第17話:冷静にわかってしまう(飛行祭)
あの忙しい日から一ヶ月が経とうとしていた。
そして私の日常が徐々に変化していた…。
まず、妹、アンジュについてだ。
あれから、ドリス様が我が家に訪れ、妹にあってくれた。
二人はわりとすぐに意気投合したらしく、今では週に3回は打ち合わせにと妹のところにくる。ドリス様と話している妹はとても溌剌としていて、姉として妹の楽しそうな様子は素直に嬉しい。
次に、ファイ様。
時々っていうか、ほとんど毎日我が家に入り浸るようになった。はじめは図書室に来ていただけだけど、とうとう家の者にバレて、それからは客間で堂々接待されるようになった。どうやら食い意地のはった方で、家中の食べ物を食べ尽くされそうな勢いである。
ファイ様を一目見るなり二人は気に入った。お母様もアンジュも大興奮。一度ドラゴンの姿になってください!とか、他にはお仲間はいらっしゃいますか?とか質問攻めもいいとこ。ドラゴン大好き王子慣れしている、さすがのファイ様でさえも若干引いていた。
ファイ様が頻繁に訪れるようになって、王子ジュノーが黙っているわけはない。
気づいたら彼とは毎日文通する仲になっていた。その日ファイ様が何を食べ何を好んだか、どんな話をしたかなど、ファイ様の詳細をお伝えしている。まあファイ様の冷静分析録のようなものだ。おそらく毎日でもファイ様に会いたいのだろうが、王子は国一忙しいお方だからしょうがない。でも最近、彼はファイ様以外の私のことについても尋ねてくるようになった。少し興味を持ってもらえたのかもしれない。
王子はわかるけど、もう一人キャラが変わった人がいる。
それは侍女エレーナだ。
エレーナは悪役令嬢もののアメ役である、いわば癒しであったのだが、どうも最近ピリピリしている。ファイ様が来る度に、私から一歩も離れようとしないし、時々あろうことかファイ様を睨んでいるような気がする。
ファイ様もファイ様で、エレーナを始めて見たときに、
「なんだか、ピーチクパーチクうるさそうな奴がおるな。」
とか変なこと言っちゃうから‥
唯一のアメなのです、エレーナどうか戻ってきて‥
***
飛行祭当日。
「よっ!アティス!祭に行くぞ!」
玄関にファイ様が迎えに来てくれた。今日は騎士様みたいな、格好をしていていつにも増してジェンダーレスな雰囲気に、私の意識が持っていかれかけた。
危ない危ない。
結局、お父様以外の私の家族はみんな祭に参加させもらえることになった。なぜか、お父様はファイ様にいつも消極的な態度だった。
私たちはぐるっと視界が回った。
何回やってもこれは気持ちが悪い…。
***
王宮に着き、私たちは体を清めてから儀式の装いをした。
男性は真っ白な神官の服に、女性は真っ白なワンピースに、そして必ず白いベールを顔につけて完成。この時は誰も皆平等で、国王たちも神官も同じ服装だ。
心地よい笛の音色が、王宮内にある大聖堂、パールホルンから流れてきた。いよよ儀式の始まりだ。
**
参列者の一番後ろに私たち家族は並んだ。
いつも仮病を使って休みがちのお母様が今日はちゃんとアンジュの車椅子を押している。白い参列者たちは、白い大聖堂に続いていた。
聖堂内に入った。
息を飲むほどの、神聖な空気と静寂。光が白い部屋で拡散されて、温かな霧に飲まれているようにも見える。今、天国にいるのかと錯覚してしまうほどのなんとも言えない安心感に、私たちは包まれていた。
静かに着席した。
聖堂の大柱の陰から、壇上に、ある男性が立った。
その瞬間だった。
ドクン。
心臓が大きく波打った。
鳥が一斉に羽ばたくように私に鳥肌がったった。
その後金縛りに襲われたかように、体が膠着し動けなくなる。
これは、一体‥どうしたの?
「これより、飛行祭〜かみおくり〜の儀式を執り行う。ファイ様、こちらへ。」
ファイ様が、誰よりも神聖な白の祭服姿に真っ白な分厚いマントをかけて現れた。いつにも増して神々しい…。
「ここにお招き、礼を言う、神官長。
我が先祖、アクエスは約2000年前にこの地に降り立った。
そして妻、エフィスと共に国を、子を成し、妻の死後、彼女を探すためこの地を去った。
さぁ、我れらが祖、アクエスを迎えよう。
妻エフィスは今、ここに至たらんとす。
我はアクエスの影。
影を空に送り新たにこの国に息吹を授けん。」
ファイ様の声はどこまでも澄み渡り、波一つ立たない静寂の空気を強く震わせた。
とくん、とくん…。
やっと鼓動が戻ってきた。
ファイ様の声が私にもう一度血流を与えてくれたのかもしれない。
***
その後教会を一同は後にし、広い芝生の広場にきていた。
そう言えばここは子供たちのお茶会の…
(→注意:神聖なムードを壊すような発言は謹んでください。)
日の下にきてよく見えるようになった私はたいそう苦しそうな顔をしていたのだろう。
「あれ??ねえさん?どうしたの顔が真っ白だよ?どこか体調が悪い?」
「あら、ほんとねアティスちゃん‥どうしましょうこういう時って‥お母様急な出来事に弱い人間なのよ…」
ジェイとお母様がおろおろし始めている。
「お姉さま、これを…」
アンジュが紙の包み紙を私に渡してきた。
「私も気分が優れなくなるんじゃないかと思って念のために持ってきた薬です。飲んでください。」
頼もしい妹よ!
いつからこんなに有能になったんだ!
お姉ちゃん、妹の成長が嬉しいよ…
**
ファイ様が芝生広場の中央に立った。
彼女は小さく呪文を唱え始める。彼女の足元に魔法陣が展開され風が下から吹き上げ始める。
彼女は目を瞑り、上を向いた。
彼女の体が光と風に包まれてゆっくりと天に向かっていく。
突然の強い光の後に、あの物語にいた巨大で美しい白竜がいた。
(→こ、これは、そんな、いや…そんなはずは、あぁーいや、まさか…)
急にどうしたの?アティス??調子悪いの?なんかあなたにしては混乱してない???
白竜は勢いを天高く駆け登った。
と、その反動でスゥンと下にいる私たちは強い風に飲まれる。
私の髪が風に巻かれ粗正しくなびいた。
(→全てわかりました。冷静に聞いてください。私はあなたとは違う転生者で、そして、私たちアティスは、竜人です。)
はっ???はぁ〜〜〜〜????????
激しい空気の流れに私の髪が、いや心が激しく揺れていた。
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