第43話:冷静に合同魔力実技試験に出る〜前編〜
私とクシュナは昼休み学園の屋上に来ていた。
ここなら、貴族学校に通うお嬢様、御坊ちゃまはやってこないだろうと言うことで秘密の会議はよくここで開かれている。
屋上は地上6階、屋上の中心部には時を知らせる鐘が取り付けられていた。
「それで、美琴、いやエフィスでもどちらでもいいわ。ジュノー殿下を落とす方法は思いついた?」
クシュナは王子殿下を落とすため毎日彼に挨拶運動を続けている。
校舎ですれ違えば、挨拶をし、放課後帰る時間はなるべく王子が帰る時間を見計らいすれ違い挨拶をし、図書館で目撃情報が流れれば急遽現場に向かい…などの非常に地道な努力を続けていらっしゃった。
ところで私は前々から王子の攻略方法に関してある仮説を考えていた。
命題:「王子は強いものが好き」である。
彼はドラゴンが好きである。彼が言うには、ドラゴンには覇者の風格があって強い!だから好きとのこと。つまり、王子は強いものがお好きなのではないだろうか。
その好きがどう言う好きかは置いておいて、強いものには興味反応を示す。
私はそう結論付けていた。
私はクシュナに思い切って提案してみることにした。
「クシュナ、今度の魔力実技試験あるじゃない?全学年合同の。
その時、あなたはジュノー殿下にあなたが無類にお強いことを見せつけてあげなさい!私の予想だと、ジュノー殿下は強いものがお好きよ。絶対あなたに強い興味を持つはず、間違いないわ。」
クシュナは急に背筋が伸びた。
強く拳を握りしめ高くあげる。
「それ、面白そうじゃない。受けて立つわ!!」
瞳に炎を浮かべて高らかに宣言するのであった。
(→お二方?これは乙女ゲームであると言うことを忘れていません?)
全学年合同魔力実技試験。
これは年に一度ある体力試験と体育祭を混ぜたような行事で乙女ゲームの世界ではあまり取り扱われてこなかったものだった。
(→当たり前よね、説明聞いているだけで汗臭いわ…)
学年ごとに実力者1位を決め、そのあと、その者が選んだ人間とペアを組み、全学年、3チーム対抗戦試合を行うと言うもの。対抗戦といっても、魔獣相手に3チームが結託して捕まえると言う内容なんだけど…。
*****
いよいよ実技試験当日がやってきた。
クシュナはと言うと…とてつもなく張り切っていた。
彼女は気合を入れるためと言ってピンクの長いゆるふわヘアを、あろうことかボブにしてイメチェンしていたのである。
「ご機嫌よう、アティス。
本日私は、学年一位を目指し、そしてあなたを指名して全学年対抗戦に出場するつもりでいますの。ですから、アティス。心の準備をしておくように」
そう言うと彼女は颯爽と私の前を横切って行った。
カーキー色の軍服のような装いに彼女の特徴的な桃色の髪がフワッとまう。
スラット伸びた足に長い黒革ブーツを履きこなす今朝の彼女は、美しすぎる造形美と雄志が相まって中性的な印象を与えた。
なんか今日のクシュナかっこいい…
******
試合が始まった。
まず、私はと言うと結果三回戦敗退でした。
普通に全属性の私は強いはずなのですが、美琴もエフィスもあまり他人を傷つけたり自分が痛い思いをするのは嫌いなタイプで、基本何も相手には仕掛けない方向だった。
一回戦目は、私の睨みが怖すぎたのか相手がすぐ降参して不戦勝。
二回戦目は、相手の攻撃がなぜか不発して不戦勝。
三回戦目は、クシュナに対戦相手があたって、作戦を優先させるために気絶したフリして不戦敗。
一方、クシュナは着実にその後も勝利を重ね、8回もの戦いを打ち勝ち学年優勝を飾った。クシュナのあまりの勇姿に、男子どころか女子生徒まで黄色い悲鳴を上げている。クシュナ、もともとヒロインだし華あるし格好いいし最高じゃん。
これでジュノー殿下もイチコロよ。
***
お昼の後、学年優秀者が発表された。
一年優勝:クシュナ・ハルビン
二年優勝:ジュリアス・ハルビン
三年優勝:ホーミン・アーバン
(→さすがハルビン侯爵家、歴代騎士団長輩出率最多の名門貴族だけありますね。)
クシュナとジュリアスが並んで壇上に立つ。
ううん??なんだかジュリアスよりもクシュナの方がイケメンに見えるのはなぜかな‥?ま、ジュリアスもともとウサギみたいな感じで可愛い系だったししょうがないと言うことにしておこう…。
私たちは、二人の隣に立つ黒髪の青年に目を移した。三年生優勝のホーミン・アーバンという人物だ…しかし、どこかで見覚えがある。
「それでは優勝者は、ペアの指名をお願いします。まず、クシュナ・ハルビン。」
「はい。アティス・ハーベル嬢を指名いたします。」
みんながざわざわと私を見た。男子からも女子からもすごい冷たい視線を向けられて…凍りつきそうです。
「次、ジュリアス・ハルビン。」
「ジュノー殿下、ともに来てくださいますか?」
会場が急に鎮まった。王子を危険な魔獣との戦闘に駆り出すのはいかがだろうか。いくら先生や皆のいる前だからといって、国の重要人物である第二王子を立たせるわけにはいかない。
「おい、ジュリアス、何を考えている。王子をそんな危険な目に合わせるというのか…私を指名しろ」
そう声を張り上げたのは宰相息子のジャミンだった。
「おお?ジャミン、心配するな。私、ホーミン・アーバンが弟に代わってジュノー殿下をお守りするよ。」
ジャミンは水晶のような瞳を大きく見開いていた。
私もようやく思い出せて驚いた。そうだ、ジャミンがジョーカールートで出てくる、ジャミンがコンプレックスを持つ兄上、出来の良すぎる兄上その人だ!!
「ジャミン、心配するな。私は常に守られるような姫ではないぞ。それに私も魔獣討伐について行った経験もあるしな」
ジュノー殿下は口が開きっぱなしのジャミンのかたをポンと叩いた。
こうして午後の三学年合同魔獣捕獲試合が開始されるのだった。
今年の魔獣はよりにもよって水属性の魔獣ケルピーだった。
鎖で繋がれたケルピーは戦車のように巨大で勇ましく、その目には憎悪が漲っていた。
「はじめまして、私はホーミン。ジャミンの兄だ。
ジャミンからここにいる皆には仲良くしてもらっていると聞いている。いつもありがとう。そんな君たちには傷一つおって欲しくないからね。
試合の前に作戦会議をしておこう。」
ホーミンさんは実に気さくな人柄で頭の回転が速い人だった。
ホーミンさんともう一人の方は闇属性、王子は光、ジュリアス、クシュナは火属性。私は全属性だけど、黙って治癒属性ということで通しているし…はっきり言ってこのメンバーは水属性ケルピーとはあまりいい相性ではなかった。
「いい?私たち三年が闇でケルピーの視界を阻み、王子が突然光攻撃を仕掛け、気を動転させる。そこをジュリアスが炎の魔剣で追い込み、クシュナ嬢はその補佐を。
アティス嬢はもしもの場合治癒、援護を頼む。以上でいいかな?」
*****
「それでは試合を開始する。はじめ」
競技場のリングの音がなると同時にケルピーが鎖から放たれた。
「常闇の城いざ現れん。闇孤宮」
ホーミンさんが人差し指を口元で立て魔法を発現させ、
あたり一面が漆黒の闇に呑まれた。
そう、ここまでは計画通りのはずだった。
しかし、突然背後からメラメラと熱を感じた。そう、クシュナが黙って先輩の言うことに従うわけもなかった、それも補佐役を進んで受け入れるはずもない。
クシュナは赤い炎に包まれ、瞳の蛍光色が闇を切り裂いている。
「く、クシュナ?君は一体何をしようと…?」
そんな私たちを背に彼女は超加速し、ひと蹴りで標的の目の前に飛んだ。
彼女の何倍もあるケルピーに何も動ぜず、魔獣の前で腕を伸ばし構えをとった。
「我炎風の中にあらん。この者我とともに炎閣に帰す、炎凰殿」
彼女の髪が炎の光とともにふわりとなびいたと思うと、たちまち彼女の足を起点に辺りがマグマのような灼熱の地と化した。
ケルピーは激しくいなないた。
彼女は薄笑いを浮かべて、炎の鎖を空間に出した。
「炎縛」
するとその鎖はケルピーをぐるっと蛇のように纏わり付き束縛しはじめた。
クシュナは私たちが驚く合間に一人でケルピーを捕まえてしまっていたのだった。
その時。
急に闇よりも濃い闇が一気に会場に流れ込んできた。
「な、何これ?ホーミンさんの技??」
クシュナは術をかけたまま私たちを振り返る。
「いいえ、私は今何もしていません…一体どこから…」
濃い霧のような闇はクシュナとケルピーの間で収束し、だんだん人型になっていく。
そこに現れたのは、狂気な笑みを浮かべたジャミンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます