こした。


「ぐあっ!」

イゴウルスはいきなりの事に大きな声を上げて驚く。

その声に驚き、近くにはべっていた魔族の女どもは俺に気付き悲鳴を上げて家の外に飛び出して行った。


「痛たた!!!?な、何者だ?!ん?に、人間?」

鼻を押さえながら、イゴウルスは俺を睨み付けた。


「よう、目が覚めたか?」

「貴様!!どうやって?」

イゴウルスはここに俺が立っている事に、最大の警戒心を払う。

普通であればこんなところに上がってくる人間など皆無であると思っていた。

だが、それがここにいるということは、今、自分の目の前にいる人間は『神の隔壁』を登って来たことには間違いはないのだ。


それがために、俺の実力を推し測っている様子であった。

流石魔王と言うべきだろう、イゴウルスは騒ぐ事なく直ぐに、警戒心に満ちた目になる。


「ふん、どうやってここにやって来たのかは知らんが、命知らずな奴とだけは言っておこう。」

と言うと同時に、魔王イゴウルスは、俺の直近で指から発した魔力弾を撃ち込んできた。


魔力弾とは火や水などに属性変化させる前の純粋な魔力だけのエネルギー弾であり、人間が発するものならば大したことはないのだろうが、魔王の発するそれは人間の物とは比べ物にならない程強力であった。

魔王の前で魔力弾が眩しい光を放って霧散する。

「ふん、他愛もない。」

と、まるで、俺も飛び散ったと思っているかの様な台詞を吐きながら、俺の死体も確認せずに再び寝ようとした。


「確かにな…」

俺が魔王の言葉に答える様に喋る。

その声を聞いて、イゴウルスが飛び起きる。


一応、俺は黙ってここへ侵入したので、一発くらいは奴の攻撃を受けてやった。

だが、その攻撃も『自動絶対防御』のため、それは完全に防御されていた。

また、本来、俺に対して、攻撃をした場合、『全自動反撃システム』が作動するようになっているのだが、俺は魔王と話がしたいため、魔王との話が終了するまで、『魔王』のみ、一時停止状態にしていたため『全自動反撃システム』は作動してはいなかった。


「な、何故?」

流石の魔王も、あれだけ至近距離で高魔力のエネルギー弾を喰らわせたはずの俺がピンピンしているのには驚きを隠せないようであった。

「イゴウルスよ、俺と話が出来ないようであれば、ここで死んで貰う事になるんだが…」

「何?何故、俺の名前を?どこで知った!?」

確かに会ってもいない奴に自分の名前を知られているというのは気味の悪い話だからな。

「まあ、それも俺の能力の一つだ、気にするな。」

俺がそう言うと、イゴウルスも警戒は継続しつつも、ようやく攻撃体制を解く。

とりあえずは俺の話を聞く気になったようだ。


「一つだけ、お前達に忠告しておきたいと思ってわざわざここまでやって来たんだから、よく聞いておけよ。まず、お前達が今、攻め込もうとしているアレリカイア王国から手を引け。さもなくば、既にお前達全員に、呪いの魔法を掛けているので、下手な真似をすれば全員が死んでしまうということを伝えに来た。」

「ふっ、何をバカなことを!そんな魔法など有る訳が無いだろう。」

イゴウルスは俺の言葉を鼻で笑う。


イゴウルスがそう言うのも無理はない、この世界では人間が200人からの魔族全員に『死の呪い』の魔法をかけるなど、ハッキリ言って有り得ない話だ。

「信じる、信じないは勝手だか、行動に移そうとした時に、『呪い』は発動するから、十分に気を付けろよ。それと、あと、俺に攻撃しに来ても同じ『呪い』が展開されるからな…。」


俺がそう言った時に、俺の背後から殺気を放ち襲いかかろうとする魔族がいた。

既に、俺はその存在に気付いていたが、魔王イゴウルスに対して見せしめのためにも、黙って襲い掛からせた。

襲い掛からせたというよりかは、襲おうとする気持ちを起こさせたという方が正解だろうか。

その者は、音も立てずに俺へ近付いたようだが、俺に殺気を持った時点で、終わっていた。


「…」

ドサッ!


一言も言葉を発する事なく、魔族の男が俺の背後で倒れる。

全自動フルオート反撃システム』により『死の呪い』の魔法が展開したのだった。


「なっ!?」

イゴウルスもこの魔族の男が俺の背後から近付いてきていることを知っていた。

上手くいけば俺を殺せるとでも思っていたのであろう。

だが、俺を殺すどころか、目の前で部下の者が何も出来ずにいきなり死ぬとは信じられなかったようだった。

俺は、足元で死んでいる魔族の男の事を【探求】で調べた。


「レオルゲイラ?ああ、トゥレイヤの町を襲った奴だな。」

俺がレオルゲイラの名前を知っている事もイゴウルスの目には脅威に映る。


「レオルゲイラの名前まで…そ、そんな、馬鹿な…」

イゴウルスはその場に立ち尽くし、それ以上は言葉にならなかった。

決して知り得るはずのない自分の名前を知っていたことや、自分の魔力弾をまともに受けても何らダメージもなく、また、手も触れず、そして躊躇なく自分の部下を殺す者が目の前にいるのだ。

圧倒的な実力の差を見せつけられた魔王は、既に、俺の言うことを信じるしかない状況になっていた。


「わかったか、では、警告は済んだからな。くれぐれも今後は街を襲うことが無いようにな。」

と俺が最終警告を与えた。


イゴウルスは泣きそうな顔になっている。

目の前にいる奴を殺したいと思っただけで死んでしまうとか、全く意味がわからない。


「何とかならんのか?!」

イゴウルスが俺に聞いてきた。

「お前達がアレリカイアに売った喧嘩だろ、人も死んでいるし、今さら無かったことには出来ないだろう?」

「し、しかし…」

「自分達が勝つだろうから大丈夫だろうと、死ぬ覚悟も無いくせに、人間を殺しに来た罰だ。せいぜい、怯えて暮らすが良い。」

「た、頼む、許してくれ、もうあの国は襲わないと誓う!」

ついにイゴウルスは泣きながら俺に土下座をしてしまった。


「無理だなお前の言葉に信用は出来かねる。」

「そんな…」

もう完全に大泣き状態だ。

まさか、自分が下した判断が、全魔族に災いを招いてしまうとは思いもよらなかったのであろう。


「そんなことより、他の者にこの事を伝えないと、何も知らない奴が、勝手にアレリカイアに行ってしまって全員が死んでしまうような事になりかねんぞ。それと、お前の命令だとなると連鎖的にお前も死んでしまうがな。」

と俺が言うと、イゴウルスはハッとした表情となり、慌てて自分の家から飛び出す。

家の前では何人かの魔族の男達が倒れて死んでいた。


恐らく、ここを出て行った女どもから俺が現れた話を聞いてやって来ていたのであろう。


「はぁぁぁ~!」

イゴウルスが恐怖からか、口から声にならない声を出す。


イゴウルスは、自分の家に近付いてこようとする魔族の男達を大慌てで制止する。


「ち、ちょっと待て!お、お前達!その場からこちらに来るな!」

そうイゴウルスは大声で叫んだ。


近付いてこようとした魔族の一人が、その声に立ち止まり尋ねてきた。

「魔王様!どうなされましたか!?何やら、不審な人間がそちらに侵入したとか聞きましたが?」

「い、いや、な、何でもない、いや、正確にはあるのだが、お前達は何もするな!動くな、それに何も考えるな!それよりもお前達は、この集落の者全員を俺の前に集めろ!早くするんだ!」

イゴウルスは配下の男に指示して急ぎ、火急の集合をかけた。


「わ、わかりました!」

指示された魔族の男がその場から、慌ててその場から離れていった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る