第3話 きのこたけのこ



「わたしはね、きのこよりたけのこ派なの」


「ふーん」


「わたしの調査ではね、たけのこ派の方が僅かにだけど数が多いんだ。といっても僅差だよ? ほんとに微々たる差だと思うの」


「そうなんだ」


「筒井くんはどっち派?」


「……たけのこ」


「わあ! 一緒だね。わたし達相性いいのかも」


 きのこたけのこの相性占いしてるやつ初めて見たけど、さっきの情報から考えるとお前と相性いい奴この世界にごまんといるじゃねえか。


「ていうかさ」


「うん?」


 ご機嫌に話をする笹倉の腰を折るようなテンションの低い声で俺は言う。不思議そうにこてんと首を傾げる笹倉だったが、そのリアクションをしたいのはこっちだった。

 まあ、可愛い彼女がするから様になっているだけで俺がやってもキモいだけなんだが。


「なんで一緒に飯食ってんの?」


「え、流れでだけど」


「そんな流れになったっけ!?」


「なったよ?」


 なってない。

 断言できる。

 四時間目の授業が終わり、昼休みに突入したタイミングで教室の中は一気に騒がしくなる。当然だ、仲のいい友達と思う存分語り合いふざけ合いができるのだから。

 そんな教室の中にいると何故かいたたまれない気持ちになるので俺は昼飯を持って教室を出る。

 それがいつものことなのだ。

 世のリア充には学食で食うという選択肢もあるのだろうが、ぼっちで学食行く度胸があるからそもそも教室で飯食える。

 というわけで毎度俺が行きつくのは中庭のベンチだ。そこまで人通りも多くなく、俺と同じ境遇かあるいは別の理由で一人のやつがたまに現れる。

 ここが人で溢れていたら別の場所に行くのだが、今日はここが空いていたので俺はベンチに座りおにぎりを食す。

 昼飯はどこでも食べれるよう、最悪の場合の立食までを想定しておにぎりスタイルにしている。

 少し経つと、現れたのだ。

 笹倉木乃香が。


「お隣いいですか?」


「いや、ダメですけど」


「え、なんで?」


 ものっそいきょとん顔をしてくるものだから言い訳を考えなければならなかった。普通断るだろ、なんでその顔ができるのか不思議だった。


「ええっと……後で人が来るんで」


 さすがに仲良くもない人と一緒にベンチ座るのは気まずいとは言えないし、適当に言い訳してみたが……。


「あはは」


 え、なんで笑ったの? 笑える要素どっかにあった?


「面白い冗談言うね、筒井くん」


「???」


 俺がクエスチョンマークを大量展開していることに気づいてか否か、笹倉は言葉を続ける。


「筒井くんいつも一人でご飯食べてるじゃん」


 笑えない話だった。

 くそう、まさかここにきて普段の状態が足を引っ張るとは思わなんだ。ていうか何で知ってるんですかね?


「失礼しまーす」


「あ、ちょっ、待っ」


 咄嗟に言葉がでない。

 俺の言語能力はどこまで低下してしまったと言うんだ!?


 と、そんな感じで半ば無理やりに隣に座られたのだ。そこに俺の意見は一切反映されていない。俺の問題なのに。


「そうだったかな?」


 俺が指摘すると笹倉はすっとぼける。このとぼけ方は確信犯がするやつだ。

 なんでそこまでして座るんだ。


「まあいいじゃないですか。たまには誰かと一緒にランチっていうのも悪くないでしょ?」


「いや、俺が聞きたいのは、何でわざわざ隣に座ったのかということであって」


「だって、そうでもしないとお話してくれないでしょ」


 今朝といい、そもそも昨日の放課後といい、笹倉木乃香の考えが一切読めない。何を考えているのか。


「わたしもちょっと早足に展開しようとしすぎたなって昨日帰って反省したの」


「へえ」


 反省するのはいいことなのに、その反省がどこにも活かされていないというのは大きな問題だ。


「ということでですね、改めて一つ言わせてもらってもいいかな?」


「……それ俺に拒否権はあるの?」


「んー、ないよ」


 なら聞くな。

 俺が大きな溜め息をつくことで、それを承諾の意と察したのか笹倉は俺と向き合うように体の向きを変えた。


「……ッ」


 改めて向き合われると照れるし緊張もする。

 何度でも繰り返して言うが、笹倉木乃香は紛うことなき美少女なのだ。そんな奴と昼休みの中庭で二人きりというだけでも緊張するのに、その上この至近距離でこっちを向かれたらもう限界ですよ。


「えっとね、筒井くん。わたしと、お友達を前提にお知り合いになってください!」

 

「……………………………はい?」


 長い長い静寂を破ったのは、俺の戸惑いの一言だった。

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