第21話:冷静に10歳の誕生日を迎える
今回のジャッジメントはゆるゆるでも大丈夫そうだけど、一つ前々から懸念していることがあった。
それは王子ジュノーとヒロイン、クシュナの恋愛である。
クシュナは、‘努力は裏切らない’の言葉が大好きの生粋の脳筋体質。猪突猛進型。
ク:「恋愛は押してダメなら引いてみろだって?
引くってなんですの??
私は引くなんて、逃げるなんて真似はしないわ!
そんなの関係ない、エターナル押すですわ!!」
とか言いそうなタイプである
(→黙って聞いていれば…クシュナはそこまで酷くは無いと思いますけど?)
毎回彼女は全力投球過ぎるため、王子はドン引きして愛が発展していかないのだ。
あれ?彼女、ジョカ横全クリしてるんだよね?なぜ、その方法で攻略しないの?
(→彼女は彼女のやり方で彼と恋に落ちたいらしいわよ。ゲームの選択肢の言葉はあくまでも台本、他人が作ったものでしょ?それを利用して、全き努力せずに王子をゲットできてもなにも嬉しくないらしいのよ。)
へっへー。
想像を超える恋愛ストイックだ…
脳筋改め、恋愛脳筋とクシュナのステイタスは変更しよう!そうしよう!
でも流石にこのままだとまずい。
そこで私とエフィスは、クシュナにある提案をすることにした。
恋愛のレッスン、お母様がよく私にしてくれているやつである。
まず簡単な心理学から学び始め、実際の恋愛話を御令嬢たちからたくさん聞き、その後私たち3人で、分析する。
というサイクルを繰り返すことで叩き台を作る。その上で、お母様に頼み込み、恋愛レッスンをクシュナにつけてもらうシナリオだ。
(→あの…大変申し上げにくいのですが、乙女ゲーという恋愛レッスンを彼女は全クリしていてもあんなんなんですよ…?これで大丈夫なんですか??)
やって見なければわかりませんわ!!!!
******
ついに10歳の誕生日パーティーがやってきた。
「アティス様…なんとお綺麗になられたのでしょう。このエレーナ、アティス様にお支えできてとても光栄にございます…はぁ〜!!!」
今回のドレスをオーダーするとき、あるわがままをデザイナーにしていた。
それは、「三日月」をイメージさせるドレスにして欲しいという願いだ。
自分が竜人であることへの不安は、実はまだ完全に解消されていない。
しかし、アティスは竜人なのだ。その事実を認めなくてはならない。
竜人は月と関係の深いものである。
私が知っていことはそれだけだが、その個性に敬意を払い、月の満ち欠けをモチーフに自分も成長していきたいと思うようになった。
そこで、初めての社交界デビューは三日月。
これをテーマに決めていた。
***
「ねえさん…今日は、なんというか…姉さんじゃないみたいに‥その綺麗だ」
ジェイが、俯きながらも褒めてくれた。耳が赤くて‥相変わらずかわいい。
「お姉さま…まるで月に住む天女さまみたいで…ステキですわ!!!!」
アンジュとも、初めあったときとは比べ物にならないほど仲良くなれたな。
頭もいいし、気がきくし、なんていいこなんだ‥
私は会場に続く長い廊下をゆっくりと歩いていた。
夜の窓ガラス達は、星空を背景に私を写していた。
少し光沢のある生地に下から上にかけて
夜明け色から真夜中色にグラデーションがかかるAラインドレス。
その左半分には、まるで天の河を抜き取ったようなラッフルが施されている。
三日月をお思わせる、あえて左右対称を崩したデザインは、実に現代風で、
モダニズムジャパン!からやってきた美琴としては少し懐かしいような気がしていた。
この国の人からすれば斬新だろうけど。
会場についた。
煌くシャンデリア、豊かなオーケストラの音色、華やかなドレスの波。
私と心がときめいた。
今日は、私の記念すべき10歳の誕生日であり、社交界デビューの日でもある。
この日が来るまで、お母様から鬼のようなマナーレッスンを受け努力してきた。我がハーベル家は公爵の中でも、一大勢力。国王の次に権力のある家柄だ。故に私はこのパーティーを失敗に終わらせてはならないのだ。
(→美琴、肩の力を抜いて!気張りすぎよ。私がついているわ)
エフィス…ありがとう。
お父様が会の挨拶を述べている…もうすぐ私の出番…緊張する。
「紹介しよう、私の娘、アティスだ…」
私が舞台袖から姿を現すと、高揚していた会場が一変、しんと静まりかえった。
華やかなシャンデリアが光の道を譲って、
窓ガラスから急に月明かりがしんしんと差し込んだ。
「はじめまして、アティス・ハーベルでございます。
この度は私の誕生日にお集まりいただきどうもありがとうございました。
今宵はぜひ楽しんでいってください。」
ゆっくりとカーテシーをする。
私が顔を上げた瞬間、会場は歓声に包まていた。
時を戻したかのようにまた華やかな雰囲気が帰ってくる。
どうやら、私はちゃんと挨拶ができたらしい…
***
社交界デビューだけあって、来場者との挨拶には本当に腰が折れた。
お父様、お母様と私でしていたのだが、笑顔ジワができてしまったのでないかと心配してしまう。
ヒロイン、クシュナは結局彼女のお兄さまである、ジュリアスと一緒に会場に来ていた。
王子を誘う気満々だったが、私たちが力尽くで止めた。ダンスを王子と踊るのは止めないが、ラストダンスに執着しすぎるのは止めるように警告はしてある。
クシュナ、恋愛レッスンの成果を見せつけたれ!
一方、エフィスはある来客を心の中で探していた。
神官長こと、アクエスだ。
うん、かわいそうなことに、いませんでした…。
そんなとき、あれ?あれはもしかして‥
白銀の美しい髪がサラッと遠くで流れた。
****
髪の見えた方に人を避けて進むと、やはり見間違いではなかった。
そこにファイ様がいた。
ファイ様は白いタキシード姿で、ワインを片手にひとりグラスを回していた。それはそれは美しい男性だった。
こんなに美しい人がいるのに、みな壁を見るように彼に気付いていない。魔法でも使っているのかな…
彼が私を見つけた。
「おめでとう〜!!アティス!!」
***
彼と会場をあとにし、中庭の噴水の前に座った。
アッ、ここ宰相息子ジャミンが暴走した事件現場…
(→またムードを壊すことは気づいても言わない!!)
「あのう〜今日は、私の誕生にきてくださってありがとうございます、ファイ様。今日は、なんというか男性の格好ですね‥その、そのお姿もとても素敵ですわ…」
恥ずかしい、自分、なんてこといっているんだ‥
私の顔は今リンゴのように赤いだろう。
「そうかそうか!!この格好も悪くないっか!まあこの格好が通常なんだけどね。」
この格好が通常?もしかして‥
「あの、ファイ様。今のお姿が特段お似合いですので、私、ファイ様が女性なのか男性なのか分からなくなってしまいましたわ!おほほほ」
「うん?私は、そうか。初めて会った時女装していたな!!悪い悪い!!私は男だ!でもそれは秘密だ!」
無邪気に笑うファイ様…
ええええつ!!男性????
「よしよし!今日は、アティスのために久しぶりにダンスをしよう!アティス嬢、さぁお手を。」
いつもの朗らかな態度が一変、紳士なファイ様の一面を見せつけられて、またもや思考停止…
(→思考停止はやめてください。私があなたの代わりにファイ様と踊ることになります。夫アクエスがおりながら、ファイ様と踊れません!!戻ってきてください!)
心の中でビンタを喰らった気がして私の思考が戻った。
噴水の前で私たちは時を忘れて踊った。
会場から漏れ出た音楽に合わせて、私たちは回る。
ファイ様の銀河のように煌く髪が、私の白銀の髪が、その度にふわりとなびき、ふわりと重なる。
月明かりが私たちだけを照らし、私たちだけの空間に思えた。
しかし!そんなことはない…
二階から私たちを見ているものがいた。
それは、弟ジェイと騎士団長の息子ジュリアスだった。
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