クラスで一番可愛い女子から告白されたけど、信用できないから断った。

白玉ぜんざい

第一章

第1話 校舎裏といえばアレ



「筒井優くん。わたしと、お付き合いを前提に、友達になってくださいっ!」


 放課後。

 きれいな夕暮れが照らす校内はいくらだってあると言うのに、中でも光が差し込まないことで有名な校舎裏に呼び出して何を言い出すかと思えばそんなことか。

 ああ確かに、校舎裏ってのは薄暗いことで有名だけど、それ以外にもとあるスポットとしても昔から名前を広めていたな。

 告白スポットとして。


「嫌……ですけど」


 俺は低い声できっぱりと断った。

 え、俺選択肢間違えてる?

 いやいや間違えてないよこれであってるよ。だって相手は校内でもトップクラスに可愛いと言われ、事実可愛い笹倉木乃香なんだぞ?

 そんな彼女からの告白紛いの提案、断る以外の選択肢なんてないだろ。


「……んん?」


 笹倉は想定外の答えに思わず口を引きつらせる。

 そりゃそうだ。それだけ高レベルの容姿を持っていれば、まさか告白を断られるとは思わないよな。


「ええと、筒井くん。もう一度言ってもらってもいいかな?」


「いや、だから、遠慮しときます」


「いやいやいやいや、遠慮なんてしなくてもいいよ。何なら、この胸に飛び込んできても、わたしはちゃんと受け止める所存だよ!?」


「あ、でも大丈夫です。遠慮しときます」


「二度も同じことを言われた……一応、理由を聞いていいかな?」


 笹倉は大きな瞳をこれでもかと開いたかと思えば、パチパチと何度も目を瞬かせる。


「特に理由はないけど……」


「ないの!?」


「強いて言うなら……」


「強いて言うなら?」


 俺は、少し悩む。

 瞬間、強い風が吹き、笹倉の茶色混じりの長い黒髪がぶわっと揺れた。

 笹倉木乃香は誰もが口を揃えて美少女だと豪語するほどの容姿を持つ。そんじょそこらの芸能人にだって負けてないだろう。

 長いまつ毛が縁取る大きな瞳も、さくら色の小さな唇も、大きくはないが形の整った胸も、スカートから伸びる程よく肉づいた太ももも、その全てが男子の視線を奪う。

 男女共に友達も多く、彼女の悪口を言う人間を俺は知らない。まあ、それは俺がクラスに話す相手がいないからというのが大きいが。

 まだまだ理由はあるだろうが、つまり何が言いたいかというと、校内の男子生徒に付き合いたい女子生徒のアンケートを取れば、満場一致で堂々の第一位に輝くであろう彼女と付き合えるのは、男の夢そのものであるということ。

 だからこそ、俺は彼女の告白を拒む。


「……き、」


「き?」


 言っては見たものの、思いつく理由なんて見当たらない。

 だって、きっと、彼女は完璧だから。

 でも何か言わないと、この場が収まらない。

 どうせ友達との勝負の罰ゲームとかで告白してきたんだろうし適当な理由をつけておけばいいか。


「巨乳じゃ、ないから……?」


 我ながら思いついた理由が気持ち悪い。


「な、なぜに疑問系……」


 少々ショックを受けたのか、言葉が覇気を失っていた。空気が重く感じ、どうしていいのか分からなくなった俺はその場から逃げ出す。


「あ、筒井くん! 待ってよー!」


 筒井優、一七歳、高校二年。

 短い春休みを終え、新学期が始まって暫く経った頃。

 初めて告白をされ、初めて女の子を振った。

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