第7話 放課後デート



 笹倉から放課後デートの提案をされた。

 彼女を受け入れるのはいろいろと問題が多いような気もするけど、これ以上の拒絶はさらなる事態の悪化に繋がりかねない。

 そう思った俺は、笹倉の条件を受け入れた。

 なので当然だけど放課後までの時間はずっとそわそわしっぱなしだった。だって、男友達とすらろくに遊びに行ってないのに、急に女子と遊びに行くとかハードル高杉くんだよ。

 でも緊張してるのバレるとバカにされそうだから平然を装っていかなければ。精神統一だ。

 と、そんなことをうだうだ考えているといつの間にか放課後になっていた。昼の授業はもう全然聞けてない。


「すごく緊張してる顔だけど、大丈夫?」


 秒でバレた……。

 なぜだ、俺はいつも通りの顔で待っていたはずなのに何も隠せていなかったというのか? 俺の対女性戦闘力は限りなくゼロだというのか。


「いや、してないけど?」


 せめて見栄を張ろう。

 もしかしたら誤魔化せるかもしれない。

 俺が無愛想にそう言うと、笹倉はハッとしてからにこりと笑った。


「そうだね。わたしが緊張してるから、そう見えちゃったのかも」


 俺と笹倉は、学校を出て電車に乗ること数十分のところにあるとある駅で待ち合わせをしていた。

 教室から一緒に帰るなんて論外だ。そこには周りの目かある。クラスメイトに一緒に帰っているところを見られでもしたら、たぶん後ろから刺される。

 そもそも周りに知られるのが嫌だから校内では関わらないでくれという条件をのんでもらうために放課後に遊ぶことを決めたのだから、そうなれば本末転倒だ。

 放課後デート、そこで何をするのかは全て笹倉に任せている。女の子が何したいのかとか何をすれば喜ぶかとか分かんないし。

 そして、あまり生徒と鉢合わせないようにとだけ言っておいたら、この駅が指名された。


「で、ここで何するの?」


 降りたことない駅だし、周りを見ても特に何かあるようには思えない。とてもじゃないが栄えていることはない。


「こっちだよ」


 言われるがままに駅を出て、少し歩くと商店街が見えてきた。昔懐かしって感じの雰囲気で、人の通りもそこまで多くない。地元の人に愛されているといったところか。


「商店街?」


「そう。だめかな?」


「いや、俺はどこでもいいけど。なんで商店街?」


 俺が聞くと、笹倉はんーっと唇に手を持っていきながら考える。考えなければならないくらい理由がないのだろうか? 例えばこの商店街に行きつけの店があるとか。


「何となく、かな」


「何となく?」


 考えた結果、何も出なかったのか?


「歩いていれば、もしかしたら何かあるかもしれないじゃない」


「ないかもしれないけど」


 言いながら、二人並んで商店街の中に入っていく。

 八百屋や肉屋、パン屋に雑貨屋など古き良き時代に栄えたであろうお店が並んでいる。

 おしゃれなカフェが並ぶところよりはこういう場所のが落ち着くから悪くはない。カフェとかは何か場違いな気がしてならないんだよな。


「なかったら、それはそれでいいと思うよ」


「なんで?」


「んー、何もないのかって思えるから、かな。その気持ちを誰かと共有できるんだから、だったらそれはきっと充実した時間だよ」


「そういうもんかね」


 ものは考えようってやつか。

 そういうポジティブな考えができるからリア充なんだろうな。俺もそういう思考があれば、もうちょっとマシな人間になれていたのか。

 いや、マシな人間じゃないからこんな思考回路になったのか。


「せっかくだからどこか入らない?」


「そうだな。思ったより店あるし」


 おしゃれというよりは味に拘ってます感の強い外観のカフェや、駄菓子屋、甘味処もある。どれも悪くねえぜ。


「筒井くんは甘いもの好き?」


「好きか嫌いか選ぶなら超好きだな」


「じゃあ喫茶店に入ろ。わたしも甘いもの好きなんだー」


 たまたま見かけた喫茶店に入る。

 中は若干薄暗く、何かのアニメのサントラかなと思えるようなBGMが流れている。店内はそこまで広くはないようで、カウンター席とテーブル席、奥にはお座敷があるようだ。

 時間帯の問題か、店内は落ち着いており静かな時間が流れていた。いやでも別に落ち着く時間でもないな。何なら学校終わりの学生が流れてきてもおかしくない時間だ。


「お好きな席へどうぞ」


 大人びた雰囲気の店員さんに促され、俺たちはテーブル席に座った。メニューを開いて暫し考える。

 アフタヌーンタイムというサービスが設けられているようで、ドリンクとケーキのセットが通常よりも安い価格で提供されている。


「ケーキでも食おうかな」


「お、わたしも同じこと考えてたよ。筒井くんは何が好き?」


「定番のショートケーキは捨てがたいな。シンプルだからこそ、作り手の腕が試される。でもたまにチョコレートケーキがむしょうに食いたくなる」


「定番といえば、わたしはミルクレープが大好きなんだよね。季節によって脚光を浴びるモンブランとかもいいけれど、シンプルにフルーツタルトも食べたい」


 二人して、唸る。

 チョコレートケーキと牛乳が飲みたくなる気分がある。理由は特になく、ただ何となくそういう時があるのだ。その時が来れば他のケーキになど目もくれずにチョコレートケーキを食べるのだが、今はそういう気分ではない。

 ならば、ショートケーキを食べるか? いや待て、結論を急ぐな。ここはもう一度考えてみるべきではないだろうか。ショートケーキやチョコレートケーキ、ミルクレープは確かに魅力的だ。誰にでも人気でありどこにでもある。しかし、中には店舗限定のものもある。そういったものを味わってこそ、その店を楽しむということにならないだろうか?


「決まった?」


「んー」


「筒井くんって、結構優柔不断なんだね」


「幻滅したか?」


「んーん、物事を真剣に考えられるって素敵なことだと思うよ!」


「……よし決めた」


「じゃ、店員さん呼ぶね」


 すいませーんと手を挙げながら控えめな声で店員を呼ぶ笹倉を、俺は感心しながら眺める。

 こいつができないことは何なんだ?

 完璧超人というと何か違う気がするけど、パーフェクトと言う他ないくらいに欠点が見当たらない。

 つくづく、俺とは吊り合わない。

 注文を済ませると、店員さんは厨房へ戻る。そんなに混んでないし、すぐくるだろ。


「あれだけ悩んでいたけど、結局ショートケーキなんだね」


「まあ、悩んだときは無難なのにしとくといい」


「そーなの?」


「結局は無難こそ最強。だからこそ定番として長年皆に愛されるんだよ」


「なら、わたしもショートケーキにすればよかったかなあ。でもミルクレープが好きなんだよねー」


「好きなやつ食うのが一番だろ」


「……だよね」


 実際にしたことはないし、これはあくまでも漫画とかの知識でしかないけれど、こうしてると本当にデートみたいだな。

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