第22話:冷静に恨まれる
二階の窓からアティス嬢とファイ様の様子が見えた。
この部屋には今、僕ジュリアスと、ジェイしかいない。
「ねえさん…ファイ様とあんなに楽しそうに踊って‥!!僕とおどるのではなかったのか‥ダンスのレッスン付き合ってあげていたのは僕の方なのに…」
ジェイが悔しそうに舌打ちする。
「アティス嬢は、竜人様と仲良かったんだね…」
僕は目を細めてこの光景を見ていた。
竜人、ドラゴン…僕の大っ嫌いなものたち。
「?ジュリアスどうした?あぁ、確かドラゴンが苦手だったとかなんとか、噂で聞いたな。」
「苦手?違うよ。僕はドラゴンが大いいっ嫌いなんだよ。」
「怖いとかそういうのではなくて?ファイ様はよくうちに遊びに来るんだがとてもいい人だぞ…悔しいが。」
「君はドラゴンになにもされたことないだろう。僕は…父上をドラゴンに殺されている。」
「な。なんだって。」
それから僕はジェイに自分の身の上話をはじめた。
****
父上は騎士団長、そして母君は代々続く神官の一族の娘だった。
父上は、私に厳しくも優しく接してくれた。
いずれ騎士団長になりたいと豪語する僕を見て、父上はいつも笑って応援してくれた。
雨の日も風の日も体力基礎訓練、接近戦訓練、そして剣の訓練。
どれも吐きそうになりながらこなし、いつもその先に父の背中を夢みていた。
母君は、こんなに小さい子にやらせるものではないといっていたけれど、これは僕の意思だ、父上に早く近づきたかった。
そんな訓練も4年続き、僕が9歳の時だった。
ドラゴン討伐の要請がどこからかあった。
ドラゴンの雄の鱗は、武器の材料や呪い、占いの類に、雌のドラゴンの鱗は薬や治癒、浄化の効果があると言われている。
竜人様を教会では崇めてはいるが、人間には変化することのできない、ただのドラゴンには目を瞑っている。
つまり、ドラゴンの捕獲は必要なときにはしてもいいことになっていた。
その時は土砂降りの雨が連日続いていたと思う。
「父上。こんな嵐の中行くのですか?ドラゴンを倒さねばならないのですか?」
「ジュリアス。最近、国に病の者や呪われている者が増えていると聞く。私たちが生き抜くために必要なことなんだ。そうだ、ジュリアスもし私が無事に帰ったらこの剣をお前にやる。ドラゴンの鱗で作られた剣だ。いいか、おとなしく待っているのだぞ」
そうして父上は、ドラゴン討伐のため深い森に入って行ったきり帰って来なかった。
後から聞いた話によると、
雌ドラゴンが一体、その傍らに父上の遺体があったそうだ。
しかし不思議なことに、彼の隣には折れた剣と、そして雄ドラゴンの鱗が1枚落ちていたという。
そう、父上は僕との約束を最期まで守ってくれた。ドラゴンの剣を僕にくれるということを。
僕は、父上の最後の戦利品である雄ドラゴンの鱗を使って剣を作ってもらった。
その剣でいずれ、父上を殺したであろう雄ドラゴンを切り裂いて見せる…。
*****
僕が話し終わると二人はもう噴水のそばにはいなかった。
話を聞き終わったジェイは下を向いている。
ラストダンスの曲が流れ始めていた。
*****
時間は遡り、私とファイ様が楽しく6曲目のダンスをしているときだった。
私は時間を気にしながら、ラストダンスでヒロイン、クシュナがどうするのかについて少し気になっていた。
「あれ?少し疲れた?それとも何か心配事かな?」
「えっ?いえ、そんなことは」
「私に隠し事はできないよ?」
その言葉で、以前から気になっていることを思い出した。
ファイ様って、私が考えてること、エスパーのようにわかるんだよね…
「そういえば、隠しごとをしたくてもファイ様はすぐに私が思っていることを当ててしまいますね?なぜですか?私も表情に出ないように訓練は受けているつもりなのですが‥」
少し頬を膨らませて、ファイ様を見上げた。
「うぅーん。アティスがいくら顔に出ないようにしていたってわかっちゃうよ!だって、アティス…竜人でしょ?」
ごほツ!!!
「ある程度長く生きている竜人なら、竜人かどうかだけじゃなくどんな感情なのかくらいはわかるんだよね。だからアティスは私に隠し事はできないのだ!」
あはははと笑顔で回転する私たち…
バレてるんかい!!!
(→提案です。ファイ様を私たちの仲間に加えましょう。あなたに対して警戒心がないどころか竜人と知っていて仲良くしてくれているのですから尚のこと裏切りそうにありません。それに、王子はファイ様にご執心です。クシュナの最大の敵はファイ様なのですよ。)
なるほど!!
「ファイ様に、ほんとは男でした!」カミングアウトをしてもらい、王子からの興味が恋愛対象に変わらないように協力してもらうってことですね!
さすがエフィス!!
ところでなぜファイ様は女装をしていたのでしょうか?
「あの、ファイ様。なぜ今まで女装していたのですか?」
「あー、うん。以前、いつもの男装で街に出たら町娘から貴族の令嬢、おばあちゃんたちにまで取り囲まれるわ、離してもらえないわで散々な目にあってね。女装していた方が安全だからかな。」
「そうなんですね…でも、女装だと…そのジュノー殿下に目をつけられたり。つけられなかったり‥しません?」
「ジュノー?いやぁ、ないない!!あははは」
そんなときだった。
「ファイ様、殿下がお呼びです。ぜひ会場にお戻りください。」
ジュノーの従者が来ていた。
もう少しでラストダンスの時間だぞ…怪しい‥。
***
会場に戻るとラストダンス前の曲が流れていた。
そして私たちが会場に入ろうとするとそこには王子ジュノーが仁王立ちしていらっしゃった。後ろには最小の息子ジャミンとヒロインクシュナ。
「ファイ、水くさいぞ!なぜ私に会場に来ていることを伝えないのだ!久しぶりに会えたというのに!!アティス嬢も、ファイを見かけたら私に報告するようにあれほどいっていただろう。ファイはそなたのものではない!!それに、ファイは美しい乙女。いくらアティスに頼まれたからといって男装するなどファイには相応しくないと思うぞ!」
私はじろっと横目でファイ様を見た。
ファイ様は‥動揺していらっしゃる!!
きっと、まさかが本当にまさかだったからびっくりしているのね。
「ジュノー?何か誤解しているようだからいっておくが…私は乙女ではないぞ?」
「えっ?乙女でない??既に既婚者なのですか???」
「えっと、そうではなく、その…お前と同じ‘野郎’だ!」
ファイ様はニカっと笑った。
****
ラストダンスが始まった。
人が私たちを自然と避けていくので、私とファイ様は会場の中心にいた。
月明かりがスポットライトのように私たちを照らした。
これで夢のような夜は終わってしまうのね…
ファイ様にまた会えてよかった。
**
そんな私たちを、ジュノーが半分意識を失った状態で見ている。
絶賛失恋中なのだ。
クシュナは果実炭酸の入ったグラスをジュノーにそっと渡した。
「その、ジュノー殿下‥
ジュノー殿下がファイ様をどう思うかは私には関係のないことですけど‥
ジュノー殿下とファイ様の思い出も、絆も、変わりませんよ。
私も失恋…したことあるけど、何かを失ったと思っているだけで実は、
なにも失っていないってことに…気づいてくださいね。」
そう言い残すとクシュナはその場を去っていった。
ジュノーは、グラスを見た。
一度注がれたグラスは、注がれたままなのである。
二人が築いた思い出は、本来そのままで、何があっても溢れ失うことはないのだ。
シュワシュワと気が抜ける音とラストダンスの音楽だけが彼を包んでいた。
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