第39話:冷静に帰国する


霧月国に来て6年が経とうとしている。

思えばこの国に来てたくさん知って、たくさん泣いて、たくさん驚いた。

私は、いろいろあったあれから、もう一度皐月様のお話役ということで、王居でアルバイトをしていた。

というより、皐月様と一緒に勉強会に参加させてもらっていたって感じなんだけど…それに王居には巨大図書館もあって、都合がよかったしね。

アルバイトで貯めたお金は生活費に使ったり、ダンテさん一家をセード島のご招待するのに使ったりした。自分で働いて、そのお金でお礼ができることは実に清々しい気分になる。


ファイ様とは…特に変化はないかな。

ただ、時々私に内緒で何か調査に出かけていたりして気になる行動は少しあるけど…とりあえず問題は起きていなかったし置いておこうと思う。


アクエスとは…

(→ここからは私が説明します。アクエスと直接会うことは魔術師の関係で勧められないということになり、彼とは密かに文通をしています。内容は…御察知の通りなのですが、そんな恥ずかしい文章他人に見せられるわけありませんでしょう?だからその時は美琴の頭を殴って気絶させ、私一人の状態で清正してからやりとりしています。)



殴るのほんと、やめてよね。痛いようなそんな気するんだよ!ファイ様への私の感情はエフィスにだだ漏れなのに…。



(→我慢してください。)



そんなこんなで早、約束の日が近づいていた。



****



「6年間、お世話になりました!!!このアティス、ここでダンテさんと、ショーン君と過ごした月日は忘れません。二人のおかげでこの国が好きになれました。ありがとうございました。」



「二人とも世話になったよ〜!!ありがとう!!それに、シエル?いるんでしょ?シエルも私たちのサポートありがとう!」



シエルさんが柱の影からスッと現れた。



「ファイ様〜。もう行ってしまうのですか?シエルは寂しいです…。

それに、アティス、エフィス。また近いうちに遊びにきなさい。今度きた時は、私の店番というとても光栄な職場をあなたに開けといてあげるわ、約束よ。

それと…」



シエル様は真っ赤な宝石のついた指輪と見る角度によって七色に光って見えるスカーフのような布を私に手渡した。


「この指輪は私から。お守りだと思って身につけて頂戴。それと、このスカーフは皐月姫様と春婆から預かってきたわ。なんでも、ハトファル家が祀っている月人さんが羽織ってこられた羽衣に近い布で、あの家しか作り方を知らない門外不出の品みないなものらしいわよ。まあ、私たちからのせんべつよ、受け取りなさい」



シエルさんはそのあと私の手をギュッと握って、急に私を引き寄せた。



「早くファイ様をものにしなさい、ちんたらしてると私が横からかっさらっちゃうわよ」



そして彼女はニカっと笑った。

この笑い方、知ってる。ファイ様も時々こんな表情をする。



「じゃ、世話になった。みんな元気でな!また会おう。」



そういうと彼は私の手を握り、視界がぐるっと回った。



*****



私たちが着いたのは、家ではなかった。

深い森の中にある小さな墓石の前。

真っ白な花崗岩、御影石でできた墓石には真っ白な百合が手向けられていた。


(→アクエス、あなたは毎日スフェナの元に通っているのですか…)



そう、ここはスフェナさんのお墓だった。



「これから始まる乙女ゲーム世界での勝利を、母さんにも祈っていてもらおうと思ってね」



私たちは手を合わせ思い思いに心で彼女に呼びかけた。



スフェナさん。

私はあなたと共に、ファイ様と共に立ち向かいます。

一緒に頑張りましょう。



私の心がなぜかとても温かだった。




*****



家の門の前につく。

懐かしい。みんな大きくなったんだろうな。


ヒロインのクシュナとは時々やりとりをしていたのでみんなの様子は大体知っている。本当は、妹アンジュやジェイと文通するべきではと思ったのだが、スフェナさんの心臓を食べた記憶が私に無いように、あの家の住人が全く関係ないとは言えないとファイ様が疑われて、結局やりとりはできなかった。

きっと、お父様は怒られるだろうし、みんなに心配をかけているのだろう…




「あ、アティスなのか?」



あろうことか、私を第一に発見したのはお父様!!!

絶対怒られる…!!



するとお父様は私に駆け寄り、そして強く抱きしめた。



「無事で、無事で…よかった。アティス…おかえり」



そのあと、弟ジェイ、妹アンジュ、そしてお母様が私の帰りを喜んでくれた。




みんな、ただだいま!!!



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