第18話:冷静に、冷静にさせてくれ
ファイ様が私たちの頭上を10周すると、残す王国一周のため王宮の外に飛び去って行った。白竜を見た町人の声だろう、城外から歓声が聞こえる。
(→もう一度言います。冷静に聞いてください。私は、あのお母様たちが好きな竜人とお姫様のものがたりに出てくる転生者、姫の魂に間違いありません。お恥ずかしながら‥)
えっ!!じゃあ私と同じ日本国からの方ですか??ええええ??
(→日本?そのような細かい地名までは記憶にありませんが、赤い大きな鉄塔、ガラス?でできた四角い建物群があったことはうっすら覚えています。)
はい、それT O K Y Oです。
(→私は、最初姫、エフィスに転生して、まあ多少脚色はありますが大体あの話の通りに人生を送りました。
アクエスが私が死んだ後にそんな無茶なことをしているとは思いませんでしたが‥私はきっと、転生して、エフィスとしての命を終え、この世界を彷徨っていたのでしょう。そして運よくアティスの体に、あなたと私、両方転生者というステイタスで入り込めたのです。
きっと、あなたに感謝しなければならない。
もう一度生を受けたのも、もう一度アクエスにそれも竜人の一人として会えることも…
あなたという転生者の歪みが私を引き付けてくれたのです。ありがとう、夢のようだわ。)
私は、いたって冷静ですよ、冷静です。大丈夫冷静です‥頭が回りません…
(→あなた、頭じゃなくて目が回っているわよ笑しっかりしてください。)
がんばれ、私!思わぬ転生刺客が現れたが、これも人生!!転生!
(→おそらく気になっているだろうから言っておきます。私は神官長を見て、昔の熱い感情を思い出しました。続いて、白竜の姿を見て完全に理解しました。以上です。)
まって、神官長を見てなんで熱い気持ちに?あなたのタイプだったの??
(→神官長は、神官長は隠されているようですが…私にはわかります。彼は紛れもなく、アクエスその人ですから)
心がほわんと共鳴し温かくなる。
きっとこれは彼女の感情、それを今共有しているのだ。すごく、言葉には言い表せない優しい気持ちだ。
(→アッ、思い出しました。後もう一つあなたに教えなければいけないことがあります。)
なになに??まだあるの‥どうぞ、ここまでくればなんでも言っちゃってください…
(→実は私、あなたの魂が眠っている間にこの世界を何度もやり直していたのです。悪役令嬢アティスとしてですが。ですから、ほとんどのルートの記憶はあります。ただ一つ、騎士団長の息子であるジュリアスのルートを除いて)
えっ??私眠ってた??相棒、それなら起こしてくれればよかったのに‥!
なるほどね、だからあなたは情報ファイルを私に毎回開示できたわけね、ジュリアスを除いて…。
(→お察しの通り。今回、あなたと魂を協同させたことで初めて私の過去、そしてアクエスの存在に気づけたのですが、それまでは全く知りませんでした。運命の悪戯ですかね‥それでも、竜を嫌うジュリアスにはおそらく本能的に嫌悪を感じ避けていたのだと思います。)
確かに。
かくれんぼの時、すごくジュリアスを嫌がっていたわね…。なるほど。
あっ、そう言えばほとんどのルートを悪役令嬢として経験したって言ってたけど、あなたは、その、ゲームのようにヒロインをただただ虐めていたの?
(→いえ。ただ誤解されることは大いにありましたし、ヒロインと打ち解けるかにもよりました。クシュナさんも何回も繰り返しこの世界に転生されています。私と同じだけ…うん?もしかして…)
もしかして…???
(→この世界に何度も転生させられる原因はもしかしたら、
真に愛した人と結ばれていないからかもしれません。
クシュナ様は、本当は本人から聞くべきでしょうがこの際言ってしまいます…
彼女は王子が本命なのです。
毎回王子を目指すのですが結局結ばれず、転生を繰り返す。
彼女は努力家ですから…)
私は頭がパンクした。
冷静に冷静に…なりたいのだが意識がどんどん遠のいていく…
(→どうしたの?一気に喋りすぎてしまったかしら…私があなたの代わりに立ち振る舞うこともできますが…やめておきましょう。一緒にあなたと一時の眠りを楽しむことにしましょう。)
****
うん?これは夢?
みかんの皮の匂いがする。足が温かい、これはこたつ?
顔を上げて、小さな部屋を見渡した。
なにこれ。私のクローゼットの中より狭い空間。いや、知ってる…ここ。
私の部屋だ。
明須賀美琴、23歳。職業無職。いや、前はスーパーで働いてたんだけど最近無職。そうか、毎日カップ麺とビタミン補給のミカン暮らしを半年も続けていたら…体調崩すよな…。
のそっと立ち上がる。
部屋に飾られた家族写真を見て両親を思い出した。
お父さんとお母さん元気かな…。視界がクシュんとぼやけた。
会いたい、家族にもう一度会いたい。
マンションの扉についた郵便ポストから入り切らなくなった郵便物がはみ出ている…。我ながら汚い。私片付けできない人だったのよね…
ポストの下を見れば、靴で溢れかえった小さな玄関に白い封筒がそっと落ちていた。
この封筒どこかで見たことが‥そして、先ほどいたジョカ横の世界が頭をちらつく。
封筒を開けると、怪しげな書体でこう書かれていた。
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the joker is you.
楽しんでいるかな?ジョーカー。
今回君は、このゲームを良くも悪くも引っ掻き回す役、ジョーカーに決定された。
転生者が3人もいられると運営側のこちらもちょっと大変でね。
そこで、今回は特別に、君にジョーカーの称号を与えよう。
って言っても君は嬉しくないだろうけどね。
そこで、美琴?私と賭けをしよう。
君が、めでたくヒロインとエフィスを真の思い人と結ばせ、さらに誰が支配人、
私かを当てることができたなら、君をこの君にとっての現実世界に返してあげるよ。約束だ。
それではババ抜きを楽しんでくれ。
支配人より
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ああ、だめだ、また意識が遠のいていく…
****
「アティスちゃん!」
「ねえさん!!」
「お姉さま!!必ず、このアンジュがお姉さまを起こしてみせますわ!!お姉さま!!」
家族の…ここでの家族の声がぼんやり聞こえる。
どうやら意識が戻ってきたようだ。
(→おかえりなさい。心配したわ。あなた一週間も意識を失っていたのよ。)
ただいま、エフィス。そして私ね、美琴っていうの…。これからよろしく。
(→美琴…よろしく)
私はゆっくりまぶたを開けた。
「アティスちゃん!」
家族が喜んだのは言うまでもない。
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