第35話 魔王討伐

セブンワンダー達は失意の中、アレリカイア王国に向けて飛行の魔法を使いながら移動していた。


彼等は元々、人間の国に憧れ、人間として、人間の国に移り住んでいた。

それが出来るのも、フォーレイヤの町に現れた魔族の男ロウミオのようにあまり戦いを好まない性格であるからでもあろう。

そんな彼等も、ロウミオとは多少違うが、自分達の故郷である魔族の集落を離れ、この国にやって来ていた。

集落に残っている者達の多くはプライドが高く、また、考え方が古い者、自分の生活に変化を求めたくない者がほとんどであり、外に出て行った者達に集落を『逃げた』とか『捨てた』と馬鹿にする者が多い。


だが、セブンワンダーのように王位を継がず集落を出て行った者は別としてゼルデン達、集落を出た者にとって、それは捨てたと言うよりも、自分達の最後の心の拠り所として残していた場所であった。


その故郷を俺に襲えと命令されたのだ。


彼等は俺に命を握られている。

彼等には、どこまで出来るのか、俺は見極める必要があった。


アレリカイア王国に着くと、彼等は手紙を城の門番に見せ、王城の中に入っていった。

流石に門番もバカではなかった。

俺の名前が入った手紙を見ると、大慌てでセブンワンダーを通した。


門番は『内街』の外壁の門番ギムドウル、そう、俺に足をぶった切られた兵士だ。


俺は【スキル 魔神眼】で様子を見ていた。

順調にセブンワンダーはアレリカイアの王城の王の間に向かっている。

当然だが、彼等には、アレリカイア国王を亡き者にしようとすれば即座に『死の呪い』の魔法が発動することを説明しておいた。

トチ狂って、アレリカイア王を殺されては困るのでな。


そして、セブンワンダー達は、王の間に通され、俺からの手紙をアレリカイア国王シングレアス・フォルト・アレリカイアに渡す。


シングレアスも俺からの手紙ということもあり、慌てて、その中身を確認する。


「えっ!こ、これは……うーむ。」

シングレアスもその内容を見て、じっと考えている。

まあ、そりゃそうだろうな。

俺もそう思う内容だからな。


だが、シングレアスも、俺の手紙を読んで腹を決めた様だった。

「わかりました。貴方達に、魔族の集落の討伐を命じます。」

そう、シングレアスが言うと、周囲の者達がざわつく、

「シングレアス様、それは、一体、どういうことでしょうか?!」

「そんなことをすれば、魔族の者達が!」

「ヒロシ様が抑えてくれたばかりではないのですか?今さら何を!?」

「全面戦争になりますぞ!」

と口々にシングレアスに忠言する。


実のところ、魔族への呪いはシングレアスにしか伝えていない。

皆が心配するのは無理もない。


「これは、あのヒロシ大公爵様が決断なされた事である。」

シングレアスが答えた。

「何と、ヒロシ様が、そんな、」

王の間にいた皆が、魔族との交戦に不安を示す。

「彼等はヒロシ様から選ばれた勇者達です。彼等に魔族の討伐を任せよと…」

シングレアスがそう言うと、全員が静かになる。

俺のお墨付きの勇者だから大丈夫だとでも思ったのであろう。


「では、勇者セブンワンダー、アレリカイア国王として命令します。魔王討伐をよろしく頼みます。」

「……」

セブンワンダーは返事をせず、シングレアスに一礼をして、王の間を出て行った。



「なんでだ?何でなんだよ!ヒロシ様は、俺達にドラゴンも退治が出来るような凄い力をくれたんじゃないのか!」

「あの人は俺達に何をさせたいんだ?一体、何を考えているんだ!」

ゼルデンやエブエブらは空を移動しながら、俺の言動に理解が出来ない様子で口々に文句を言っていた。


まあ、そりゃそうだろうな。


彼等には、罪な事をさせると思ってはいるのだが、がいなかったからなあ。


「おい、セブン、いやオセイロ様!どうするんだ?」

ゼルデンがセブンワンダーに尋ねる。


「……俺は、ヒロシ様を信じる。」

「はあ?何だって?」

「お前、嘘だろ?あそこまで言われて、信じるなんて…」

「あの人なら、クロトリのように魔族の俺達くらい軽く殺せたはずだ、だが、俺達は死んでいない。兄貴も呪いはかけられていたが死んではいなかった。あの人は、自分を殺そうとした者には相応の罰を下すが、あの人のすることには全て意味があった。」

「じゃあ、これにも意味があると?」

「ああ、兄貴を殺すことで何かしらの意味が生まれるのかも知れない。」

「まあ、確かにあの方は異常だったからなあ…ヒロシ様に殺されてもおかしくないんだが…」


ドラキュエが過去の記憶を回想している。


俺はドラキュエの思考の一部が読めていた。


まだスキルは進化していないが、恐らく遠隔地の会話が聞こえる様に、思考も読める能力が発現しようとしているのかも知れなかった。


ドラキュエは、イゴウルスが魔王となり、人間の世界を国を襲い、皆殺しにしてでも全て自分達の手中に収めようと考え、戦闘力の高い魔族の者達を集めて計画していたことを思い出していた。

ドラキュエも元々、性格は余り好戦的ではないため、それを嫌い丁度、王位継承をしなかったオセイロに付いて集落を離れた。

クロトリはバカだが、弟分みたいな奴だったので付いてくるかと聞くと、『いいぜ』と言って付いてきた。

俺に突っ掛かっていって死んだことは残念だが、この世界は弱肉強食の世界、仕方がないことだと思っているようだ。



そんな話をしながらもセブンワンダー達は、とうとう『神の隔壁』までやって来た。

超巨大な絶壁が見えてくると、セブンワンダー達は、絶壁の中腹にある魔族の集落に向けて上昇を始める。


彼等の装備は、俺が特注した装備で、この一週間の間に揃えたものだ。

普通の冒険者には買い揃えられないほどの高価な代物だ。

そんな装備で洞窟の入口に現れたもんだから、集落の入口の番人である、あくび魔族の男は一瞬だったが、ギョっとした表情となるが、入口の近くまでセブンワンダー達が近付き、ようやく本人らであると認識する。


「お、オセイロ様でしたか、それにドラキュエ、あ、ゼルデンにエブエブまで…一体どうしたんだ、お前達まで?」

「久しぶりだなアークビ。」

そうゼルデンがあくび魔族の男に言う。

アークビって、名前もかよ。

あんまり気にしてなかったから【スキル 魔神眼】を使いもしなかったがな。


アークビは不思議そうに全員を見ているとセブンワンダーが、

「兄貴に用があってな。」

と答える。

「そ、そうですか、では、どうぞ。」

セブンワンダーの鬼気迫る表情にアークビはたじろぎながら彼らに道を開け、中に通す。


相変わらず洞窟内は、鬱陶しい空気が漂う。

セブンワンダーは洞窟内に響き渡る様に大声を出して兄、イゴウルスの名前を呼んだ。


「兄貴!出て来てくれ!話がある!」

その声は兄の声に匹敵するほどの大きな声であり、イゴウルスの耳にも届いた。


イゴウルスはチェイスに支えられながら現れた。

『死の呪い』の影響が精神状態から身体にまで及んでいる様だった。


ヨロヨロとセブンワンダー達の前までやって来る。


「オセイロ様、これは一体…」

チェイスが、いつもと雰囲気の違うセブンワンダーに事の次第を聞こうとしたが、それよりも早く、精神崩壊をしていたはずのイゴウルスが、セブンワンダーに対して口を開いた。


「オセイロ、お前、俺を殺しに来たんだろ?」

と言う。

「あ、兄貴、正気に戻ったのか?」

「さっきのお前の声を聞いてな、あの賢者から言われたのか…」

流石は魔王だ、セブンワンダー達の姿を見て、すぐに事情を察した様だった。

「すまない…」

既にセブンワンダーの目からは涙が溢れて流れ出している。

「泣くな、オセイロ、ふっ、仕方がない奴だな。俺もこのまま、死を恐れて日々を過ごしていくのは、もううんざりだ。いっそのことお前に殺されて、何もかも終わりにしたい。」

その表情は、何かを悟ったように晴れやかな顔をしている。


「兄貴…」

「オセイロ様…」

チェイスもイゴウルスの覚悟にどうすることも出来なかった。


セブンワンダーは腰の剣を抜く。

まだ、特注の剣ではないが、そこそこ切れる剣を渡している。

魔王の体くらいなら軽く突き通すほどだ。


セブンワンダーが剣を構え、目を瞑り、イゴウルスを殺す覚悟を決める

他の者達も黙って事の成り行きを見ている。

静まり返った洞窟内は完全な無音の空間となる。

自分の心臓の音だけが聞こえているのだろう。


「うおおおおおーー!!」

セブンワンダーは地面を蹴り、物凄い勢いで兄イゴウルスに突っ込んでいく。

身体強化された体は恐ろしくキレがいい。

あっという間に、イゴウルスとの間を詰めたセブンワンダーの剣がイゴウルスの胸に突き刺さる。

「ぐはっ!」

血飛沫が辺りに飛び散る。

剣はイゴウルスの体から抜け、イゴウルスはそのまま後方に倒れ込む。

イゴウルスはセブンワンダーの攻撃に全く、抵抗はしなかった。


「兄貴ーー!」

持っていた剣を捨てて、セブンワンダーがイゴウルスに駆け寄る。

「オセイロ…俺は、人間の世界が怖かった…いつか、俺達の集落を見つけ、俺を殺しに来るのではと…だから、その不安を消したかった、だから、人間の国に攻撃を加えようとした…だが、それは俺の間違いだったと…『死の呪い』を受けて初めて気付いた…馬鹿だよな、ハアハア、不甲斐ない…兄を…許して…くれ…」

「あに…き…」

イゴウルスの目が閉じられ、体の力が抜けていくのを感じる。

オセイロの手を掴んでいたイゴウルスの手が力尽きて地面に落ちる。


「うわあああーー」

セブンワンダーが泣きながらイゴウルスにしがみつく。


だが、そんなセブンワンダーの襟首を掴んで強引に引き離す者がいた。


そう、俺だ。


「どけ!」

「ぐえっ!」

セブンワンダーは俺に引き離され、近くの岩に投げ飛ばされ、岩にぶつかった瞬間、カエルを踏んだような声を出した。


「【全体蘇生】【究極回復】」


俺はイゴウルスに究極の蘇生&回復の呪文を施した。

【全体蘇生】は【魔法全鑑】に載っている【部分蘇生】の上位魔法で、俺のスキルがレベルアップしたのに伴って、使用可能となったもので、死人でも生き返るという超チートな代物だ。


まあ、地球と同じで、心停止後、間無しでないと駄目らしいが…体の部位がグシャグシャになっていても元通りになるので、こちらの性能の方が遥かに上だろう。


「ヒロシ様!」

「どうして?」

ゼルデンやエブエブ、ドラキュエが俺を見て驚く。

彼等の背後から気配と姿を消してずっと付けていたのだが、全く気付いていなかったようだ。

セブンワンダーにはスキル『気配察知』を与えていたはずなんだがなあ。


ま、とりあえず、俺はこれでを達成した。



「ううっ、痛てて…何が?」

セブンワンダーが腰をさすりながら、立ち上がる。


「これは、一体…」

そして、死んでいたイゴウルスも目を覚まし、起き上がる。

それを見て、セブンワンダーが大きく目を見開いて驚く。


「あ、兄貴!うわあああ!」

セブンワンダーがイゴウルスに駆け寄り抱き付く。


「ヒロシ様、これは一体どういうことなんですか?」

ゼルデンが俺に尋ねてきた。

「ああ、黙ってて悪かったな、こうしないと呪いが解けなかったもんでな。」

「えっ!?それって…」


俺が魔族の集落にかけていた『死の呪い』の魔法は一度掛ければ俺にも解除することは出来ないようになっていた。


解除するには、

『アレリカイア国王の命令によって、魔族の集落を攻め、一人でも魔族の者に怪我を負わせる事』

というのが条件であり、さらに、

『アレリカイア王や傷を負わせる者は心を操られておらず、また命令を受けた者はその事情を知らないこと。』

という面倒臭い条件があったからだ。

まあ、国王の命令が必要という時点でかなりハードルは高いんだけどね。

もうひとつの条件設定の理由は、

『もし、万が一事情を知った魔族が国王を操って、国王が事情を知った奴などに命令すれば、魔族を軽く傷つけるだけで呪いが解かれてしまう』

という抜け穴があるからという理由からだった。

事情を知らなければ、そりゃ魔族を殺すでしょうからね。

当然、殺せば魔族の呪いも解けて、魔族との全面戦争になるので、アレリカイア王国としても相手に『死の呪い』が掛かっているからといってもそんな簡単には攻めることは出来ないようになってもいた。

ただ、何故、軽く傷を付けるだけで呪いが解けるのかと言うと、基本的に魔族を攻めると言うことは、『死の呪い』を解くということだから、アレリカイア国王が実質、魔族を赦すという意味合いもあるからだ。


だが、実際に人間側が魔族を攻める事になれば、前述のように、理由を知らない魔族の側からすれば、自分達の命を守るため、徹底抗戦することも考えられ、その後は血みどろの戦いになる恐れもあり、余程の事がなければ、アレリカイア王国が呪いの解除なんてすることはあり得ない。


しかし、アレリカイア国王シングレアスは俺の手紙に書かれた一連の事情を理解した上で、魔族を赦したのだ。

それには、俺がアレリカイア王国に対して、今後は、国内に悪意を持った者が入れないような強固な防御結界を張ってやるとか、そんな奴は迷って国の入口まで辿り着けない魔法を掛けてやるとか色々と条件を付けて約束をしてあげた結果なんだけどな。


俺は、その場にいる者達にそれら一連の事を説明してやり、ようやく全員が理解したのだった。


「ヒ、ヒロシ様…」

魔王、セブンワンダー、そして、そこにいた集落の者全員が俺に跪き、土下座する。

やれやれ、最後も土下座かよ。


「ありがとうございました。」

全員が俺に礼を言う。

彼等もこれに懲りて、もう二度と国を襲うことはないだろうな。


ただ俺も今回は少々やり過ぎたとは思っていた。

ウェルネストからも、

『死の呪いなんてやりすぎでは?ヒロシ様の力なら防御結界でも張れば十分なのでは?』

と言われたので、それもそうだと呪いの解除の機会を待っていたというのが本音だった。

まあ丁度都合良く、セブンワンダー達、魔族の者が詐欺問題を起こしてくれて助かったと言うべきか。


という事で、魔族の集落の問題も解決したので、も屋敷に戻る事にした。


えっ、俺だけじゃないのかって?

だよ。

もちろんだが、俺の横には常にゴスロリ従魔ミラージュもいるし、魔族の勇者パーティーであるセブンワンダー達には後でドラゴン退治をしてもらわないと駄目だからねえ。

今回の『死の呪い』の魔法の解除は解決したけど、セブンワンダー達の『ドラゴン退治』はまだ終わっていないからねえ。

言わば『それはそれ、これはこれ』である。

それを言うと、セブンワンダー達は、また、泣きそうな顔になっていた。

ま、ドラゴンに殺されそうになったら、少しは助けてやるか。


屋敷に帰れば、異世界の技術の導入による街の開発や医療制度の確立、学校の問題、ストリートチルドレンの対策など、俺にはまだまだ、やらなきゃならない事が山積みだ。

それに、世界の全てを知るという目標も途中で止まっているし、本当の【全知全能】になるためには、この世界の事をまだまだ知り尽くしていない。

あと、俺には、元々カレーライスを食べるという、究極の目的もある。


この世界は面白い。

さすが、俺が設定しただけはある。

あ、そうそう、忘れてた、あと他の設定者も探さなきゃね。


ま、のんびりとやっていきましょか。


ーーー完ーーー

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無双賢者ヒロシ~異世界に転移した中年のオッサンが過去の脳内設定で無双する。 銀龍院 鈴星 @090105

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