第13話:冷静に議論する〜悪役令嬢vsヒロイン〜議題:「あなたの方が愚か者よ」





「今、悪役令嬢に転生したのは残念って言いましたか?あなたは悪役令嬢がそういえばお嫌いでしたのよね?なぜかしら?」



(→恐れていた展開に…以降私は書記に徹します。

ク:クシュナ、ヒロイン、転生者

ア:アティス、転生者

私にはなにも振らないでください。)





ク:「ええ??あなたもしかして悪役令嬢が好きなの?あの女は大変な愚か者なのに?」




ア:「もし、理由をお聞かせ願えますかな?」




ク:「悪役令嬢はねぇ…はっきり言って甘ちゃんよ。

生まれた時から貴族の御令嬢、しかも悪役令嬢がわがままできるのはそれを許してくれる”易しい”両親がいるからでしょ。生まれも育ちも完璧なのに、それに気づかず、自分は恵まれていないだの、ヒロインばかり好かれてと焼きもち焼いて意地悪するのもほんとに嫌。人の足を引っ張ってばかり‥あげくの果てに、散々わがままさせてもらった両親も巻き込んで家を没落させるとか。恩を仇で返す女ね。

自分自身の環境を少しでも見直して、少しでも他人のことを視野に入れ、感謝することさえできれば、ヒロインなんて当て馬出さなくても彼女が間違いなくヒロインになれる立場にあるのに。それに気づかないなんて愚かよ。」




ア:「お言葉ですが、私にしてみればヒロインこそが甘ちゃんですよ。

生まれた時からチートな魔力と見た目。王族と結婚するためのマナーや勉強を全くせずに、貴族たちのいる魔法学園に通うことができる。その、マナーと勉強がどれほど幼児の精神身体に応えることかあなたはお分かりですか?

そして、そのマナーを知らないことが、逆に攻略対象たちの興味を引くことにつながり、突如発覚した魔力チートで一気に興味のある対象から、婚約可能な地位のある人にまで駆け上り…。

そもそもですね、あなた、ヒロインはなにも自分から行動を起こさないのですわ。

例えば、悪役令嬢に学校でいびられて、攻略対象が助けて仲良くなる、とか攻略対象から誘いが来て、デートしていたら悪役令嬢によって邪魔が入り、攻略対象が対処してより絆が深まるとか?

あなたはただ時の流れに身を任せているだけでなんでもいい方向にことが進むのです。

それに対して悪役令嬢は必死です。物凄い行動力をもっています。

確かに、その行動力をヒロインいびりにのみ使うことは、客観的に見て賢いとはいえないでしょう。しかし、あなたの先ほど言った、ヒロインが来る前まであったはずの自分の大切なポジションを奪われないように、運命を変えるために努力をする。その結果、なにもしないヒロインばかり報われて彼女は逆に自分を貶めてしまう…そんな悪役令嬢の方が人間味があるとは思いませんか?

ヒロインは‘なにも知らない’、‘なにもしない’というだけで、彼女は次々と成功していく立場にあるのに。そのことに気づかないんて…ヒロインの方が愚かに見えます…」




ク:「な、なんですって努力しないでヒロインが報われるって言いたいの?」




(→至急確認:情報ファイルを見直してください!)



[情報ファイル]



名前:クシュナ

年齢:9歳(アティスと同年齢)

ルックス:桜色の髪にエメラルドの瞳

ステイタス:努力系ヒロイン

好きなもの:格言=努力は人を裏切らない

嫌いなもの:悪役令嬢


(→この通り、努力は彼女の好きな言葉なのです。それを無闇に刺激しない方がいいと思います…)




私は血の気が引いた。絶対、クシュナ怒ってる…




「あのう、姉さんたち大丈夫?」




おお!!義弟よ!!お茶会でもそうだったが今回もなんてタイミング‥もしかしてジェイのステイタス、悪役令嬢補佐にでもなったのかしら笑



突然のジェイの訪問にクシュナも動揺している。これはいいチャンスだぞ。




「なんか意味のわからない単語いって…、ヒロイン?とかポジションとか。悪い令嬢じゃなくて悪役令嬢?とかって‥」




「あぁ、ジェイ!!アッ、ちょうど今、物語のことで私たち議論していたのよ!ヒロインは主人公で、ポジションは立場みたいなものね!主人公と悪役の令嬢のお話だったの!ほら、私たちのような物語にのめり込んでいる読者は、その者たちしか知らない暗号みたいな単語があって、それを使っていたの!あなたが知らなくて当然よ。あはははは。」




「それまた、現実味が大変あるお話をしていたんだね。そんな話僕も聞いたことある気がするけど?」




「私の話ではないし、悪口でもないわよ!架空の話ですからね。オホホホ。」




「ふ〜ん。まあ、僕の聞いていた限りどっちも結局同じこと言ってたように聞こえたけど?だって、ヒロイン?も悪役令嬢も見落としていたんでしょ、自分の立場を。」




そのとき、すとんと私の心で何かが落ちた気がした。





そうか、ここは乙女ゲームの世界だったんだ。





恋は盲目、というように、この世界の住人は皆自分の立場に恋した状態、つまり盲信状態になっているのではないだろうか?だからあんなに、乙女ゲームの世界では、地位や魔力が絶対的パワーを持ち、みんなそれの虜となる。

ヒロインに恋する攻略対象は、盲目的に自分やヒロインの立場に執着しているだけだからこそ、ヒロインはなにもしなくてもヒロインになれるのではないか。




「ちょっと?ねえさん??それにクシュナ嬢まで…。どうしたの?目が点になってるけど…」




私は悪役令嬢に転生したばかりのことを思い出した。そのとき確か、悪役令嬢とヒロインはかみひとえと…。そうだ、二人は紙一重、善も悪も盲信して仕舞えばどちらも一緒なのだ、きっと。




「クシュナ様。先ほどは私、失礼いたしました。ヒロインも悪役令嬢も表裏一体。両方同じ愚かもの…ですね。でも、私たちは違う立場として今ここにいます。先程の話は架空のお話。私たちはお互いの立場がちゃんと見えています。」




クシュナは私の目をしっかり見た。




「これからは一緒に、互いに迷わぬように、進めましょう。」



「ええ。」



私たちは強く握手を交わすのだった。


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