第45話:冷静に推理する


屋敷に着くと、侍女エレーナが私のところに飛んできた。


「大変です、ファイ様がお越しです。」


彼女の必死そうな表情にも驚いたが、ファイ様がこのタイミングでいらっしゃたことにも驚いた。アクエスから何か聞いたのだろうか。

応接間ではファイ様はゆっくりと紅茶を啜っていた。

私に気づくと、私をゆっくりと見つめ目配せをした。



「エレーナ、ご苦労でした。ファイ様と二人きりで話したいことがありますので、下がってください。」



エレーナは無表情でこの場を去っていった。

その背中を見るファイ様の目は氷のように冷たかった。



「アティス。今日は散々な目にあったね。黒葬が使われた気配がしたから、途中光魔法で牽制したんだけど…。大丈夫?怪我はない?」



(→黒葬の直後の光はファイ様だったのですか…)



「はい。けが人は一人も出ませんでした。」



「それは、不幸中の幸いだったね。まあ、あの技は元々黒竜の禁忌呪文で、血統の限りなく薄いあの少年が使ったから大事に至らなかっただけだ。もし、本当に黒竜の竜人が使っていたらあの場にいた全員が死んでいただろうね。」



ファイ様は悔しそうな表情で自分の足元を睨みつけている。



(→美琴。黒竜といえば、皐月姫様の婚約者である、霧月国王子が確か黒竜だったはず…)



「ファイ様。気になることがございます。黒竜といえば霧月国王子がそうでしたよね。それに、ジャミンがその黒竜の血統とはどういうことですか?」


ファイ様は足を組み直すと、何か惑いながらも淡々と話し始めた。


「アティス。実は竜人国の貴族に、ハトファル、そして美香月家の2大派閥があるんだ。両者ともに王家の器として長年世代を交代してきた一族だ。ハトファルのことは君も調べているだろうから知っているよね。なぜこの二つの勢力に絞られるのかというと、それはは魔力量、魔力色素が影響しているんだ。

ハトファルの血が一滴でも通っていれば白銀の容姿になるように、美香月家後も同様、少なからず血縁者なら皆漆黒の容姿で生まれてくるんだ。

つまり、王家の血が一眼で受け継がれることを認識できるようにこの二家紋が交代して勤めているということ。ちなみに両家の血筋を引く場合は、両方の色素を半分ずつ持って生まれてくることが多い。そういうものを二祖持ちという。」



(→それでは王子と皐月姫様との間に子供ができれば、二祖持ちになるのですね!)



ちょっとエフィス。そんなことよりジャミンのことよ。つまり、ファイ様の話を要約すると、ジャミンはもともと漆黒の髪の持ち主だし、黒竜家の血が混じっていたということなのかしら。



(→ええ。つまりそういうことです。アティスも白竜の血が混じっていたのですから、こういうことも…あるんですよきっと。)



ファイ様は、私とエフィスが納得した様子を見て、深くため息をついた。



「アティス…なんだか君、大抵の話に驚かなくなったね…」



ええ。アティスは何十階層持ちのダンジョンでしたので、ちょっとやそこらの情報では全く驚きませんわよ。



「アティス。ここからが本番の話だ。

場所を変えたい。もう一度霧月国に来てくれないか?今日中に帰ることを約束する。」


彼の真剣な表情に私もうなずき私たちは霧月国へ空間転移した。




******




「あら?アティスじゃない?久しぶりね、元気にしていたかしら?」



着いたそこはシエルさんのお店だった。相変わらずお客さんが一人もいない…。



「アティス!あなた今余計なこと考えたでしょう?今日も貸切にしてあげたの!わかった?」



シエルさんのお茶目の様子に少し緊張が緩んだ。ありがとう、シエルさん。



いつか前に座った、二階の客席に腰掛ける私たち。

ファイ様はシエル様と目配せをして私に向き直った。


「私が前々から個人であの術師について調べていると話したね。

そして掴んだんだ。あの術師は、霧月国の悪党一味たちと繋がりがあることを。そして黒葬を知っていたジャミンとも」


シエルさんが何枚かの写真を私に手渡してきた。

私が一枚ずつめくっているとそこにはなにやら見覚えのある顔があった。


(→美琴。もしかして小川で子供たちをさらおうとしていたあの男たちではないですか?)


私は小さく頷いた。

シエルさんは報告を始める。


「この写真の男たちはその悪党の一味さ。こいつらは竜人の鱗と言った月人の遺構を市場で売り捌くとんでもない奴らだよ。時には竜人の子供をさらって売り飛ばしたり危ない薬の取引をすることもあるという…血も涙もない悪態の所業は数えきれない…。こんなこと平気でする奴らだ、スフェナ様が人間たちに丸腰で負けたとも思えない。こいつらも、人間たちと共闘してスフェナ様を陥れ、真っ先に心臓を狙ったのもかれらではないかと疑っているんだよ。」



「それにね、アティス。アティスの侍女エレーナは、この悪党どもの根城に出入りしているところを目撃されているんだ。だから、彼女にはくれぐれも気をつけて欲しい。彼女は己も竜人でありながら竜人を平気で狙える人だからね…」



なぜか私は一人で納得していた。

エレーナのファイ様を見たときの焦り様、私に月光浴をするようになぜ、彼女は助言してきたのか。それは彼女が竜人で、私という、白竜の月の遺構を狙う存在だったからなのだ…。


せっかくの悪役令嬢ものの飴要素だったなのに‥飴と鞭の鞭どころか、トロイの馬でしたか…。



「そこで提案だ。今から日が暮れる前にあいつらのアジトを奇襲する。人員は、私とシエル。そして」



突然、窓が開き現れたのは黒鳥。

黒い影は着地するように滑らかに男性の姿へと変身した。

そう、霧月国王子その人であった。



「よう、アティス。戦力が必要だからって呼び出されてきたんだが、奇遇だな。

あん時襲ってきた奴らが噂に高い悪党だったとはな…。皐月が白竜に目覚めたことが奴らに知れれば、皐月も危ない立場になるし、俺は全力で叩きのめすつもりだ。」



ファイ様は小さくため息をついて王子に言う。



「奇襲ですからね、堂々と正面から立ち向かって行かないでくださいよ…」



「わかっている、なははは」




こうして私たちは奇襲を仕掛けに行くのであった。

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