第48話:冷静に魔法旅行のテーマを決める



「それで、ねえさん。結局僕たちはなにをテーマにするの?」



私とジェイは家の図書室で魔法旅行の打ち合わせをしていた。

ジェイは、さすがヤンデレショタ枠。

私と一週間旅行魔法旅行することが決まってから毎日のように打ち合わせしようと話しかけてくる。


そんな可愛い弟を横目で見ながら、心では例の魔術師の尻尾がなかなか掴めないことに苛立ちを覚えていた。


「ねえ、ジェイ。魔術師とか興味ある?こう、禁忌の術とかさ、そう言うの。」


私はボソッと彼に提案してみた。


「なに?ねえさん。そんな禁忌の術とか興味あるの?」


少しいたずたな表情のジェイは私をじっとしたから見上げて笑う。


「魔術師ってさ、今は廃れた古語と、代償を伴う術を使う人たちのことでしょ?

なんか、代償とか、禁忌とか…そう言う話ねえさん好きなわけ?」


私は戸惑った。

これは、何かいけないことに興味を持ってしまった子供が、親に勘ぐられて責められる構図にそっくりだ。いけない、このままだとあらぬ方向にジェイに誤解されてしまう!


「いや〜。なんか、魔法とは違うさ、魔術ってのもさ、なんかさ、どう言うものなのかさ、興味がさ、あるだけなのさ!なははは」


ジェイは明らかに何か隠すような私を、グラデーションがかかった彼のルビーの瞳に映している。


「ねえさん。また何か隠してるでしょ。危ないこと?…まあ、僕もついて行ってあげれるし、そんなに興味あるならそれにする?魔術師についての研究。」


ジェイ!!君はなんて理解の早い子なんだ!

明らかに怪しい姉の態度にも屈せずついてきてくれてありがとう。

私は勝手に感動していた。


「あれ?君たちは…久しぶりだな。何か調べ物かい?」


突然声をかけてきたのは青い髪に青い瞳に丸メガネをかけた青年、ドリスさんだった。妹アンジュのところにはコンスタントに通ってくれている。それもこれも彼女と一緒に薬の研究を進めてくれているからだ。



「ドリスさん!お久しぶりです。今、魔法旅行でなにをテーマにするかをジェイと話し合っていたんですよ。私たちは先ほど“魔術師の禁忌術ついて”に決めました。」



「その怪しいテーマがいいと言ったのはあくまで、ねえさんです。僕の趣味では全くありあません。」


ドリスさんは私たち兄弟の様子を見ると、仲がいいですねと褒めてくれた。

そして彼はサラッと思いもよらない提案をしてくるのであった。


「それなら、ラフラさんのご実家に行かれるのはどうですか?」


発言の意図がわからず首を傾げてしまう、お母様の実家??


「私は、こう見えてもラフラさんの分家の一族なんです。そんな私の家にさえ、魔術書はたくさんあります。きっとラフラさんのご実家、本家アーベス家に行けば資料が豊富だと思いますよ。確か、君たちのお婆さまに当たる当主チエ・アーベス様は魔術も使えたはずです。」



そんな彼の話を聞きながら私は過去の記憶を遡っていた。

思い返してみても、お母様から実家のことやお婆さま、おじいさまのことについて聞いたことがなかった。いや、一度だけ尋ねたことがあったが、その時は「つまらないところよ。」とはぶらかされ母方の話題はそれ以降挙がらなかったと思う。


横目でジェイの様子をチラッと伺うと彼も複雑そうな顔をしていた。



***



結論から言おう。私たちはドリスさんの意見を採用することになった。理由は三つ。

一つ目は、魔法旅行で行ける距離の範囲内にお母様の実家が入っていたから。

二つ目は、確かにアーベス家は先祖代々魔術師の家系で、魔術師や禁忌術を調べるにはやはり適切であったから。

そして最後に、これは私だけでなくジェイも気になっていたであろう、お母様の実家への興味。一番は最後の理由、それに尽きる。



私たちがアーベス家に行こうとしていることを聞くと、お母様は少し嫌がった。あの家は古臭い考え方の人間ばかりで、置いてあるものも古く汚い。さらには薄気味悪い標本や魔道具、などなど胡散臭かったりグロテクスなものだったりに溢れていて二人にはあまりみて欲しくないと言ってきた。しかし、私たちがどうしても行きたいと粘ると最終的には折れてくれた。


「分かったわ。二人があの家に行くことは許しましょう‥。でもね、私はあなたたちのお婆様にあたるチエとは喧嘩していてね、私が言っても耳を傾けないでしょう。ですから、ドリスに私から頼んで、あなたたちを一週間招待してもらえるように掛け合ってもらいます。それでよろしいですか?」



(→ドリスさん…余計なことを言ってしまったが故に巻き込まれてしまったんですね。お気の毒様です…)




****




その夜、私はいつものように自室で月光浴をしていた。

今は散り終わったベランダ間にある桜の木を見て、桜の季節を思い出していた。

ばさり。羽音とともに枝がゆっくり揺れた。

見上げるとそこには白銀の羽に、湖色の瞳の鳥が手紙を咥えてとまっていた。

私が手紙をそっと受け取ると、鳥は肩に舞い降り私の顔に頬擦りをした。

吸い込まれそうな青い瞳で私を数秒見つめた彼は月へ向かって羽ばたいていった。



(→ファイ様、鳥姿もなかなか愛嬌があっていいですね。)



ええ。悪役令嬢ものでよくある、もふもふ癒し系キャラが不足していたので、ファイ様にはぜひもふもふ代表としてお力添え願いたいですわ。



彼から受け取った手紙にはこのような内容が達筆な文字でしたためられていた。



**


アティスへ


今日はとてもいい月夜ですね。

明日から始まる魔法旅行のためにも、月光浴で体力温存しといてくださいね。


実は、アティス…君とペアを組めなかったこと、今でも後悔しています。

いくら君のため、クシュナのためと分かっていても私は、もしかしたらT O K Y Oに帰ってしまう君との貴重な時間を少しでも無駄にしたくなかった。


アティス。君が、アーバン家に行き禁術を調べることをドリスから聞いた。古代、魔術の代償として竜人の月の遺構(遺体)が使われてきた歴史がある。君がもし竜人だと知られれば当主チエ・アーバンがなにをするかわからない。くれぐれも竜人であることはバレないようにてください。それと、シエルからもらった紅い指輪をしていくといいよ。あれは、シエルの鱗の一部で、持ち主の願いをなんでも一つ叶える魔術が施されている。万が一のために持っていってくれ。



私たち、クシュナ、ジュノー、皐月もアーバン家領地で月人について調べるため滞在する予定だ。もしかしたら会えるかもしれないな!



それではまた



ファイ・ハトファル



**


ええ!サラッと最後に一番重要なこと書いてきた、ファイ様…。

みんなアーバン家の領地で調査するのか!



(→よかったですね、美琴。一週間のうち一度は彼らと会えるはずです。そうですね、チエさんと親睦が深められれば家に招待できるのではないですか?)



そうだね!初めて会うちえさんと仲良くなりたかったし、できればお願いしてみよう!!


こうして私たちは魔法旅行当日を迎えるのであった。



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