無双賢者ヒロシ~異世界に転移した中年のオッサンが過去の脳内設定で無双する。

銀龍院 鈴星

第1章 エラそうな転移者

第1話 中年のオッサン異世界に転移する

あーあー、嫌になるよな。

若い時は、そりゃ、体も動くし頭も回る。

だが、年をとれば全ての身体能力が低下する。

口に出る言葉は、

『あー昔は良かった。』

『俺、もう年だし。』

だ。

俺はオハラヒロシ。

年齢は45歳。

都会の某会社で、サラリーマンをやっている。

仕事はと言えば、やれば出来るのだが、普段からボーッとしているんで周囲からは『昼行灯ひるあんどん』型サラリーマンなどと呼ばれている。

まあ、解雇予備軍の俺をよくここまで働かせてくれたと会社には感謝しないと駄目だな。


そんな俺が、ある日、会社が開催した日帰りの体験山登りでやらかしちまった。

別にフラグを立てた訳ではないのだが、前日の雨でぬかるんでいた谷あいの道で、つい濡れた枯葉の山を踏んじまった。


滑った後は、ヒャーってな感じでロープなしバンジージャンプだ。

何でこんな道を通ったのか今でも不思議。

俺は死を覚悟したね。

まあ、嫁も子もいない独身の身軽な身分だ。

田舎には兄貴がいて家を継ぐことも無いし、まあ気楽なポジションだった訳で。


だが、神様っているもんだなとつくづく思ったよ。

死んでたら覚めないはずの目が覚めてしまった。


「ここは?」

俺は確かに崖から谷底に転落したはず。

本来ならばそこには川があったりするものなのだが、川どころかそそりたつ谷も見当たらない。

辺りに見えるのは暗く鬱蒼と生い茂る森の木々と、聞こえるのは不気味な鳥や獣の鳴き声だ。

明らかにさっきまでいた場所とは違う。


「どこだ?」

俺が二言目の言葉を発した時、それは突然起こった。


『ここは剣と魔法の世界アルカリオン。ヒロシ様が以前脳内で作られた疑似世界とリンクしました。』

と頭の中で声がした。


「はい?」

まあ、当然と言えば当然の反応だ。

何が剣と魔法の世界だ。

そりゃまあ、昔はファンタジー小説家を目指して色々と剣と魔法の世界を想像して物語を作ったものだ。

キャラクターや、魔法、世界観等の設定を考えたりしたものだが、今の仕事を始めてからは、そんな事も考える暇も無くなるほど仕事に忙殺され、脳内のファンタジー世界は仕事という名の現実世界に押し潰され、俺の中から消滅していった…はず…


「俺、頭、イッたな。」

出てきた答えがこれだった。

まあ、当然だ。

なんせ、20年以上も前の話だからな。

普通なら思い出すのにも時間がかかる。

それがどうだ、谷に滑落した途端に思い出すなど、人間の頭の構造は不思議だなとつくづく思い知らされる。


「ふっふっふ、しかし、笑えるよな。昔、俺が考えた魔法世界の名前が『アルカリオン』だったって久し振りに思い出したぜ。まあ、そんな事を思い出すとは…俺、やっぱり死んだのかな?でも死んだにしても、やけにリアルだし…」

と辺りを再度見回す。


昔読みまくったライトノベルなら、トラックに轢かれて、転生とか、転移とかは定番で見たことはあるが、崖から落ちるパターンはあまり見たことがない。

だが、死んだと思ったら違う世界に飛ばされるなんていうのは、所謂いわゆる、転移のテンプレートと言うやつだなと、そんな言葉も思い出し、笑いが込み上げてきた。

中二病再発か?


だが…再び…声が聞こえる。

また、あの声だ。

頭の上から喋られているようで、デパートの店内放送に似ている。


『このアルカリオンは、ヒロシ様が考えた疑似世界と非常に良く似てはいますが、少し違う現実世界です。』


俺が考えた世界と似ているけど違う世界とか意味わかんねえ。

ただ、ここは地球ではないということは何となく空を見てわかっていた。


今は昼間であるにも関わらず、空には太陽と共にうっすらと出ている衛星が見えていた。

それは、月とは倍以上、全く大きさの違う衛星が白く大きく出ていたのを見たからだ。

これが現実ならば、答えはひとつしかない。


「異世界転移か…」

と俺がボソリと呟くと、例の声がまた聞こえてくる。


『正解です。ちなみに私は【神の導き手】というものでして、ヒロシ様にはこの世界で迷う事の無いように24時間、いつでも対応しますので。何か分からないことがあれば何でも聞いてくださいね。』

と声が一人でしゃべりだす。

24時間対応とか目茶苦茶親切設定だな。

これも俺が脳内で作ったんだったかな?

あまり記憶にないぞ。


「うーん、確かに、昔はラノベ小説家になりたくて、色々と設定をしたものを書いたことがあるけど…内容は忘れてしまったな。確か主人公は賢者だったような気がするが、それもあまり良く覚えていないなあ。」


俺は倒れていた場所で立ち上がった。

体の異常をチェックした。

服は破れていないし、怪我も奇跡的にしていなかった。

持ち物は山登りのために持ってきていたリュックとペットボトルの水、タオル、スマホ、財布等々。


と身の回りを点検していたら、何か目の前に画面というかスクリーンというか…


そうそう、わかっているんですよ。


異世界転移定番のいわゆる『ステータス画面』だよね。

その人間の身体の状態や、職業、レベル、持ち物等、個人の情報が満載の画面の事だ。

ちなみに、これがプレイ中のゲーム以外で見られたら異世界転移決定と言っても過言ではない。


「やれやれ、この年で異世界転移とか、体力的にもかなりハードだな。えーっとどれどれ。」

俺はとりあえず、その画面をチェックした。

恐らく先程、自分の状態をチェックした時に発動したのだろう。


【名前 オハラヒロシ】

【年齢 18】


はい?

名前はいいとして、なんだ、この18歳とは?

【体力 100】

ここの基準がわからんが?

『アルカリオンでの成人の平均体力は10です。』

ああ、なるほどね、ありがとうございます。

ちょっとは転移のギフトとかあるんだね。


【魔力 ∞】

………あの、これって8の字を横にした…のでは無さそうだな。

やっぱりメビウスの輪だよな。

いわゆる無限マーク。


いわゆるって、いわゆるばっかりじゃねーか!

こんなのチートだろ?

俺は過去にこんな設定をした覚えはないぞ?

俺は、ゲームと一緒で小説の中のパワーバランスは必要不可欠だから、あまり主人公にチート能力を与えないようにしていたんだがな…

あっ、でも、違う小説では完全な超人にしていたような…


『ヒロシ様が転移前の世界で設定していたような設定とよく似ていますが、この世界は必ずしも同じでは有りませんから…』

再び【神の導き手】が答える。

ハイハイ、わかってますって、さっき聞いたもんね。

そう言いながら、ステータス画面の確認をさら確認した。


【魔法 記憶整理中のため使用不可】

【スキル 記憶整理中のため使用不可】

【加護 今のところ受信中】

【称号 異世界への滑落者、迷い賢者】


うーん、突っ込みどころ満載だな。

ステータス画面の称号に『迷い賢者』とかちょっと嫌な二つ名があるし…ま、いいか。


【攻撃力 100】

【防御力 100】

うん、簡単でよろしい。


【装備品 】

帽子

手袋

腕時計

ダウンジャケット

長袖カッターシャツ

インナーシャツ

黒色綿パン

パッチ

トランクス

靴下

登山靴

リュック (ペットボトル等在中)


まあ、雪が降っていなかっただけで、転移前の日本は冬場だったしなあ。

しかし、今から考えたらうちの社長も『心身の鍛練のために登山訓練だ。』とか言って会社のレクを勝手に決めてたけど、かなりワンマンだったよな。


って言うか、ここ目茶苦茶暑いんですけど。

俺は思わず、ダウンジャケットを脱ぐ。

どう考えてもここの気温は25度以上はある。

「あっつー!」

思わず声が出る。

体から汗が吹き出ていた。


すると、爽やかな風がこちらに向けて吹いてくる。

「オー。涼しい。ん?」

さっきまで無風状態だったのに急に風が吹いた?

『風魔法を思い出しました。』

あーそうきたのね。

俺はこの時、猛烈に気付いた。

要は自分に必要なものがあったりして、それを過去の記憶と連動して、それを思い出すと、魔法などが修得出来るというやつか?


『半分くらいピンポンでございます。』

いや、そこの突っ込みは要らない。

と言うことは、このダウンジャケットとか手に持つの邪魔だよなって思ったら…


『【スキル インベントリ】を思い出しました。』

あーハイハイ、無限収納ね。

確か、ゲームの影響で設定に入れてたかな。

ん?そんな昔にインベントリって言葉あったっけかなと思いながらも、とりあえずインベントリを使わせてもらう。


ちなみにインベントリは頭の中で現れるように思い浮かべると空中にインベントリのゲートが現れてきた。

何がどれだけ入るのか、入れられないものは何なのかわからないがとりあえずダウンジャケットを入れる。


すると、再びステータス画面が目の前に現れた。

よく観察したら、一定の時間経過で画面が薄くなり消えているのに気付く。

『画面オフ』もしくは『消えろ』と言うと瞬時に消える。

便利なものだ。


現れたステータス画面を見てみると、何やらメッセージみたいなものが出ている。


【チュートリアルを使用しますか?】


おいおい、そんな便利な物があるんならさっさと出せよ。

というか先程からの【神の導き手】さんはチュートリアルではないのか?

チュートリアルとはゲームの序盤なんかでプレイヤーがつまづかないでプレイ出来るように基本操作等を教えてくれる様に設定された親切案内機能だ。


そりゃ使用するに決まっているだろ!

頭の中で返事をする。

『チュートリアル機能を開始します。』

【神の導き手】が応えた。

いや、それと声は同じだが違うのだろうか。

【チュートリアル】だから【チュート】さんと呼ぶことにする。


『このチュートリアルシステムは、この世界で生きていくための基本的な行動や、言語、習慣、生活様式、世界情勢、通貨、物価等々、その都度ヒロシ様の必要に応じてアドバイスさせていただきます。』


何とも心強い言葉ではないか。

確かに、こんな、どこにいるのかわからないような場所に一人ぼっちで放り出されるなんて無理ゲーと同じだよな。

と俺が考えたら、またやって来ました。


【スキル 自動地図作成機能】を思い出しました。

そうだよ、これだよ。これこれ、思い出したよ。

俺の考えた高性能GPS機能付きの自動地図作成機能だ。

今いる場所、つまり現在地を確認する事は重要である。

闇雲に森の中を歩き回って、とんでもないところに出たり、下手をしたら森の中から出られなくなる場合もある。

それに、周囲に危険な物や、注意を要する人物や動物もわかれば、なおのこと良い。


てなことで、とりあえず地図を見た。

隣に解説画面がある。

「ふんふん、この森は『マイズカインの森』と言うのか…こんなとこ設定したかな?で、危険度はE?うーん危険なのかどうかわからんな。」

『危険度はSSSから始まってSS、S、A、B、C、D、E、Fとランク付けされ、この森のこの場所付近の危険度は下から2番目となります。危険度は場所によって変化しますので注意が必要です。なお、この森は奥へ向かうほど危険度が上昇しますので、今の段階で奥へ向かうことはお勧めしません。』

「あーなるほどね。ここが弱い方ということか…助かった…のかな?」

何となくホッとしたが、レベルの基準がよくわからないので結局同じなのだが…

【スキル インベントリ、 自動地図作成機能、気配察知Ⅰ】

ステータス画面のスキルがいつの間にか増えていた。

確か『気配察知』は地図で追いきれないほど速い動きの物や殺気を持っている者など緊急性のあるものに対応するように設定していたような気がする。

まあ、地図作成機能の補助的な役割を持っていると思ってもらいたい。


しかし、この地図をよく見ると、何か近くに色々と魔物がいるし、それに、地図の範囲を拡げて見る限りではこの場所から20km四方には町というか民家が見当たらないんですけど…

どうしたらいいんでしょ。

【チュート】さん助けて下さい。

お願いします。

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