第30話:冷静に利害が一致する
私たちは、図書館でファイ様のお母様の事件記録を見つけ、偶然にもそのお母様の家、ハトファル家というのが、アクエスとそしてアティスの家ハーベル家とゆかりの深いものであることを発見した。
美琴、こと私はファイ様とそのお母様について知りたいし、
エフィスはアクエスの手がかりを掴みたいらしく、珍しく私たちの意見は合致した。
それにお互いで支えている、アティス・ハーベルの家についても私たちには関係があることだ。
完全なる利害一致だった。
****
翌朝、私は皆より早めに起きると、
シエルさんが置いて行ってくれたポシェット に最低限の荷物を詰めていた。調査が長引いて近くの宿に泊まることも想定してのことだ。
この四次元ポシェットのことを私はトランクだと思っている。
このポシェット本当、便利だな。
というか、今思えばシエルさんって、ショーンのお婆さまだったわけだしこの私が使っている部屋、もしかしてもともとシエルさんの部屋なのかもしれない。
シエルさん、何から何までありがとうございます。
私は誰もいない居間に降りると、置き手紙を残して去っていった。
***
皆さんへ
突然の衝動お許しください。
私は、ある調べごとのためにハトファル家の方に向かいます。
2.3日の間には必ず帰ってきますのでよろしくお願いします。
アティス
***
ハトファル家は市中の東側にあるそうだ、エフィスによると。
そのためには市街地を横断していかなければならない。
私たちは、そのために自分の髪色を隠すことにした。
白銀の髪はハトファル家の象徴。故に、街ではじろじろ見られるし、周辺調査をしていても隠密にできそうにない。
街に入って一番最初に見かけた出店で髪を隠せる深くて大きなフード付きマントを購入し出発した。
この国は、大通りから路地が幾重にも曲がりくねり、伸びているのではっきり言って迷路である。もし、戦で街が襲われても、簡単に王宮までいけないうようにしているって聞いたことあるけど、普通に迷惑だわ。
エフィスに途中、ナビをしてもらいながらやっとハトファル家周辺にたどり着いた。なんで周辺かわかるかというと、区の看板にハトファル区って親切に書いてあるから。いよいよ調査開始ね!
とりあえず私は、暇そうなお爺ちゃんがやっている骨董屋に入ってみた。
理由は二つ。
一つ目はハトファル家周辺の骨董屋には確実に、ハトファル家から掘り出し物がでたみたいな感じで、話題に上ると思ったから。
二つ目はおじいちゃんなら色々知っているし、私10歳だし、経過機なく教えてくれそうってとこね。
(→美琴、今日は冷静分析冴えているわよ。)
「すみませーん」
「お嬢ちゃん?どうしたのかな?」
エフィス!どうしましょう。早速矛盾を見つけてしまったわ。
骨董屋さんってそもそもこんな幼子が一人でくる店じゃないよ!
どうしたのかな?に答えられない。
(→任せてください。このように言って…!)
「ここはなんのお店ですか〜?なんか、外から素敵なものがたくさん見えたの」
「素敵に見えたなんて!お嬢ちゃんは小さいのに見る目があるね〜そのガラスケースに入っている品物は全部ハトファル家を出た使用人たちが持ってきてくれたものなんだよ。ハトファル家は、すぐあそこにあるし知っているかな?」
エフィス、あなたやはり天才だわ!
無事私の思惑通りに‥!!
「ハトファル家ってすごいお家!ハトファル家にはどんなすごい人が住んでいるのかな?おじいさん、ハトファル家について詳しい?」
急におじいさんはあたりを見回し、しゃがんで私の耳元でささやいた。
「お嬢ちゃん、ハトファル家のことはあまりここらへんで聴きまわっちゃいけないよ。ハトファル100耳持ちといってね、ハトファルの詳しい話をするとすぐバレて大変なんだ、分かったかな?」
「でも、おじいさん、この品物はハトファル家の使用人が持ってきたって‥」
「これは、初来店のお客様にだけいうハッタリさね笑ははは」
「今度はご両親を連れて遊びにきてね〜」
私は店を後にした。
エフィス、してやられましたわ。
もともとあのおじいさんは私にハトファル家について教える気は毛頭なかったのです。それも私はよそ者ですし、どの店に行ってもハトファル家についてすぐに話してはくれないでしょう。弱りましたね…。
私が道端のベンチに腰掛け肩を落としている時だった。
「あら?あなた、アティスじゃない。」
見上げるとそこにはシエルさんがいた。
「あなたどうしてここに?」
*****
私はシエルさんに事情をお話しした。
そもそもシエルさんのお店でファイ様はお母様のことをお話になったのだ。
シエル様がそのことを知らないはずがないと思って思い切って言ってみる、
ファイ様のお母様について私は知りたいと。
シエルさんの反応は少し意外だった。
彼女はあっさり納得してくれて、しかも協力もしてくれるらしい。
「あなたの白銀の容姿、これはファイ様のお母様云々の前に、アティス。あなたとも関係するお話よ。分かったわ。ハトファル家にあなたが女中として支えられるよう私から頼んでみるわ!あなた、料理や掃除くらいできるわよね。あ、でもあなたお嬢様だったんだっけ。無理かしら…」
(→シエル様。美琴はお嬢様ではありませんが、家事は全くできませんよ)
私は少し困った表情を見せた。見せなくても、シエル様なら私の感情を読み取ってくれているはず。
「分かったわ!それなら女中ではなく、家庭教師ならどう?」
決まりだ、その手で行こう。
「どうやらそれで大丈夫そうね。そうと決まったら‥あなた髪の毛の色を魔法で変えさせてもらうわよ。ついていらっしゃい。」
路地裏に私たちは入った。
「時は沈み、真意は浮上する。光様偏角、メタマルフォーゼ。」
彼女の詠唱とともに私は小さな風の渦に呑まれた。
彼女の手鏡で様子を伺うと、私の髪は赤褐色になっている。
「あなたは、ティオ。私の遠い親戚ってことで紹介するわ。がんばりなさい、ティオ」
*****
私たちが路地裏から出ようとすると急にその先に男性が現れた。
それはファイ様だった。
(→ファイ様が現れましたが、冷静でいてくださいよ。美琴。)
「アティス〜!探したよ!急にいなくなるから心配してたんだよ!それにそこにいるのは、シエル?」
私の髪色を見て、それから急に怪しそうな顔をシエルに向けた。
どうしよう、私の髪の毛の色似合ってなかったかな…
(→状況的にそういう意味ではないでしょ‥)
「アティスの髪、どういうこと?シエル?」
「はい、ファイ様、これは変装です。それよりもまず、アティスが家を出た理由はお分かりですか?」
ファイ様は顔を振る。
「アティスは、あなたのお母様がどのような方だったのか、生前何を望んでいたのか、彼女について自分は知る義務があると言っているのです。私は感動しました。アティスは事件に巻き込まれた被害者でもあるのに、あなたの母、スフェナのことについて真剣に考えてくれているのですから。ですから、私は彼女を手伝うことに決めました。異論は受け付けません。」
「し、しかし…。」
戸惑うファイ様に彼女は何やら耳打ちをした。
「いいですか。あなたは今、あの人を探すためにハトファル家に頻繁に立ち入りできないでしょう?これはチャンスです。私たちとアティスの利害は一致しているのですよ。」
ファイ様は急に真剣な表情になって、ゆっくりとうなずく。
「分かった分かった。アティス。くれぐれも無理はしないようにね。あと変装しているみたいだけど、それもバレないようになるべく突き通してくれ。君が一族の関係者とわかればあちらがどう出て来るのか、私にも予想がつかないからね。」
そういうと彼は私にゆっくりと近づき体を引き寄せ、首に何やら薄い水晶のような首飾りをつけた。
「私と母さんが君を追い詰めているようで申し訳ない。
私が今望むのは、君が無事でいてくれること、ただそれだけだ。そのためのこれはお守り。」
竜人さんの挨拶はハグなのですか?こんなに頻繁に抱擁していては私がすぐ思考停止に…
そんな真っ赤な私の顔をシエルは見て、
「あら。ファイ様、また人を困らせて。」
とそっと呟いていた。
(→夫アクエスよ、許して。これは完全なる不可抗力です…涙目)
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