第14話 ふたりの距離
オフ会の翌日。
つまり月曜日。
月曜日といえば、学生が憂鬱になる曜日ランキング堂々の第一位に輝く不動の連覇曜日である。
月曜日が好きな人間などきっといない。子供から大人まで、あらゆる層から嫌われている。月曜日の楽しみと言えばせいぜいジャンプが発売するか、祝日かのどちらかだ。その理論から、月曜日は友達に会えるから好きとか言ってるリア充はもれなく人間じゃねえ。
なんてことを言いながらも、俺は今日も学校に来ていた。これは仕方のないことなのだ、学生の宿命に他ならない。
登校すると笹倉との挨拶という最近の恒例行事を済ませ、席についてスマホをいじる。
ふと思い出したように、俺はちらと他の席を見てみる。
羽島愛奈。
まさか同じクラスで、しかも同じ委員という共通点を持つ彼女と、ゲーム仲間だとは驚いた。世間は狭いとよく言われているが、まさにその通りだと思う。
羽島は自分の席で本を読んでいた。彼女もまた、あまり多くの人と関わらない人種。関わらないのか、関われないのかは定かではないが。
図書委員に立候補するくらいだし、見てみればいつでも本を読んでいるので本好きの読書家だと思っていたけど、今読んでるあの本だってラノベ説が浮上する。
昨日一日一緒に遊び、彼女がしっかりオタクであることは理解した。
「……」
ぼーっと見ていると、羽島もちらりとこちらの様子を伺ってきた。
あちらはあちらで、実はゲーム仲間だったクラスメイトとの距離感を測りかねているのかもしれない。
話しかけるべきか?
それとも、俺達の関係はあくまでゲーム内のものとして、教室では今まで通りに深く関わらず慣れ合わないを貫くか。
話しかけて、「あの、学校では話しかけないでください」なんて拒絶をされた暁には、ゲームに悪影響を来す恐れがある。
それを思うと、話しかけるのは少し躊躇ってしまう。
俺がそんなことをうだうだと考えていると、羽島は意を決したように立ち上がり、まるで戦場に赴く兵士のような覚悟の籠もった顔でこちらに向かってきた。
「あ、あの、筒井君」
「あ、おう」
普段話をしない二人の突然の会話なんてこんなもんだろう。昨日は話せてたじゃないかって? だってしょうがないだろう、ここは学校なんだから。学校というフィールドでは、俺は真の力を発揮できないのだ。発揮したところで友達はできなかったのだけれど。悲しい。
「これ」
羽島に何か手渡され、それを受け取る。ブックカバーがついているが、恐らくラノベだろう。
「昨日言ってた、私のオススメです。気になってたようなので、お貸ししようかと」
「まじか。サンキュー。今度本屋に寄ろうと思ってたから助かるよ」
「いえいえ、同じ作品を好きになってくれるのならばこれくらいどうということはないですよ。気に入ってくれるといいんだけど」
「ありがたく読ませてもらうよ」
もう一度軽く礼をして、俺は借りたラノベをカバンの中に入れる。
「でもあれですね。何だか変な感じですね」
「え?」
「まさか、いつも一緒にゲームをしていたのがクラスメイトの筒井君だとは思いもしませんですから。正直、昨日はちょっと気まずい感じでしたけど、一日一緒にいると慣れましたね」
「俺は今日、どうしたもんか悩んだけどな。話しかけるかどうかって」
「私もです」
羽島はくすくすと笑いながら言う。
「別に今まで通りである必要はないと思います。というより、今まで通りという言葉を使うほど、私達に関わりはなかったですし」
「そうだな。俺としては話せる相手ができて助かるぜ」
「私も、同意見です」
冗談めかして言って、二人して笑いあった。
「もうすぐ先生が来ますね。ではまた」
「ああ」
羽島と別れた後、机の上に置いていたスマホが震える。こんな時間にスマホが震えるのは、広告メールかスパムメールか、あるいはゲームの通知くらいだ。
何だろうかと思いスマホを開くと、メッセージが送られてきていた。珍しいこともあるもんだ。
この時間だと母さんかな、と楽しくもない予想を立てて確認すると、その相手は笹倉木乃香だった。
メッセージを開くと、怒っているような顔文字と共にたった一言。
『むう』
どういうことかと思い、席についた笹倉の方をちらっと見ると、恨めしそうな表情でこちらを睨んでいた。
……え、俺何かした?
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