第19話 ミラージュ
俺が砂漠地帯で出会ったS級の魔物である『ヒートヘイズイーグル』という鷲の魔物をテイミングの魔法により、従魔にした。
何とか、制限時間ギリギリで、名前を『ミラージュ』と名付けたのだが、俺がミラージュの方を見たらとんでもないことになってしまったのだ。
俺が名付けを終えて、ホッとしていたら、再び眩しい光がミラージュを包み込んでいた。
「あれ?」
段々とミラージュを包んだ光が小さくなる。
「えっ?えっ?」
光はやがて薄くなり消えたが、そこには一人の少女が立っていた。
年の頃は、子供をもったことがないし、興味がないのでよくわからんが…4歳~6歳位か…
俺は一応、賢者、読んで字のごとく、『賢い人』だ。
当然ながら、『ヒートヘイズイーグル』のミラージュがその少女に変化したんであろうということは直ぐに理解はしたが、少し問題があった。
おい、素っ裸だよ!
これはイカーン!
法律的にも、道徳的にも、コンプライアンス的にもマズイぞー!
直ぐにインベントリから俺が予備で持っていた服を出してきて着せる。
ブカブカだが、何とか、シャツとズボンを履かせ袖口等をめくって長さを調節すると少しは落ち着いた。
くそ!何でまた、人間に変化するんだよ、 それに女、それも少女!
ふざけるな!
こんなの連れてたら、『ロリコン賢者』とか『ロリコン大公爵』などと言われるに決まってるわ!
「ご主人たま…」
「ひい!」
後からミラージュが、声をかけてきた。
急に声をかけられれば誰だって驚くし、こんな声もだす。
それに、自身が今後背負うであろう社会的な『負』の立場を考えていた時に、声を掛けられればなおさらだ。
よく見ると、顔立ちは可愛らしい顔をしている。
いやいや、違う、違う!俺は客観的に表現したまでで、興味があるとか幼女趣味とかそんなんじゃないんだからね。
客観的にミラージュを表現すると、彼女は髪の毛は翼の色と同じ虹色がかったシルバーだ。
身長は100cmあるかないか程度、あまり、飯を食っていなかったのか痩せている。
まあ、こんな痩せた環境だからしょうがないんだろうが…
だが、テイミングは言わば俺の勝手な行動により、やってしまった事だ。
従魔とはいえ、ひとつの命を預かると言うことは、保護責任があるという事であり、今後はきちんと育てなければならないだろうし、勝手に捨てることは絶対に出来ない。
俺はため息を吐きながら、ミラージュに声を掛ける。
「おい、ミラージュ。」
「あい、何でございましゅか?ご主人たま。」
俺はその声を聞いて腰が砕けそうになる程の衝撃を受ける。
ご主人たまって、うう、何で少女なんだよう…こんな喋りも反則だろ!
誰の設定だよ!
精神的ダメージが俺を襲い、少女にご主人様と呼ばせる背徳感が俺の体表に鳥肌を立てさせる。
くそっ、割りきれ俺!
とりあえず俺は、何とか気を持ち直し、今後、ミラージュを従魔として使役し、この魔物の力を活用する上で、基本的な能力を確認していく事とした。
スキルである程度のことはわかるのだが、細かいところまでは聞き取らないとわからない。
「お前は何か得意なことはあるのか?」
「得意なことれすか?えーと、口からガーッてやってモノを壊すとかれきます。」
「あー、『超音波破壊』な。」
「ちょーおんぱはかい?」
あー、なるほどな、ギフトで言葉は何とかしゃべれるようになったが、あんまり知識は無さそうだ。
まあ、姿も子供だし、まだ『ヒートヘイズイーグル』といっても幼体だったのかも知れないな。
そんな個体を殴り付けてテイミングしていた何て言ったら、市民団体とかから、『動物虐待』とか、いや子供の姿をしているから『児童虐待』とか言われそうだな。
とにかく、先ずは人間の事とか、社会常識とか色々と教えにゃならんだろうな。
と言うことで、先程のミラージュの得意技の話に会話を戻した。
「『超音波破壊』だ高周波の音を共鳴させて物を壊す力だ。」
「わかりますた。」
と言いながら、ミラージュは敬礼の様に片手を額の横に持っていく。
「……」
わざとだな、絶対…俺じゃない、誰の設定だ?
ここで、他者の設定の介入を疑う。
俺の脳内設定が存在する世界という話だが、それとは少し違うという剣と魔法の世界『アルカリオン』。
他者の設定が混在していても不思議ではない。
「まあいい、他には?」
「他れすか?えーと、体をふるわせたら、見えなくなりましゅ。」
「あー、さっきやってたヤツだな。」
ミラージュのスキルを確認すると『電磁波吸収不可』とか『可視光透過』とか、うーん、よくわからないが、間違いない、やっぱり誰かの設定だな。
俺にはこんな設定は出来ない。
だが、この件は、俺に警鐘を与えてくれた。
これは俺の仮説だが、俺以外の、転生者もしくは転移者による設定、もしくは、この世界独自の理屈というか法則によるものの影響があったとして、前者の場合は、俺以外に転生者もしくは転移者が存在するということであり、後者ならば神またはそれに近い存在によるものであるということである。
だが、俺の考えでは、前者である。
というのはミラージュ自身が、余りにも地球、いや日本という国における、アニメやマンガの幼女設定に近いからに他ならない。
しゃべり方、年齢層、仕草、どれを取ってもジャパニメーションの世界に酷似しているからなのだ。
これを他者の設定と言わずして何と言うのか!
この様な、現象というか、種の進化は神のように世界を改変する力を持ってしても、ここまでの詳細な設定はなかなか出来るものではないだろう。
だが、この世界への招き手はやはり『神』なのだろうが、その点についても、どうにも気になるところだ。
ミラージュの容姿に関する『設定』とは別の…『設定者』の存在を疑う俺。
俺の仮説が正しければ、『神』=『設定者』であり、何か大きな『設定』=『神の意思』の力が作用して、俺をこの世界に転移させたのかも知れない。
その者に会えるのであれば会いたいところだし、それに、もし俺と志を同じくした人物、つまり、ミラージュを設定した者が、この世界に巻き込まれているのであれば一度お目にかかりたいものだ。
話がまたずれてしまったので、元に戻そう。
まあ、事情はどうあれ、ミラージュは俺に同行させることにした。
流石、魔法世界の生き物だ。
ミラージュは翼が無くとも、自身の魔力の力で浮遊し、空を飛んでいる。
そもそも、あんな巨体で動物が空を飛行すること自体が無理ゲーだ。
不思議な力『魔力』さえあれば多少の違和感は吹っ飛んでしまう。
まあ、こうしてみれば『設定』次第で何でもありなんだなと思う。
俺とミラージュは空を飛んで移動しているのだが、ミラージュは俺ほどの速度で飛行することが出来ないため、俺はやむ無く、ミラージュの速度に合わせて飛んでやった。
まあ、それでも結構速い方だったと思う。
とにかく、俺は次の目的地に行くことにした。
次の場所は、標高が10000mを超す高山地帯であった。
高山地帯と言っても、切り立った山ではなく、どちらかというと、高原に近い。
草原が広がるその場所に、ターメリックに成分が似た植物が生息しているらしい。
元々、ターメリックは日本では『ウコン』とか、沖縄の方では『うっちん』とか呼ばれていて、似ているがどちらも決して『ウン○』とか『うん○』とは呼ばない。
分かっていると思うが、念のために言っておいた。
こんなことを言って喜ぶのは小学生レベルの奴とだけ言っておこう。
そして、ようやく目的地に到着したが、そこは高地のため、かなり寒いのと、気圧が低いので、空気が薄く、かなり息苦しく感じられる。
そりゃエベレストより高いんだから仕方がないでしょ。
まあ、俺は【スキル 超人】で平気だったのだが、元の体であれば一貫の終わりであろう。
この体なら下手をすれば宇宙空間にだって生身でいることが出来るかもしれない。
ミラージュは砂漠の魔物なので駄目かなと思ったが、案外平気というか大丈夫だった。
話を聞くと、砂漠の夜は昼の残虐な暑さと違って逆に、かなり寒くなるらしく、その温度差を考えると余り寒いとは思わないらしい。
そして、問題のターメリックなのだが、この植物は本来、暖かい地方で生息しているのだが、この世界では寒い土地で生息していた。
これはカレーの黄色い色付けに使用するのでカレーライス作りには欠かせない食材だ。
今回のウコン(仮)は、高原の平地ではなく、途中に所々ある絶壁の岩に張り付くようにして、それも、かなり採取困難な場所にしか生えていなかった。
というのも、これを主食としている魔物がいるらしく、とりやすい場所となる高原の平地部分については、ほぼ全て食い尽くされて無くなっていたようだ。
どんだけ好きなんだ?
今回、発見した植物の主成分を【探索】したところ、100 gあたりの栄養価については、
エネルギー 321kcal
炭水化物 67.94g
糖類 3.24g
食物繊維 23.5g
脂肪 3.25g
飽和脂肪酸 1.841g
一価不飽和 0.446g
多価不飽和 0.756g
タンパク質 9.7g
【ビタミン】
チアミン (B1) 0.059mg
リボフラビン (B2) 0.153mg
ナイアシン (B3) 1.355mg
パントテン酸 (B5) 0.543mg
ビタミンB6 0.105mg
葉酸 (B9) 20µg
ビタミンC 0.8mg
ビタミンE 4.33mg
ビタミンK 13.5µg
【ミネラル】
ナトリウム 28mg
カリウム 2078mg
カルシウム 169mg
マグネシウム 207mg
リン 300mg
鉄分 55.30mg
亜鉛 4.52mg
銅 1.301mg
マンガン 19.600mg
セレン 6.3µg
【その他の成分】
水分 12.86g
【神の導き手】さんの話によると、主成分はほとんどウコンと似ているらしいのだが、あとは精製してみて、その成分の微妙な違いが味の変化にどう関わってくるのかわからないみたいであった。
まあ、この世界では誰も食べたことがない食材だけに、味は未確認だろうし、当然ながら、俺の知識の宝庫【全知全能】のバックボーンとなる全世界の【図書館の情報】では全く役には立たなかったことは言うまでも無い。
とにかく今回採取した植物は屋敷に帰ってから、精製してみようとは思っている。
確か、煮沸して、乾燥させてから粉末にするとかだった様な気がする。
わからなければ、【神の導き手】さんと、【スキル 適当】で何とかしてもらおう。
あと、実は、俺が成分分析をする時に【スキル 神の目】を展開していたが、その際、俺達に近付く不穏な影があった。
多分、あのウコン(仮)を主食とする魔物の気配だと思われたが、どうもミラージュの姿に気付き近寄るのを止めたようだ。
気性が荒そうな感じであったが、その辺りはミラージュが体に纏う、捕食者としての死の臭いがその者の襲撃を躊躇させたのか、その空気を読んだようだ。
まあ、ウコンみたいな植物を食べるのだから、基本は草食動物だろうし、肉食でしかもS級の魔物である『ヒートヘイズイーグル』の気配なんぞ感じたら絶対に姿は見せないだろうな。
ミラージュも何かを感じていたようだが、しばらくすると何事もなかったかの様に、高原を走り回っていた。
まあ、ここはあまり長居をするところではない。
長居をするには、寒すぎるし、空気が薄すぎる。
早く屋敷に帰って、暖かいお茶でも飲みたいものだ。
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