第19話 自慢の?



 エスカレーターに向かっていたその時、前から歩いてきた女子二人がこちらを見て駆け寄ってきた。

 え、なに?


「木乃香?」


「え?」


 右は金髪、左は黒髪ショートの可愛らしい女子二人組。金髪が笹倉に声をかける。


「あ、菜々子!」


「おひさじゃね。卒業式以来?」


「そうだね。懐かしい」


「元気してたー? あーしはね、見てのとおり元気モリモリだぜ」


「あたしもぼちぼちだよ。頼子ちゃんも元気そうでなによりだ」


「まあね。菜々子が高校になっても変わらず騒がしいから大変だけど」


 金髪が菜々子、黒髪は頼子という名前らしい。この先俺が呼ぶことはまずないだろう。会話を聞いている感じ中学時代の友達かな。


「そっちのメンは?」


 この金髪、男のことメンって言うの? 一周回って新しく思えてしまうから近頃の若者ってすごい。


「まさか木乃香の彼ぴっぴ?」


 それはちょっと古い気がする。

 言われて、笹倉はちらとこちらを見てくるが、俺はどうしていいのか分からず目を逸らす。


「彼氏、ではないんだけど」


「違うん? まあ木乃香の彼ぴっぴにしてはちょっと冴えない感じかも」


 すいませんねえ、冴えなくて。

 俺はどんな顔をしていいのか分からないのでとりあえず愛想笑いをしてみせた。最近習得したのだ、秘技愛想笑い。


「でもね、わたしはずっとアプローチしてるの」


「へ?」「わお」


 笹倉の爆弾発言に二人は驚きの声を漏らす。

 そうですよね。普通逆だもんね、俺みたいな冴えない野郎が高嶺の花である笹倉にアプローチするべきだよね。分かります。


「え、え? じゃあなに、そっちの冴え……メンぴっぴが木乃香を振っていると?」


 メンぴっぴってなんやねん。

 その感じだと俺が笹倉を弄んでいるみたいじゃないですか。いや、違うんすよ。事実だけを言葉にするならそんな感じだけど実際はそうじゃないの。俺にもいろいろあるの。


「んーん、振られてないよ。ただ、ちょっと早かったみたいだから、時間をかけてお互いのことを知っていければなと思って」


「ほーん。まあ、確かにフィーリングだけで付き合ってもすぐ別れんのがオチだもんね。あーしなんて高校入ってもう四人と別れたわ。ちな今フリーね」


「彼氏がいるときは全然私に構ってこないもんね」


 なんかドライな関係だけど、女子ってこんなもんなのかな。判断材料が笹倉と羽島しかいないから見当がつかんぜ。


「このメンぴっぴがいいの?」


「うん」


 金髪菜々子が疑うように俺を見てくるものだから、どう答えたものかと考えていたが、笹倉が短く言う。

 満面の笑みを浮かべる笹倉を見て、俺はどきっとしてしまう。その笑顔があまりにも眩しくて綺麗だったから。

 それは金髪菜々子も思ったようで、ピッと背筋を伸ばして数歩下がる。


「そっか。木乃香はそのメンぴっぴにゾッコンなんだね。それなら、デートの邪魔しても悪いし、そろそろ行くね」


「あ、うん。またゆっくりお話しようね」


「ういすー。連絡したら返信してよね! それじゃ、メンぴっぴもじゃね!」


「あ、うす」


「うすって、なにそれウケる」


 ケラケラと笑いながら、金髪菜々子と黒髪頼子は去っていった。嵐のような人達だったが、悪い人じゃないんだということは伝わってきた。

 ていうか、やっぱりこれデートなのか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る