第31話 勇者セブンワンダー

俺は王都ゴートワイナリにいるという勇者セブンワンダーを【スキル 魔神眼 探求(改)】で探した。

スキルの能力が進化と言うかバージョンアップしたので、探す時間がかなり速い。


セブンワンダーはイリノス王国の王都ゴートワイナリ内の宿屋に泊まっているようだった。

仲間は彼の他に四名いて、現在はひとつの部屋に集まっていた。

いずれもパッと見は20代前半というところだろうか。


言い忘れていたが、俺のスキルはバージョンアップしたお陰で、今まで聞こえなかった、人の会話も遠隔地にいても聞こえる様になっていた。


「おい、セブン、いつになったら、ドラゴンの討伐報酬が貰えるんだよ!」

「まだ、何も言ってこないな。」

「バレたんじゃ?」

「まあ、慌てるな、ギルドの奴等にもあの牙と角の事は分かりゃしないって。」

「あれは、誰にも鑑定出来ないって…」

「ま、言われてみりゃ、そうだな。」

「果報は寝て待てってか?」

「ちげえねえ。」

「ハッハッハッハッ!」


何だコイツら?バレるとか、鑑定出来ないとか?

もしかして、角とかいうのは偽物か?


俺は、セブンワンダーを『探し』た。


セブンワンダー

勇者を名乗る魔族の男 120歳

本名、オセイロ・ガルファイザー

イゴウルス・ガルファイザーの弟

ギルドの冒険者で、パーティ『アズモ』のリーダー。

仲間は、ゼルデン、エブエブ、ドラキュエ、クロトリの四人、いずれも魔族。

魔族の身分を隠してギルドの冒険者となる。

最近は、金に困り、外地の安い素材を適当に集め、高額の素材と偽ってギルドに下ろしている詐欺師パーティ。

今回は、ドラゴン討伐をでっち上げ、外地で入手した、力は弱いがやたら骨が硬いと魔族の間では有名な外地に生息する魔物の骨を、ドラゴンの牙や角状に加工し、それを討伐したドラゴンの物と称してギルドに持ち込んでいる最中である。

※外地…人間が住んでいる世界の外にある未開地、または未確認の土地をいう。


えーと、スキルの性能良すぎて怖いんですけど…

ここまで、わかるとは…


「と言うことは、コイツらがギルドに渡しているという牙とか角と言うのは実は偽物で…詐欺師というか、コイツら魔族かよ!しかもドラゴンの討伐も嘘とは。えっ?イゴウルスの弟?どうなってんだ?」

俺は声に出して驚く。


まあ、ギルドを除名されないよう、戦争や盗賊の討伐以外で人は殺していないようだが、まあ、魔族だから力もあるし、イゴウルスの弟だからまあ、魔族の中でも強い方だろうし…ドラゴンを討伐したと言われれば力の弱い人間なら信じてしまうだろう。


しかし、ちょっと性格タチが悪いな。

これは少々、しつけないとダメな感じだな。


と言うことで、俺はミラージュを連れて、翌日、王都ゴートワイナリの冒険者ギルド・ゴートワイナリ支部に行くことにした。

俺が直接、罰を下すより、餅屋は餅屋と言う事で、ギルドの冒険者ならギルドのマスターに対応してもらおうと言う話だ。

まあ、手に余るようであれば俺が出張でばるけどな。


俺は、ゴートワイナリ支部に着くと、そこの受付でギルドマスターとの面会を要求する。

直接、部屋に行くことも出来るが、そこは筋を通す。


「あの、失礼ですが、ギルドマスターは貴方とお知り合いなのでしょうか?」

受付の若い女性は、俺の身なりを疑り深い目で見ながら、尋ねてきた。


「いや、知り合いではないが、俺の名前を言えば通してくれるはずだ。」

「あの、ではお名前を…」

「ヒロシ・オハラ・イリノス」

「えっ?イリノス?」

受付嬢の顔色が変わる。

イリノスは王家の名前だからな、そりゃそうなるだろう。


「少々お待ち下さい。」

慌てて奥の部屋へ入っていった。

まあ、俺とトラブルにならないだけ、どこかの門番よりはいくらかはマシだ。


俺は、その間、冒険者ギルド・ゴートワイナリ支部の中を見ていた。

建物の中は広くて、石と木で出来た建物としては中々の出来だ。

新しく出来たこともあって、まだ木の良い匂いがしている。

冒険者達は、建物内一階に作られた酒場コーナーのカウンターで立ち飲みをしている。

まあ、酒を飲まずに仕事をしろとまでは言われないが、酒を飲んで魔物討伐なんてしたら命がいくつあっても足りないので、そんなことは誰もしない。

大抵は仕事を終えてから飲んでいるのだ。

本格的に酒を飲みたい奴は二階に、そんな居酒屋みたいな店があるようだった。


建物一階の端には掲示板があって、様々なクエストが紙や羊皮紙に書かれて貼ってある。

それを剥がして受付に持っていけば手続きをしてくれるのだが、最近のクエストの内容は、国の復興資材搬送の護衛や鉱山警備等、現在の戦後の復興景気に乗じた盗賊対策のクエストが中心だが、中には魔物の討伐や薬草採取などの従来の各レベル別クエストも受注出来るようだった。


「ヒロシ様、お待たせいたしました。ご案内します。」

先程の受付嬢が戻ってきて、俺を二階にあるギルドマスターの部屋へ案内した。


受付嬢が部屋の扉をノックすると、

「どうぞ、お入り下さい。」

という野太い声が部屋の中から聞こえてきた。


「失礼します。」

受付嬢が扉を開けて、俺を部屋に通す。


部屋の中は、既に【スキル 魔神眼】で見ていたので、特に驚きはしないが、部屋の真ん中に置かれたテーブルの横に大柄な男が一人立っていた。

ギルドマスターのライナウェイだ。

強面で左の頬に大きな傷がある。


「ようこそ、おいで下さいました。ヒロシ様。どうぞ、こちらへ…」

ライナウェイは俺を応接用のテーブル席へ俺を案内した。

俺が真ん中の席に座ると、その隣にミラージュが座る。

ライナウェイは俺の座った反対側へ座った。


「ヒロシ様、本日はどういったご用件で?」

とライナウェイは直ぐに話を切り出してきた。

面倒な言い回しを嫌うタイプの人間らしい。

元々は、別の町の冒険者ギルドでギルドマスターをしていたのだが、このゴートワイナリが王都になるということで、急遽、ギルド組合から抜擢されたということらしく、性格、実力共に折り紙つきとの事だった。。


「ああ、その事なんだが…」

俺はセブンワンダー達の事を話すと、ライナウェイは難しい顔をしながら。

「と言うことは、あれは紛い物の牙と角なのですか…?」

「そうだ、そう言う話が出ている。」

「確かにあれは本来、ドラゴンが持っている様な牙や角と言うよりも、何か動物の骨の様なものに似ているな程度には思っておりました。しかし、かと言って、あれが何の素材なのかも証明出来ませんので、現在は時間を稼いで、何の素材なのか探っている最中でした。これまで、彼等が持ち込んでいた分については、結局、何の素材なのか分からずじまいで、彼等に言われるがままにお金を支払って参りました。ですが、ヒロシ様からこのような救いとも思える様な話を持ってきて頂き本当に有り難く思っております。」

「なるほどな、では一度俺にもその牙と角を見せてはもらえないか?」

「あれをヒロシ様が?」

「そうだ。」

「別に構いませんが…」

「うむ。」

ライナウェイは、お茶を運んできたギルドの女性職員に、保管されている例の物を持ってくるように指示した。


目の前に持って来られた牙や角の様な代物は、確かに言われてみれば、パッと見、牙や角に見えなくもない。

しかし、俺が【スキル 魔神眼 探求(改)】を使ってその角を見た。


ビッグラクーンの骨

神の隔壁を越え、そのさらに西方に住む巨大なタヌキの魔物の骨。

肉は食用で食べることが出来るが、この骨は非常に硬く、魔族の間では食器や様々な道具に加工して使用されている。


「なるほどな、巨大なタヌキとはな、はっはっはっ、タヌキに化かされたとかか?奴等も中々洒落っ気があるな。」

俺は、とりあえず、鑑定の結果をライナウェイに伝える。


「何ですと!大きなタヌキですと、うぬぬぬ何と言う事だ、冒険者ギルドの恥さらしめ!直ぐに使いを出して、奴等を王国の警備隊に突き出さねば!」

「まあまあ、ライナウェイよ、実はな…」

俺は怒り狂うライナウェイを鎮めて、セブンワンダー達の正体を明かした。


「な?!彼等が魔族ですと?」

「そうだ、それも、パーティリーダーのセブンワンダーは魔王の弟だ。」

「ななな、なんですと!?魔王の弟?!それは本当なのですか?!」

「間違いない。」

「それは、どちらからの情報で?」

ライナウェイも流石にそこまで真に受けて信じる程バカではない。

だが、事実なのだ。


「それは、俺のスキルだ。」

「へ?ヒロシ様のスキルですか?」

「そうだ、ライナウェイの事も直ぐにわかるぞ。言ってみようか?」

「あ、いや、それは結構です。わかりました。それでは、とにかく彼等をここに呼び出しましょう。」

何がわかったのか、わからないが、とりあえず彼等をこちらに呼んで話を聞こうという事らしい。

うーん、話がまともに出来る奴等なのかな?


という事で、彼等の元へ、『角と牙の鑑定が終わった』という連絡が入り、翌日、五人は冒険者ギルド・ゴートワイナリ支部にやって来た。


そして、その結果はギルドマスターの部屋ではなく、ギルドの建物の裏手にある訓練所で伝えられる事となった。


呼び出されたセブンワンダーは、訓練所の真ん中で立っているライナウェイと俺に向かって、

「おいおい、ライナウェイさんよ!こんなところに呼び出して何の冗談だよ?」

と呆れたような表情で話しかけた。

他の四人も同じ様な柄の悪い態度で俺たちの方を見ている。

偽物がバレたと気付いている様子だが、まだ態度に余裕があるということは、ライナウェイを力付くでどうにかして、この話を無かったことにでもするつもりか?


「お前達に尋ねる!あの角や牙はどこから持って来た?」

本当に単刀直入に聞くねライナウェイ君。


「はあ?今さら何言ってんすか?あれは俺達がアズニュート火山のドラゴンを退治した時にドラゴンから剥ぎ取ったやつだと説明したはずだろ。」

セブンワンダーは少しイラついた様な口調てライナウェイに応える。

すると、ライナウェイは、

「あれは、鑑定の結果、ドラゴンのものではないと鑑定された。」

と彼等に告げた。

すると、その言葉を待っていたかのようにセブンワンダーは、

「はあぁ?ドラゴンのものではないって?じゃあ、何の牙や角なのか言ってみろよ!あれだけ硬い牙や角がドラゴンのものじゃないってんなら、一体、何なのか、ハッキリと答えて貰おうじゃないか!なあ、みんな!」

と他の仲間も煽動する。

「ああ、そうだ、そうだ!」

「何の牙や角だ?ハッキリと言えよ!ギャハハハ!」

「金を払いたくないから、偽物扱いにしたいんだろ?はははは!」

「お前、俺達を誰だと思ってんだ?一度、死んでみっか?」

と口々にライナウェイを罵る。

ああ、ウェルネスト君、君との約束は今回、守れなさそうだよ。

と心の中で彼に手を合わせる俺だった。

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