第41話:冷静に再会


属性審査が行われた。

本来ならばその様子を執拗な程詳しく特筆、記録しておきたいところだが、なんせエフィスのアクエス〜!!コールが凄すぎて全然冷静さを保てなかったため事後報告とさせていただきます。



(→私のせいなどでは決して…まあ、いいでしょう。

情報公開します。これには攻略対象も含まれます。



王子ジュノー:光属性

宰相息子ジャミン:闇属性

騎士団長息子ジュリアス:火属性

アティスの義弟ジェイ:治癒属性


ジュリアスの義妹、ヒロインクシュナ:火属性

悪役令嬢になり損ねた二重人格竜人アティス:全属性(しかしバレると厄介な為、ジェイと同じ治癒属性ということに偽装してもらっています。アクエスに頼んで!)



こんなところです。遺伝しますから血縁者の属性は類似します。

悪役令嬢になり損ねた二重人格竜人アティスの場合は曲がりなりにも竜人ですので、全属性、チートになっています。ちなみにファイ様もアクエスも!)




無事属性審査が終わるとクシュナが私たちのもとにやってきた。



「クシュナ、代表の言葉お疲れ様!クシュナらしい勇気の出る挨拶だったよ。」


「お褒めのお言葉ありがとうございます。これも、修行の賜物。努力はやはり良い言葉です!」


私たちがそんな話をしながら教室に向かう時だった。



「すみませーん。アティスさん。教会の方がお呼びです。」



アクエスからの呼び出しだった。



「あら?教会の方ってもしかしてアクエスとか?」



意外な人物からアクエスの名が飛び出した。クシュナがアクエスのことを私たちに尋ねたのだった。


「いつからアクエスと知り合いなの?アクエスって、確かジュリアスルートで出てくる竜人で、隠しキャラだったのよ。それもそのルートはジュリアスが暴走を始めてとんでもなくなっちゃうから難易度ちょー高めだったんだから。」



衝撃的事実。アクエスって、隠しキャラだったんだ‥



****



判別式が終わり静かになった教会の裏で私たちは落ち会った。

教会の裏には小さな庭があり、今の時期カモミールの花が満開だった。

私たちは庭の隅にあるベンチへ腰掛け向かい合う。


「入学おめでとう、エフィス、そしてアティスさん。」



「アクエス、私は今エフィスです。ですから、エフィスとどうぞお呼びください。」



必死なエフィスの表情がアクエスは愛しくて笑った。



「エフィス、君とこうしてまた直接会えて嬉しいよ。セード島の教会で会った時以来だからね。あの日から私は君たちを遠くから見守ってきた。でもそれもこれで終わりだ。私からいい知らせがあるんだ。これからこのルーナ学園の教会で私は働く。だから君を近くで見守ることができる。どうか、私をもう一度君のそばに置くことを許してはくれないか。」



アクエスは月夜を閉じ込めたような瞳を春の明るい日差しで輝かせ私たちを見つめてきた。



「アクエス。私はあなたの気持ちが嬉しい。

またもう一度近くであなたと過ごせる時間を思うと胸がときめく。

でも、あなたはそれで本当にいいのですか?

霧月国であなたが書いた竜人基礎学書を拝読させていただきました。

あの中で、あなたは“人間と手を結ぶことは竜人にとってなんの利もうまない”と語っています。

私はあなたと関わってから、あなたを不幸にさせたのではないかと思うことがあります。きっとあなたは否定してくれることはわかっています。ですが、闇雲に私たちの関係を復縁させ、あなたや私がこの学園で人と共にあることはこれからの未来にとっていいことなのでしょうか。何か火種を抱えることにはならないでしょうか…。」


(→ちょっと、エフィス。そんなこと言って、二人が絶縁してしまったら支配人の思うツボだよ…)



アクエスは彼女の言葉に耳を傾け、視線をエフィスから庭の方に移した。

彼の白銀の髪がキラキラと風と戯れる。



「エフィス、あの本を読んでくださったのですか。

あの本は、お恥ずかしながら、私が青いころ、あなたと会う前に書いた本なんです。あの時の私なら考えられないでしょうね、私が人間であるエフィスを忘れられずに愛し続けていることなど…。

エフィス。未来など誰にも分かりません、わからないから未来なのです。たとえ未来が予測できても、予測された時点で未来は未来ではなくなる。私たちからしてみれば予測の未来など過去の出来事と同じになるのですから。

あなたは転生してエフィスになり、私の前に現れました。

生前の記憶を辿ってあなたがすることは、エフィスにとっては過去の出来事の再現であっても私たちにとっては未知との遭遇、つまりあなたが為すこと全てが未来でした。

あなたは、何にでも慎重になりすぎる。

自分を卑下したり悪者にしたがりなところがあるのです。

エフィス、私は未来をわからないなりにも信じています。

私たちは誰もわからない未来というものによって、苦しい困難からやっと巡り合えたこの再会を、拒まれなくてはならないのですか?」


下から舞い上がった風によって辺り一面カモミールの香りに包まれた。



(→思い出したわ。カモミールって確か、「逆行で生まれる力」という花言葉があるのよ‥

ねえ、エフィス。私にはあなたたち二人にその力があるように思えるわ…)



エフィスはアクエスの大きな手を両手で包み込んだ。



「アクエス…私はあなたともう一度一緒にいたい。

あなたの寿命があとわずかなことも知っている…このよくばりな私に、あなたの限られた時間をいただけませんか…」



「エフィス…」



優しく抱きしめ合う二人を、教会の鐘だけが祝福していた。





*****




ようやく学園生活がスタートした。

クラス分けの結果私たちは一緒だった。

ヒロインと悪役令嬢…になり損ねた竜人の二人組はそれはもうクラスで目立っていた。

なぜなら、彼女たちの見た目がまるで乙女ゲームに出てくる主要人物のように麗しく可憐であったから。そしてもう一つ、その見た目に反して彼女たちには謎の貫禄があったから…であった。話し合いのときも試験時もなにかも…。



「ああ、次のテスト薬草について出るよね。確か花の名前を漢字で書けって出るのに、私平仮名で書いててバツになったんだよ〜」


「クシュナ…あなた今はいいけど、あの時はたとえひらがなで書けと書いてあっても正解になっていたか分かりませんよ…なんせあなたの字は全く他言語のように見えましたから…」



そして彼女たちの会話を密かにメモり、テストの点数を上げていたものもいたという。



「あ、そう言えば明日は金曜日ね。あなたが大好きな神官長様に会える日じゃない、よかったわね。」



「ええ。毎週金曜日前日と当日はお風呂に念入りに入っています。なぜなら、アクエスと会いますから…もし万が一」



(→やめてエフィス!引っ込んでください!可愛いアティスの口からそんなこと言わせませんよ!!)



こうして私の一年目の学園生活は始まっていった。

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