第26話:冷静に竜人基礎学
翌朝、7:00には目が覚め身支度を始めていた。
ここのファッションってちょっとしたルールがあるのよね…そんなことを呟きながら私は、
シエルさんが選んでくれた月日色の短い小袖に、天色のスカートを巻いて、最後に透け感のある薄花桜の帯を締めていた。
ここの国では、月を第一に、太陽を第二に崇めている。そのため天候は神からのいわばお告げであり重要な事柄なのだそうだ。故に、服装もその日の天候に合わせて、晴れていたら空色系、曇っていたら鼠色系など、天気の様子を体に纏う習慣があるらしい。帯は季節の草花を意識して、それらが天とそして自分とを結び止める役割をするのだという。なかなか乙な文化だ。
湿気が多いこの国ではこれから髪はなるべく上げておこう。
鏡の前に立って髪を結びながら、窓から見える今日の天気の様子と自分の服装を見比べた。
今はちょうど桜が散り終わり新緑の香りがし始めたとき、天は晴天。
なんだか素敵な1日を迎えそうな気がする。
こうして8:30には身支度を終えると一階の居間にきていた。
いつもだったらマナーレッスンが始まる時間帯である。しかし、誰もいない。
夜はあんなにいたお手伝いさんの姿もからっきしない。私は仕方なく長椅子に腰かけるとただただポカーンとしていた。これからどうしよう。
そっと広場に目配せする。
広場には敷物が敷かれ、なにやら使い終わったグラスやらさらやらが小さな簡易テーブルの上で乱雑している。
暇だし片付けでもしよっかなぁ‥
(→えっえええ??)
おはよう、エフィス。
(→私は今二重の意味で驚いています。
一つ目は、この世界の令嬢は一人で身支度をこうも制服を着るようにきつけることはできませんし、食べ残しの後片付けなんか持ってのほかということ。
そして第二に、あなた、あんなに部屋の片付けが苦手なのにこれまたどういう風の吹き回しよ!)
なんと言いますか‥暇すぎて自分の身の置き場を探していまして。そしたら掃除する羽目になりました‥。それに、この家に泊めてもらえて、しかも竜人のことも教えてくれるのなら、私も何かした方がいいなと思いまして‥
私は広場に行きおもむろに片付け始めた。
そしてその間に、月光浴のことを思い出し、エフィスが言っていた、竜人は毎日するものという言葉を思い出し、納得していた。
「うん?アティスか??おはよう、早いな」
顔を上げるとファイさまが柱に寄りかかって私を見ていた。
「すまんな、月光浴と酒のせいですっかり騒いでそのままにしてしまった。
アティスは昨日月光を浴びていないし、今日は無理しないようにな。
そ、それとアティス…」
サーッと風が私たちの間を駆け抜けた。
広場に昨晩降り積もった桜の花びらが、弧を描いて舞い上がる。
あたり一面、ほのかな桜の香りに包まれた。
ファイさまは目を小さく見開きその後ゆっくり私に微笑みかけた。
「今日の日和は、アティスを映したようだ。」
そう言うと、ファイさまは門から出て行った。
その場で私はしばらくぽーっと立ち尽くしてしまうのだった。
****
10時ごろやっとみんな起き始め私たちはブランチを食べていた。
ファイさまは夜まで帰ってこないのだという。
食事の後、ダンテさんがある古そうで薄くて皺皺な本を私とショーンに渡した。
「竜人の基礎知識についてこの本に書いてあります。まずはそれを読み、わからないことがあれば私になんでも聞いてください。」
そういうと、ダンテさんは部屋を出て行ってしまった。
「ちえっつ!この本俺何回も読んでるし!!もう読みたくない!!アティス。悪いけど、俺、ミーヤたちと遊んできてもいいか??俺おとなしく座ってるの苦手でな。」
ミーヤたちとは昨日広場で走り回っていた子供たちのことなのだろう。
「いいですよ!遊んできてください!」
彼はそれを聞くと大きく笑って、勢いよく扉を開きかけて行った。
****
『5項目で学ぶ竜人基礎学書』
はじめに
竜人とは、もともとはドラゴンと、月人の間に生まれた天にゆかりのある血族を指す。
月は我々先祖の故郷であり、力の源。月は絶対的私たちの母なのである。
1:
竜人は三つの姿をもつ。
一つ、月人のすがた。
二つ、ドラゴンの姿。
三つ、鳥の姿。
(→そうでしたか、シエルさんは第一印象が鳥でしたが竜人さんでしたのね)
2:
竜人は月光浴をすることで魔力量を回復する。
できれば毎日することが好ましい。
諸説によるが、三日までは月光がなくとも体が動くらしい。
月光を過剰摂取すると、頭がホワホワして月酔いをするので注意。
三日って!私が気を失っている時、一週間気を失っていたから…危なかった。
3:
竜人の平均寿命は千から三千年と言われている。
なっ、長〜!!
(→寿命は長いですけど、ここだけ説明異様に短っつ!!)
4:
竜人と人間の歴史
人間は愚かで臆病な生き物である。
寿命はとても短く、人が死ぬたびに、考えは変わるものだと心に刻め。
私たち竜人の驚異的な強さを見て、ある時代の人間は私たちを神として祀り、ある時代の人間は、私たちを神への生贄として捧げ、ある時代の人間は、神を滅したものとして攻め立てた。
今、そなたたちがこれを手にしている時代がどうであるかは知らない。
ただ、人間と手を結ぶことは竜人の私たちにとってなんの利も生まないことだけは言えよう。
5:
竜人の死後
我ら竜人は、死後、月の世に帰り、生者に魔力を付与するのを手伝う存在になると言われている。また、その恩恵で我らの死体はあらゆる効能を与える月の遺物となる。ドラゴンも、月の恩恵から、雄の鱗は鋼のように強く、雌の鱗は、煎じて飲むと薬になる。しかし、我ら竜人の場合、強いや効き目があるというだけではなく、魔力付与が加算され、ドラゴンよりも性能が格段良くなり、場合によっては、歴史で述べたように、術者が神への生贄として我らを呪いや占いに使った例もある。
我々は、同族の死体を決して人間に渡してはならない。渡る度に戦になる。
そして、我々は、死者に敬意を払い、力を借り、己の最後には力を返すことを繰り返さねばならない。
(→つまり竜人たちは、同族の死体を人間には渡さず、貴重な資源として自分たちで利用しているということですかね)
そ、そういうことか…要約してくれてありがとう。
最後に
この5項目で学ぶ竜人基礎学書を読んでくれた若者たちよ、ありがとう。
そして、若者たち。年配者には敬意を払え。なぜなら、自分より年下の竜人の感情は年上の竜人からは手に取るようにわかってしまう。いつもプンスカするな。
これから先は長い。堂々と月に恥じぬよう、生きてくれ。
著者:アクエス
****
(→アクエス〜!!我が夫よ!!アクエスが書いたのですか!!それはそれは!!)
しばらくエフィスの興奮した感情が爆発していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます