第24話 偽大魔導師

俺は街の門番から、アレリカイア王国から派遣されたという大魔導師ウィーダリーに間違えられ、この街の町長に引き合わされることになった。


流石に、大魔導師の事を全く知らないとすぐにボロが出て、バレてしまうので、直ぐに【スキル 神眼 図書館の情報+アレリカイア王国関係書面】でウィーダリーの事を調べ上げる。


ウィーダリー・インゼ

・年齢30歳 ・男性

・アレリカイア王国付き魔導師

アレリカイアの冒険者ギルドで活躍し、S級魔法使いとして名を馳せ、アレリカイア王国にその功績を認められスカウトされる。

得意の魔法は火魔法、水魔法、土魔法、防御魔法、感知魔法等が使える。

癖は左の人差し指で鼻の下を擦ること。

参考事項…アレリカイア国王の名前はシングレアス・フォルト・アレリカイア、第一王妃はシャリエナ、第二王妃はセブローザ、第一王子はゼイアース(母シャリエナ)、第二王子フログレイア(母セブローザ)、宰相ローデスト・グレイアス、王国騎士団長ドリエル・コネクリオ。

この街から届いた、アレリカイア王国に保管されている書簡には、

『~中略、魔族と思われる者の姿を確認しました。至急、魔導師の派遣及び、王国兵士の増援派遣を願いたい。~』

となっている。

現在は、魔導師の派遣や兵士の派遣については、王国内で検討がなされており、正式な派遣決定は10日後以降となる見込みである。


はー、スキルアップしたら、何でもかんでもわかってしまう。

すんげー優秀過ぎる。


ただちょっと問題なのが、ウィーダリーの年齢が30歳ということと、本物の魔導師がこちらに来るのが10日以上後くらいというところくらいか。

まあ、顔等はちょっと変化させる魔法でも使ってみるとして、応援がここへ来る日が遅くなるのは、色々とあって仕方ないと思うが、こちらにしてみれば逆に好都合だ。


という事で、俺は、案内する門番の兵士達にバレないように、徐々に、指定の人間の顔に変わる【変化の魔法】を使用した。

もちろん変化するのは魔導師ウィーダリーの顔だ。

それに身長や体格もウィーダリーに徐々に寄せていく。

これは、【魔法全鑑】の中に入っていた魔法である。

本来この魔法は、本人の特徴を掴むため、一度は直接、本人を見ないとダメなのだが、俺は【スキル 神眼 探求】を使い、本人が気付かないうちに、遠隔操作で身体特徴をスキャンして、変化の魔法に使用していた。


ようやく、俺は門番の兵士の案内で町長宅に到着した。

「ウィーダリー様、こちらでございます。」

と言いながら、門番兵士はチラリとこちらを向く。

いつの間にか18歳の顔から30歳のウィーダリーの顔に変わっていたのだから驚く。


「えっ?あれ?ん?」

兵士は俺の顔を見て、首を捻る。

流石に、髭も増えているし、体付きや、全く違う顔だから判るよな。

「はっはっはっ、驚いたか、先程のは私が変身していた姿なのだよ。これが本当の姿だ。」

と俺が言うと、兵士はホッとしたような顔をして。

「流石、大魔導師ウィーダリー様です。私など全く顔を知りませんでしたので、てっきり最初の姿がウィーダリー様だとばかり…」

「バカを申せ、あんな若造の姿の者が王国付きの魔導師である訳がなかろう!」

と俺が言うと、

「た、確かにその通りです。」

と門番兵士は頭を掻く。

「まあ、これでお前も私の顔を覚えた訳だから、今度からは頼むぞ。」

「は、はい、わかりました!」

そう言いながら、門番兵士は外壁の方へ戻っていった。

しかし、何て騙しやすい奴だったんだろう。

いきなり顔が変わっていたら普通警戒するだろう。

だが、相手は大魔導師だから、こんなことができても当たり前だとでも思っているのだろうか?

ウィーダリー本人はこんな特殊な魔法なんて知るわけがないし、本人の事をよく知っていれば直ぐにバレるんだろうが、まあ、こんなものは堂々としていれば、結構バレないものだ。

俺の演技も中々のものだろう。


俺は、町長宅の玄関扉をノックした。

すると、すぐに扉が開き、中から、初老の男が出てきた。

「お久しぶりでございます、ウィーダリー様。」

とその男は俺を見てすぐに頭を下げる。


おおっと、こいつは知り合いか。


俺は即座に、【スキル 神眼 図書館の情報+探求】を展開して、その男の情報を得た。


マーケイ

アレリカイア王国西端の街フォーレイヤの町長。

年齢55歳、男性、妻と子供は男一人と女二人。

五年前にフォーレイヤの近くの森でウィーダリーに魔物から助けられた事がある。

それ以降の再会無し。


【スキル 適当】のお陰で、不必要な情報は表示されない。


「お、久しぶりだな、マーケイ、元気だったか?あれから五年ぶりか。」

「あ、はい、お陰さまで、えっと、」

マーケイは、自分の名前を呼ばれたことと以前の出来事をチラリと会話のなかに混ぜられていたため、完全に俺をウィーダリーと信じたようだ。

だから、そんなことよりも俺の横に立っているミラージュが気になるのか、彼女を見て不思議そうな顔をする。


まあ、そりゃそうだろ。

本物のウィーダリーにはこんなゴスロリ娘は付属いてないからな。


「あー、えーっと何だ、こいつはまあ、いわゆる俺の弟子だな。」

「えっ?で、お弟子様でございますか。」

とマーケイは驚きながらミラージュを見る。

そりゃこんな少女を弟子にするなど、まあ本来は有り得ないからな。

「そうだ、その証拠に、おい、ミラージュ、少しでいいから飛んでみろ。」

と俺はミラージュに指示を出す。


「あい、わかりまちた。」

ゴスロリ娘ミラージュは例の敬礼をしてから、直ぐにその場から浮遊する。

「おお!」

マーケイが驚きの声を上げる。

そして、上空数十mのところ辺りまで飛び上がり、静かに降りてきた。

多分、ウィーダリー本人は飛ぶ事は出来ないはずだが、まあいいだろう。

魔法の力だと言えば大概は納得する。

便利な世界だ。


「はあー、凄いものですな、流石、ウィーダリー様のお弟子様です。」

とマーケイは素直に感心して、自宅の中に俺を招き入れた。


マーケイは自宅の応接間に俺達を通し、テーブルの席に俺達を座らせた。


「今、家内にお茶を入れさせますので、しばらくお待ちください。」

とマーケイが言いながら俺達と反対側のテーブル席に座る。


「で、手紙の件なんだが…」

と俺が直ぐに書簡の件を切り出すと、マーケイは土下座とまではいかなかったが、テーブルに両手を付き、頭を下げた。


「ウィーダリー様、何卒、お願いします。実のところ、魔族の者達は、約一ヶ月位前から姿を現しました。私が手紙を書いて送った後も、何度かこの街の西側の森に姿を現しておりまして、その目撃数が日に日に増えていっているのであります。相手は一人ですが、このままでは、いつかきっと、誰かが魔族に襲われ殺されてしまうのではないかと気が気ではなく、夜も眠れません。」

と事情を話す。

「で、被害の方は?」

「今のところは何も…」

「うーん、何も無いのか…それじゃあ、魔族がここを襲いに来ているとは言いがたいんじゃないのか。」

俺がそう言うと、マーケイは困惑した様な表情となる。

「いや、しかし、…いつ襲われるかわからないですし…」

「うーん、もし襲うのが目的でなかったら、下手にこちらから刺激する必要もないだろうからな。」

「た、確かにそうなんですが…」

と不安そうな顔を見せる。


「わかった、じゃあ俺…、いや私がそいつの様子を見てきてやろう。」

と言うとマーケイな表情を明るくし、

「ほ、本当でございますか?!」

「ああ、確認しに行くだけだし、こちらが仕掛けなければ戦うことも無いだろうから、お前もそう気にする必要も無いだろう。まあ、もし、彼奴らがここを攻め込むつもりなら、俺、いや私がその時に何とかしてやろう。」

「あ、ありがとうございます。」

マーケイは、テーブルの上で深々と俺に頭を下げる。

とりあえず俺は、ウィーダリーの癖である鼻の下を左の人差し指で擦る。


俺とミラージュはマーケイの家を出ると、すぐにその場から空中へ飛び上がる。


それを、マーケイが下から見上げた後、頭を下げていた。


俺は、飛び上がって初めて、このフォーレイヤの街には外壁だけでなく、防御結界の魔法がかけられていることがわかった。

恐らくは、ウィーダリーが掛けたものであろうが、あまり強いものではない。

ゴブリン程度なら効き目もあるだろうが、少し強い魔物であれば、すぐに突破されてしまうであろうと思われた。

まして、魔族となれば一瞬で破壊されるだろう…

なので俺は、さらにその上から強めの防御結界魔法を掛け直しておいた。

まあ、嘘をついたお詫びだ。

ウィーダリーのものより、10000倍以上は強いだろう。


とりあえずは、魔族の情報が手に入ったのだが、魔族は街の様子を見るだけで、襲ってこないと言うのは一体?

奴等なら、あんな防御結界など、屁でもないだろうに…

俺は、この話の裏に何かあると踏んだ。

今のところ、その裏については、俺のスキルに引っ掛かってきていないが、どうも、おかしいという感じだけは常に頭の奥でしていた。


そもそも、街の人間に魔族と人間の違いが判別出来るのかという事だ。

彼等、魔族は総じて魔力は高いが、一見して人間とは見分けが付かないはずなのだが、あのマーケイは確かに魔族を見たと証言した。

嘘ではないのだろうが、何かを隠している様な感じだ。


俺はマーケイから、目撃が一番多かった、森の奥にあるフォーレイの滝にやって来た。


俺は、その場から【スキル 神眼 探求】を展開し、『範囲指定 フォーレイヤの森』『対象指定 魔族』で探した。


すると、エルネイアからではわからなかった、小さな洞窟の中に微かな魔力を持つ者の反応を感知した。

これは、この世界に転移して最初に習得した【気配察知Ⅰ】がスキル進化して【気配察知Ⅲ】となっている事で、察知能力が上昇し、居場所がわかったようだ。

最初、スキルの隣に『Ⅰ』が付いていたのを見て何の事かわからなかったがようやくレベルの『1』の事だとわかった。

最初に注意深く、見ている者には簡単だったかも知れないが…


まあ、そんなことはどうでもいいのだが、俺はその場所を目指す。


俺は、自分とミラージュは【スキル 気配隠蔽】を使用して洞窟に入る。

従魔が使用する【スキル】については許可すれば、オーナーが持っている通常スキルのほとんどを使用することができるという特典がある。

出来ないのは【スキル 超人】等の固有ユニークスキルであるが、通常スキルでも強いスキルをオーナーが所持しているのであれば、より一層使い勝手の良い従魔となるという理屈だ。


俺とミラージュは洞窟の奥の方へ進んでいく。

目立つため、光魔法は使えないので【スキル 夜目】を使って移動する。


魔族の反応は一人だが、よく見るともう一人いる。

何だこれは?人間か?


俺はすかさず、【スキル 神眼 探求】の範囲を絞り、この二人を探求る。


『こ、こりゃあ…』

俺はそれを見て驚愕した。

まあ、俺が驚いた結果を見てくれ。


ロウミオ

魔族の男性 年齢25歳

『神の隔壁』方面出身。


ジュリアナ

人間の女性 年齢20歳

フォーレイヤの街出身

町長マーケイの長女


どうだ、驚くだろう。

えっ?驚かないだって?


ふん、そんな奴は、色恋のひとつもしたことがないヒキコモラーのオタだな。


まあいい、話を進める。


どう見ても、コイツらは恋人同士だ。

こんなところに若い二人が一緒にいること自体おかしいし、女性の方も、魔族の男から拘束されたり魅了の魔法をかけられていないところを見れば、直ぐに理解できる。


魔族の男と人間の女との禁断の恋。

それを阻止しようとする町長マーケイ。

だが、相手は魔族、下手に突っ掛かると自分達の命が危ない。

何とか合法的にこの魔族の男と娘を別れさせたいがため、王国に魔族目撃の情報を流し、魔導師らに魔族の男を始末させ、娘を救出の体で引き離そうとしたという筋書きだろう。


うーん、どうなのかな、コイツらを引き離すのは。

まあ、二人の話を聞いてみるか。

恐らくマーケイの奴は、コイツらの話は一切聞いていないだろうからな。


という事で、俺はミラージュと共に、彼等の前に姿を現した。

二人は洞窟の奥にある少し天井の高さがあるスペースにいた。

蝋燭の灯りで周囲が明るく照らされ二人の顔がよく見えた。

どちらも美男美女だ。

椅子くらいの高さの岩に腰を掛けて話をしていたので耳を傾けたが、なんともたわいもない恋人同士の話なので、やや当て付け気味に姿を表す。

このリア充め!


まあ、俺達二人がいきなり気配隠蔽を解除して、目の前に姿を現したものだから、流石に二人は驚く。


「な、な、何だ?!お前達は?」

とロウミオが俺に尋ねてきた。

その目には、少しだけ恐怖で濁りが見える。

俺をかなり腕の立つ魔導師と思ったのだろう。

その通りだが…


ジュリアナは怯える様にロウミオの背後に移動する。

「もしかして、マーケイさんの依頼で俺達を引き離しに?!」

とロウミオが言う。

その言葉に敵意は見られない。


まあ、察しの良いことで…

だが、それは違うぞロウミオ!


「あー、まあ、何だ、頼まれたのはアレリカイア王国の大魔導師ウィーダリーだが…」

俺がウィーダリーの名前を出すと、さらに二人は緊張した表情となり、ロウミオが叫ぶ。


「頼みます、見逃してください!俺達は真剣に愛し合っているんです!王国の討伐隊がここに来るかもしれないとは思っていたんですが、まさか本当にマーケイさんが呼ぶとは…」

とロウミオはガックリとした表情となる。

「お願いします、どうか見逃してください。」

ジュリアナは俺の前に進み出て、涙を流しながら土下座する。

それを見てロウミオも土下座をした。


うーん、久しぶりの土下座だな。


「おいおい、お二人さん、何か勘違いをしていないか?俺は別に王国とは関係ないんだが…」

「えっ?」

俺がそう言うと二人は下げていた顔を上げる。

俺は、先程のフォーレイヤの町で、大魔導師ウィーダリーに間違えられて、マーケイから魔族の調査を依頼されたことを話すと共に、二人から、今回の事について詳しく話を聞くことにしたのだ。


「実は…」

ジュリアナが事の経緯をポツリポツリと話を始め出した。


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