第四章 魔族問題

第23話 魔族キター!

「えっ?魔族?」

「ええ、そうです。」


俺の前にいるのは、エルネイアにある冒険者ギルド・エルネイア統括支部の支部長プレデンターであった。

統括支部というだけあって、ヤイダルがいるイドン支部より支部ランクは上で、この大公爵領の中では他のギルドよりも優位性を保っていて、他のギルドへの指揮権なども持っている。

そんなギルドのトップが俺の前に現れたのだ。


「魔族は、数は少ないのですが、魔物と違って知能レベルは高く、言語や文化を持ち、また、魔法を使うそうです。」

「う~む、それは知っているが…」

俺は、【図書館の情報】により、魔族について確認していた。


魔族とは…

普通の人間に比べ、魔力を多く持つ人種の総称。

魔法を使える人間は多く存在するが、魔族と呼ばれる者は、その魔力や魔法の威力に関しては、普通の人間の比ではなく、大変強力である。

人間から種族進化したものであるとか、魔法の秘術により人体の組成を変化させたものであるとか言われているが、その謎は未だに解明されていない。

だが、身体能力は魔力と同じく、人間と比べると極めて高く、その筋力は非常に強く、かなり頑丈であることが確認されている。

そして、人間の言語を理解し、独自の文化を形成していると言われているが、彼等が生活している場所等は未だに確認されていない。

時に、『魔王』と称する覚醒種が統率をして勢力拡大を目論み、人間の住む地域に進出してくることがあると言われている。


「アレリカイアやロイドストルス等の西の諸国で目撃されているようでして…」

「で、俺達にも警戒をしておけと?」

「その通りです。彼等は人間の力を遥かに超える魔力を持ち、小さな街など一瞬で消してしまえる程の力を持っているとか?そんな奴等が目撃されたとなると…」

「魔王が生まれたか…」

「恐らくは…」


俺自身は、自分の物語の中に『魔王』の設定はしていなかった。

これは、誰かの設定だろうか。

俺も、一度は自分の小説の中に魔王を登場させようかどうしようか迷っていた時期があり、結局、出さなかった。


だが、この世界には、『魔王』が存在する。


俺の仮説では、俺以外に『異世界の設定者』が存在するはずと見ている。

ということは、恐らく、『魔王』もその人物の設定であろう。


まあ、俺にすれば、

『魔王、キター!』

という気分である。


だって、自分の物語の中に出せなかったのをちょっと後悔してたからな。

『会いたかったぜ、魔王!』

『設定者さん、魔王を登場させてくれてありがとう!』

という感じだな。


だが、喜んでいるのは俺だけであり、俺以外の人間は不安になっているのは間違いない。


「わかった、ちょっと調べてやる。」

「ありがとうございます。」

プレデンターは深々と頭を下げる。


俺は、現場確認のため、同行する従魔ミラージュを呼んだ。

ミラージュが俺の部屋に入ってきたが、どうもミラージュの様子がおかしい。


ミラージュのその姿を見て、『う~む』、と考え込む俺。


と言うのも、ミラージュの着ている服は、どう見ても『ゴスロリ』だからだ。

ピンク色の生地にフリルが付いたもので、全体のイメージはシャープだが、スカート部分は拡がって、黒とピンク系統の色の生地が何層にも重なって作られていた。

また、頭の部分には黒と白のチェッカー柄のカチューシャと首の部分にはこれまた黒と濃いピンクのチェッカー柄のチョーカーが付けられ、足にはは同じ様な黒と濃いピンクのチェッカー柄ニーソックスに、先が丸い黒の革靴を履いていた。

さすがにこの世界にはエナメル地の靴は無いようだったが、かなり光沢のある革靴だった。

俺の設定ではないが、別の『設定者』によるものだろうが、一応、ここでは屋敷の服飾担当のドロレスという女性の奉公人が作成したものであるという。

まあ、屋敷の仕様がゴシック様式だから、『ゴスロリ』つまり、『ゴシック&ロリータ』はこの屋敷に合っていると言えば合っている。

『ゴスロリ』の定義は色々とあるようだが、この世界を【スキル 神眼 異世界探求】で調べてみたが、なかなか奥が深い。


ゴスロリとは…

『本来は異なるジャンルとなるゴシックとロリータの隔絶された美的要素を奇跡的に結びつけたもので、日本人が持つ『固有特化性能』により、独自のファッションスタイルを構築、創作した新たなジャンルの総称を言い、またそのようなサブカルチャー的な意味合いをこめたモノを指して言う言葉である。略称はゴスロリ。』

となっていた。

また、『乙女』や、『ドール文化』などの要素を内包し、一般的にはロリータ・ファッションの総称ととらえられているが、本来はロリータ・ファッションというカテゴリーの中のジャンルの一つであると言われているようだ。

また、概要としては、ゴシック・アンド・ロリータは、ロココスタイルのようなヨーロッパ文化を思わせる幻想的な装いを特徴としているが、ロココのほかにもヴィクトリア朝時代との関連があるのではとの指摘もあり、ストリートファッションでありながらも西洋の文化を継承しようとする姿勢を持つ性格が独特である。


とあり、調べだしたらかなりディープなので、興味があればこれを見ている君達も調べてみるのもいいだろう。

まあ、結論的には、ゴスロリとは、

『自分の信念を曲げないファッションスタイルを表現し、流行に流されずそれを貫きながら、少女の夢やそこに潜む心の闇を、自己表現するファッション』

はたまた、ロココ調の装いの中に見え隠れする暗い死の影や悲壮感、人が古来から連面と受け継ぐ負の感情が浸透しつつも、それが故にその可憐さ、可愛さが際立って見えるようなスタイルであるという意見もあるらしいので、ミラージュの様な捕食者であれば、

『生と死を司る死神のような存在を表現しながらも、そこに少女の可憐さ、儚さを、その装いの中に、炎の様な妖艶さと、氷の様な冷徹さを秘めた精神的エグゼステンス!』

とでも言えば良いのだろうか。

何を言っているのか、ようわからんが。


まあ、オタク文化における『ゴスロリ』の概念とは一線を画す認識をしていた方が懸命であろう。


だが、俺の目の前にいるミラージュは、そっちオタク側だな。


「なんでつか?ご主人たま?」

この舌足らずのしゃべり方設定は、俺の概念とは違うな、絶対。

と思いながら、

「ちょっと、現地調査に行くぞ。」

とミラージュに説明する。


ミラージュは、最近、大公爵の屋敷の近くに建設された、仮設の学校に通い出していた。

そこでは、町中で保護され、施設に収容されたストリートチルドレンも通っていた。

まだ、校舎は仮設だが、椅子や机は、ゼンドワの知り合いの木工職人に依頼して作って貰っていたものでとは言えないだろう。

それに教科書等はまだまだ絶対数が足りないのだが、今は何人かで仲良く使わせている状態だ。


収容施設もまだ仮設だが、子供達も、路上生活から屋根の付いたところで、温かな食事が取れるとあって、文句も言わない。

贅沢はさせないが、人間として最低限の生活をさせることで、死亡率は低下するであろう。

まあ、子供が元気な国は平和だと誰かが言っていたが、次の世代を担う子供達が笑って過ごせる平和な国を作っていきたいものだと思う。


そのためには、不安材料となる『魔族』はしっかりと調べなくてはならないだろう。


俺はあらかじめ【スキル 神眼 探求】を使用して、アレリカイア王国やロイドストルス王国の西側の国境付近を確認した。

これらの国は両国とも、この間までウィルマジス王国と戦争をしていた国で、ウィルマジス王国が無くなったため、新生イリノス王国と協定を結んでいた。


この両国の西側の地には、東の『神の絶壁』と対をなす『神の隔壁』と呼ばれる超巨大な山脈がある。

まず、人間の力では絶対に登る事は出来ないであろうと言われる程の絶壁が、何千メートルという高さにまで空へと続いている。

人間の世界と危険な魔物の世界とをしている巨大な山脈は、双方の行き来を分断し、これにより人間は魔物の脅威を回避しているのである。

この他にも、『マイズカインの森』など、人間の世界とその他の場所を分離する存在がいくつかある。

俺は、【スキル 超人】の能力で、その向こうに行ったことがあるが、普通の人間には行くことは不可能である。

それらの事については、また次の機会に紹介するとしよう。


プレデンターの話では魔族はどうも、その『神の隔壁』の向こうからやって来たのではないだろうかという事なのだがハッキリとしたことはわかっていない。


そうなれば、俺の【探求】能力でも細かな場所をある程度、指定をしないと彼らを見つけることは困難であった。


ある程度の俯瞰で確認すれば、その分、【スキル 適当】が情報を整理して、表に出す情報を少なく調節して表示するので、隠れている様な存在などは、かなり近付かないと表示は省略されてしまうのだ。

じゃあ、【スキル 適当】を外せばいいじゃないかと言うことになるのだが、それを外せば大変なことになる。

もし、スキルを外したとすれば、【スキル 神眼 探求】で確認された情報全てが自動地図に表示されることになり、この画面いっぱいに、この地上にある全てのモノの情報が表示されることになり、恐らく、文字で画面が覆い尽くされ何が表示されているのか、全くわからなくなるなると思われるのだ。


だから、『範囲指定』や『対象指定』が必要になってくるというわけなのだ。

また、状況によっては、『検索条件』等が今後、必要となる場合もあるかもしれない。


一番良いのは、現場付近に行けば、更なる細かな情報が入手出来る可能性が高いので、俺は現場に行くことにしているのだ。


とりあえず、最初に【探求】で確認したが、魔族の存在は確認できなかった、というか、そもそも魔族と言っても魔力が強い人というだけで、元々人間なので、魔物と違い表示は人間として表示されるため判別は難しい。


なので、まだ、【スキル 神眼】が進化する可能性も否定出来ない状況だ。

もっと、こう、何か、上手く表現してもらうことは出来ないのかな。


『それは、もう間もなく行われますので、しばらくお待ちください。』


おっ、【神の導き手】さん久しぶりだな。

『ヒロシ様、お久しぶりです。現在、スキル進化の準備中ですので、しばらくお待ちください。』

ということは、なんですか、新たな力をダウンロードという事ですか?

『そんな感じです。』

…わかりました。


俺は、準備中の意味がよくわからなかったが、とりあえずわかったと返事した。


ー◇ー◇ー◇ー◇ー◇ー飛行中


俺とミラージュはアレリカイア王国の西側の国境付近にやって来た。


この辺りにも人間が住む町はあるが、まあ言わば片田舎の町のため人も少なく、その街の周囲は森や山ばかりなので、空を飛んでいようが、大声を出そうが、目立つことはない。


なので、町の近くと言っても、目の良い奴なら見えるのではないかと言うくらいの近くに降り立つ。

というか、降り立つ時に、町の方を見たが、ほとんど町の往来に人影は見えなかった。


町は一応、魔物避けの石造りの外壁が町の周囲を取り囲み、その入口には頑丈そうな鉄の門扉が取り付けられていた。


俺はミラージュを連れ、門扉まで歩いて行く。

そして、もう少しというところで、街の方から声が掛かる。


「おい!お前達!一体どこからやって来たんだ!?」

外壁の上にある見張り台から、兵士の様な男が声を掛けてきたのだった。

年の頃は30歳くらいで、目端が利きそうな感じの男であった。


俺は、普段の口調で、

「いやぁ、森で迷っちまってね。ようやく街を見つけたんでやって来たんだよ。」

と応えた。

すると、

「お前達、魔族じゃないのか?手ぶらだし、どう見ても旅人には見えん!」

と言ってきた。

うーん、確かに、俺もミラージュも荷物は持っていない。

俺の荷物はインベントリに入っているし、服装も大賢者からもらったローブと魔法使いの様な服装だし、ミラージュはゴスロリだし。

はっきり言って、旅をしている人には絶対に見えないだろう。


「大丈夫だ!荷物は持っているし、俺は魔導師だ。」

俺は賢者と答えても良かったのだが、とりあえず、この世界には魔法が使えて馴染みがある魔導師であると応えると、その兵士は、急に神妙な表情となり、

「も、もしや、王国から派遣されたという魔導師様でしたか!」

と慌てて、見張り台を降り、門扉を開けた。


「大変失礼しました!お待ちしておりました大魔導師ウィーダリー様!」

とその兵士は、その場に跪く。

他にも、外壁警備で詰所にいた兵士も外に出てきて、俺に跪く。


『ああー、こりゃ誰かと俺を勘違いしてるな。』

そう思った俺は、面白いので、そのままそのウィーダリーという魔導師のフリをして、彼等の案内で、この街の町長の家に行くことになったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る