第三章 食材を求めて

第18話 広い世界

俺が旅を初めて、最初にしたことは【スキル 神の目 探索 (範囲指定 未開地)(対象指定 カレーライスの為の食材)】により、食材を探したことだった。

香辛料などについては、とりあえずカレーの基本となるクミン、ターメリック、コリアンダー、カルダモン、チリペッパー、オールスパイスの6種類に類似した系統の香辛料は押さえておきたいところだ。

なので、ある程度、俺が覚えている限りの食材の特徴を検索項目に入れる。


先ずはクミンかなあ、香りのベースだからなあ。

そこは、【スキル 適当】を加えて【探索】させる。


反応を待っている間に、次のスパイスを指定して探索しようと思ったが、一度に探索しても、発見場所には俺一人しか行かないから、複数の検索を掛けても意味がない。


探索速度を上げるためにも、複数の【探索】は控えることにし、最大でも二種類にとどめた。


しかし、俺はこの世界がこんなに広いとは思わなかった。

確かに地球もデカイが、こちらの世界もスケールがデカイのはひけを取らなかった。

山や海、川、森、全てが俺の想像を超える大きさ、そして、形状もこの間の円柱形の火山とかも驚いたが、森の植物も凄いものがある。

食虫植物の巨大版とでもいうのだろうか、動くものに反応してネット状の物を地面から持ち上げ動物を捕らえては食べまくっている木とか、地面に出ている根の部分を踏むと強力な睡眠ガスや麻痺ガスが発生し、二度と起き上がらせず、そのまま養分にしてしまう恐ろしい植物など、危険な植物が生息している場所があれば、逆に動物の方についても、それらの植物に捕まらないために、耐性を持っていたり、その力に負けないほどの巨大な体、例えば昔の恐竜の様に大きな体格を手に入れていたりする者がいて、爬虫類とか哺乳類にも多様性を有していた。


それに、地球ではファンタジーの世界の生き物と言われた動物や魔物と言われるものも生息し、俺が最初にこの世界に降りたった場所となる、『マイズカインの森』にいた、ゴブリンや魔猪などもそうであり、あれらはその中でも最弱に近い事がよくわかる。

そして誰が調査し、決めたのかわからないが最初に【神の導き手】さんが教えてくれた通り、森には危険度というものが存在していて、SSSから始まり、SS、S、A、B、C、D、E、Fとランク付けされていて、俺はSS級の森というのに一度、行ってみたが、まずそこに棲む生き物の大きさが半端ない。


地球にはシロナガスクジラという全長が30mを超える哺乳類が最大の生物として生息しているらしいが、そんなレベルではなかった。

体長が100mを超える巨大な猿やコウモリ、鳥等がいた。

地球上では小型と言われる動物がそのまま巨大化しているのだ。

当然ながら、大きくなればなるほど自重で動けなくなり、動作も遅いと思われたが、以外にも速く動く。

重力の問題があるのではと思ったが、体の構造や、体を構成する肉体組織の成分などが違うのだろうか、彼らは全くそれらの事を気にすることもなく生きていた。


だが、実際に問題なのはそれら魔物や自然の大きさや強さではなく、人間の事である。

それは、今、この世界の中で、地上に住んでいる人間の数は地球よりも遥かに少なく、また、人が住んでいる場所というよりは、住める場所も非常に限られていて、先に説明したように、他の場所には、人間では太刀打ち出来ないような、とても強くて恐ろしい魔物が住んでいたり、また非常に厳しい自然環境のため人間が住む事すらできないのだ。

俺は、そんな悪辣で過酷な環境の中に生息している動植物の特殊な食材を探しているというわけなのだ。


という事で、今、俺は、ランクB級の土地に来ている。

ここには危険な動物がいない訳ではないが、あまり生息はしていない。

どちらかというと環境が過酷過ぎるという方だろう。


砂漠地帯だ。


まあ、完全な砂漠という感じではなく、所々に草木はあるが、それらの植物も少ない雨水で生息出来るように生体を変化させ、地下に恐ろしい程長い根を生やしていたり、空気中の水分を吸収するための機能を持つ体を持っていたりしていた。

そんな中に『クミン』に似た植物が生息していた。

だが、これはあくまでも、俺には参考でしかない。

というのも、最終的に、それらの植物は『人間の住む環境で育てる事が可能であること』というのが目的なのだ。

こんな、過酷な場所に毎回、採取に来なければならないような食材は、俺にとってだけではなくその他の人間に安定した供給ができないからだ。

なぜ、そんな事を言うのかって?

そんなもの、皆に『カレーライス』の美味しさを共有して欲しいからに他ならない。


一人だけ美味いものを食べるのはよろしくない。

そこには進化や成長は見られない。

他の人と共有することによって、そこから多様性が生まれるからだ。

ここに棲む他の動物と同じく我々人間も様々な人種がいる。

料理の味もそうだ。

色んな人が食べることによって、後々そこに工夫や改良が加えられたりする。

新たな味が、そこから生まれるかも知れないではないか!

だからこそ、人間の住める環境で育てる事が可能な食材でなくてはならないのだ。

まあ、俺にも考えはある。

そんな、過酷な環境でしか育てられないという食材なら、料理だけでなく食材自体も『改良』すれば良いではないかということだ。

だが、それはあくまでも、『自然による改変』、つまり遺伝子組み換えなどの人間による『改造』ではなく、自然の意思による『進化』を優先させる。

それが、人間にとって有益であれ無益であれ、『神の意思』を優先するというわけだ。

それが、例え俺にとって『改良』でなく、『改悪』であったとしても、それは多様性のひとつであり、何か別のものに役立つ事が有るかもしれない。

その『進化』過程については、今の俺にはわからない。

恐らく、【神の導き手】さんが言っていたのは、その事のひとつだと思う。


とりあえず、俺はその『クミン』に成分が類似するという植物を採取した。

【スキル 神の目 探索】で確認する。

『名称 なし 成分 分量 100g あたり

カロリー (kcal) 375

脂質 21g

飽和脂肪酸 1.5g

多価不飽和脂肪酸 3.3g

一価不飽和脂肪酸 14g

コレステロール 0mg

ナトリウム 169mg

カリウム 1,787mg

炭水化物 44g

食物繊維 12g

糖質 2.4g

タンパク質 16g

ビタミンA 1,271IU

ビタミンC 8.7mg

カルシウム 930mg

鉄分 65.6mg

ビタミンD 0 IU

ビタミンB6 0.4mg

コバラミン 0µg

マグネシウム 365mg 』


うーん、これが『クミン』に近いのかどうか良くわからないんだが。

とりあえずもって帰るか。


ということで、とりあえずインベントリに放り込む。


その時だった。

蜃気楼の様に揺らめく何かが上空近付いてきた。

姿はわからないんだが、俺の【スキル 神の目 探索】+【自動絶対防御】がその『何者か』に反応している。

だが、これは確実に殺気を放っている。

俺は直ぐにその場所から高速移動をする。

当然ながらその、は俺の音速を超える速度には付いてこれない。

それに、俺は【隠蔽魔法 ステルス】により瞬時に姿を消して、その相手に【スキル 神の目 探索】を放つ。


その正体は、揺らめく鷲『ヒートヘイズイーグル』という魔物であった。

体長は5m程だが、、翼を拡げれば10m以上にもなる、巨大な鷲、基本肉食、体を振動させると光を屈折させる特殊な羽を持っている。

その振動音は低音のため中々聞き取り難く、近付いて来るまでわからない。

また、その振動を使い、口から発生させる『超音波振動』による破壊攻撃を得意とするらしい。

砂漠地帯を中心に生息しているため『砂漠の死神』と呼ばれ恐れられている。

性格は獰猛で、単独での行動を好む。

魔物のレベルS級


えっ?S級?

どうして、こんなところに?


『『ヒートヘイズイーグル』は移動力と行動範囲が広いため砂漠地帯続きでここまで来たものと思われます。』

【神の導き手】さんの解説は相変わらず、痒いところに手が届くって感じだね。

『ありがとうございます。』


なるほど、さて、これはどうしたものか。

えっ?殺さないのかって?

こんな生物、珍しいじゃないか!

殺すのは簡単だが、捕まえて飼い慣らしたり出来ないのかな?


そう思い、俺は適当な魔法を探す。

確かテイマーの呪文か何かが【魔法全鑑】にあったはずだが…


【特殊魔法 テイミング】

対象を飼い慣らす魔法。

対象を取得する場合、ある程度、対象を弱らせ、屈服させた後、魔法を展開させる。

対象は、種族により、ある程度の言語を理解するようになり、飼い主オーナーの命令に従順となる。

テイミング後、オーナーの力量により、対象の能力が変化することもある。

上位に【隷属魔法 スレイブ】があるが、これについては、強制的に相手の脳神経を制御するので、対象を弱らせ屈服させる必要はない。

だが、言語理解はテイミングほどは出来ず、また、能力の上昇はない。


なるほどな、じゃあここは一丁、テイミングにチャレンジしてみるか。


俺は、もちろん【天照】は封印だ。

ここは、相手を精神的に屈服させなくてはならないからな。

強者は、より強いものに憧れ、従う習性がある。

そのためにも奴の『闘争心』を【天照】で斬ることはできない。

これをしたら、後での最強魔物が手に入ってしまうからな。


なので、俺は【スキル 超人】の力で対処することとした。

まあ、これだけでも、かなり反則技チートなんだろうが。

先ずは、透視力でヒートヘイズイーグルの姿を確認する。


『カッコいい!』

その美しく優雅な、それでいて力強い動きは俺を一瞬で虜にする。


だが、俺はこの時、この『テイミング』が後々、非常に面倒なことに巻き込まれる要因になる事に全く気付いていなかった。


俺は殺さない程度に【スキル 適当】の能力を使って奴に近付いて、拳で殴り付けた。

腹部を一発殴り付けると、ヒートヘイズイーグルは悶絶して砂地に落下する。


この時点では、まだ、ヒートヘイズイーグルの闘争心はまだ残っている。俺が【特殊魔法 ステルス】を解除し、俺の姿を確認すると、物凄い形相で俺を睨む。

だが、あまりにも痛いのか立ち上がれない様だ。

俺は、直ぐにヒートヘイズイーグルに【回復魔法】を掛ける。

完全回復したヒートヘイズイーグルは一瞬、何が起こったのかわからなかったようだが、体が元に戻ったため、直ぐにその場から、『敵』であり『獲物』である俺に攻撃を再開する。

先ずは得意技の『超音波破壊』だ。

だが、俺に掛かっている【自動絶対防御】はそれすら弾く。

俺はまた、ヒートヘイズイーグルに高速で近付き、今度は頭部を張り手で殴り付けた。

ヒートヘイズイーグルはそのまま、30m程吹っ飛び、地面を転がる。

大きな砂埃が辺りに舞い、再び動きが止まる。

ヒートヘイズイーグルは失神している様だったが、俺は再び回復させる。

奴は頭を振りながら気が付くと、ハッとした様に慌てて起き上がり、今度は空へ飛び上がり巨大で鋭利な爪で俺を掴み殺そうとした。

だが、俺は、【自動絶対防御】を瞬間的に解除して、それを正面から受け止め、爪の部分を引き千切る。


「グギャアア!!」

爪は剥がれずに、足首辺りまで足の指が割けた。

ヒートヘイズイーグルは余りの痛さに、その場にのたうち回る。

俺は再度、回復魔法で完全回復させた。


流石のヒートヘイズイーグルもここまでされれば、俺が強くて危険な人物であることを認識したようだ。

なので慌ててその場を飛び立ち逃げようとする。

だが、俺はその前に超高速で回り込み、再び腹部と翼を殴り付けた。

再び地面に墜落するヒートヘイズイーグル。


俺はまた、回復魔法を掛けて元に戻す。


俺を見るヒートヘイズイーグルの闘争心に燃え上がっていた目が、既に恐怖で濁っていた。

体が恐怖で萎縮している。


あっ!


ヒートヘイズイーグルは逃げることを諦め、その場に翼を伏せて頭を俺に下げた。

土下座だ。

完全降伏したようだ。


俺はそれを見届けると、【特殊魔法 テイミング】を目の前のヒートヘイズイーグルに展開した。

眩しい光がヒートヘイズイーグルの体を包み、テイミングが完了する。

さっきより、体がかなり大きくなっている。

それに、何か能力もいくつか付与されたみたいだ。

これがオーナー特典ギフトというやつか。


一応、従魔として上下関係をハッキリとさせておくため、

「今後は俺がお前のだからな。」

と言って、最初に言い聞かせた。

『ヒートヘイズイーグル』は頭を下げて頷いた。

言葉は理解できる様だ。


『名前を付けて下さい。』

【チュートリアル】さんが久しぶりに声を出した。


はいはい、名前だね、お約束でタマとかポチなんか付けてしまえば可愛そうだから、カッコいいのがいいなあ。


うーん、あれ?

テイミングする事はすごく早く思い付いたのに名前がなかなか思い付かない。

ちょっと待って…


『お急ぎ下さい。テイミングタイムのリミットが迫っています。』


いやいや、何だよ、そのテイミングタイムって、時間制限があるなんて聞いてないし!

っていうか、確認してなかったけど、そもそも、こいつオスなのメスなの?


『メスです。』


えっ?メスなの?

アブねえ、『ボス』とか『ジェームズ』とか男の名前ばっかり考えてた!


くー!早くしなくては。


『後、一分です。』


マジかよ、うーん、えーと、メスと言うことは、女だろ子供の『子』が最後に付いた方が…あーいやいや、やっぱりカタカナ文字の方が良いよな。


『あと、30秒です。』


ヒー!ちょ、ちょっと!


『後、10秒!9,8,7,6,…』


えーと、ん?

その時だ、俺の前に蜃気楼が見えた。

砂漠にはよくある光景だと聞いていたが、初めて見た。

空気の温度差や空気密度の違いで遠くの景色が浮かび上がるというアレだ。


『3,2,1…』


「な、名前はミラージュだ!ミラージュで頼む!」


『了解しました。』


ふーギリギリだよ。

まあ、ヒートヘイズイーグルの特徴にも合ってるし、とりあえず、これでいいだろう。

と俺がチラッとミラージュの方を見たら、とんでもない事が起こっていた。



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