第3話:冷静に転生前アティスを分析する



アティスに転生して3日目。

転生前アティスについて、私は迷宮入りをしているのであった。

つまりアティスはダンジョンだったのである。



アティスは今年で10歳になる女の子。

転生前アティスはきっと、悪役令嬢あるあるのわがままお嬢様とかで?、転生者である私の慎まやかな行動を見るなり、「お嬢さま、なんか変わりましたね!」とか、侍女のエレーナに言われるんだろうなと顔をニヤつかせて期待していた私は、この後思わぬカウンターショックを受けることになる。



「お嬢さま、なんか元気になられましたね。」


ちょいとエレーナ?反応が期待と180度ずれていますよ?

少しここで弁解させてもらいましょう。転生前の私は20代。たとえそいつ(20代の私)が同じ行動をとっていても恥ずかしくないように振る舞ってきたつもりです。それを、元気になったなどと…



私が入る前のアティスって一体何者なんだ?

こう思い当たった時、私はまだ知らなかった。

このあとアティスダンジョンにことごとくコテンパにされることを…





時は遡りまして、その‘元気になりましたね’宣言をされる前を復習して見ると、その時私は、お見舞いに来たという、お父様より年上で、鼻の下にフッサフッサのお髭をちょろっとはやしたおじさまから、これまたフッサフッサの真っ白なテディーベアをもらっていたのだった。テディーベアを抱くと私の両腕にちょうどフィットしていて、毛並みの肌触りは大変よろしく、愛らしい真っ黒な瞳とお鼻が私をじっといじらしく見つめてきた。私はそれを見て少しはにかんでしまったのだ。


するとどうだろう。

それを見た周囲の人間は、ドミノ倒しが始まったように次々と私を見た。


なんだかすごい視線を感じるけど…まあ変なことはしていないし、とにかくお礼でも言っておこう。

とこの状況を軽んじた私は

「おじさま、かわいいテディーベアをありがとうございます。」

と持ち前のありがとうスマイルで敬意を示しておいた。


するとまた一同、私をまじまじと目を見開いてみてくる、それも以前にもまして・・・・。

えっなに?私、なにかおかしなことをしましたか…


「アティス・・・。喜んでもらえて嬉しいよ(涙目)そうか、アティスはこういうものが好きだったんだな、そうか、そうか(涙目)」


そんなおじさまの様子を伺いながら転生者アティスは冷静に分析を始めていた。転生前のアティスは、「テディーベアなんて安価なものはいらないわ、もっと宝石とかドレスを持ってこいぃぃ」とか言う令嬢だったのか?あるいは、なにかもらっても、「そんなにもらって頂きたいのでしたら、もらって差し上げてもよろしくてよ?」みたいなツンデレだったのか?うむ〜・・・・。



そんな事件?のあと、部屋に戻ってエレーナと二人だけになった時、彼女は言うか言わないか戸惑うようなそぶりを見せてあの爆弾発言を放ったのだった。また、彼女は続けてこうも言っていた。


「お嬢さまは、少し年齢相応になったと言いますか、感情的になられましたね。いい意味で変わられた・・・と思います。」


そう言いながらとても香り高い紅茶を淹れてくれている。



その様子を見ながら私の目は文字通り点になっていた。私の悪役令嬢辞書にそんなこと侍女から言われるなんて載ってない!(涙目)



それに、そんな感情的なことした覚えないよ。さらに深まる謎、転生前アティスは一体何者だったのだろうか…。冷静に分析したくても、他人から見て感情的、つまり冷静に見えない私は、冷静にという単語すら今後使える資格があるのだろうか…とさらにショックを受けていた。



(→・・・)








******



「そういえば、お嬢さま。余計なお世話かもしれませんが、ここ一週間、月光浴をされていらっしゃいませんね。その・・・お体に障られるのではありませんか?」



例の事件から転生前のアティスには悩まされてきたが、いよいよおかしな単語が出てきた…。

月光浴??なんだそれは。月光浴を嗜む悪役令嬢って聞いたことないぞ。

ついに私の目が白黒白黒点滅し始めていると、


(→(ノイズ)参照:転生前アティスは月光から魔力を回復していた。)


ふむふむ、なるほど。

私は冷静に理解した。

というのも、前から気になったっていた(→)さんの存在のことだ。さっきノイズがかかっていたし、最近口うるさくツッコミしてこないなあと思っていたけど実は魔力と関係があるのかもしれない。



(→)さんのためにも今夜は月光浴しようと決めた。

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