第26話 あなたとペア



 バスに揺られることおよそ一時間弱。そろそろ乗り物酔いが起こりそうなタイミングでようやくバーベキュー場に到着した。

 俺はまだギリギリ酔う前だったが、横に乗っていた羽島はだいぶグロッキーだった。そもそも、羽島が酔い始めたのでゆっくりしてもらう為にスマホをいじり始めて俺も酔ったのだ。


「外の空気がおいしいです」


「これから食う肉はもっと美味いぞ」


 高級レストランのディナーでも食べたのかなと言いたくなるような満足顔で空気を吸うものだから、さすがに触れてやった。


「羽島さん酔ったのか?」


「みたいだな。リバースはしなかったけど」


 後ろから出てきた須藤が羽島に気づく。そういうところが人気者の所以か。俺なら普通にスルーしちゃうぜ。


「リバースて……」


 さらに後ろから出てきた笹倉が呆れ気味に呟いた。まあさすがに冗談だけどな。ていうかリバースしてたら笑えねえよ。


「とりあえず班ごとに決められた場所へ移動するみたいだよ。わたし達も行こ?」


 荷物はさすがに男子である俺と須藤が持つ。提案すらせずにナチュラルに持つのだから須藤という男は恐ろしい。そりゃモテますわ。あんなナチュラルに優しくされたら俺ならホレる。


「他の学校の生徒もいるみたいだね」


 移動中、他にもグループがいることに気づいた笹倉が言ってくる。あちらも制服ではないので学生である確証はないが、こっちと同様に団体の移動を行っているのできっとそうなのだろう。

 まあ、他校の生徒がいようと関係はないな。トラブルを起こすようなキャラじゃないからそのようなイベントとは無縁なのだ。


「ちょっと見すぎじゃないですか? なんですか、可愛い女の子でもいましたか?」


「いや別にそういうわけじゃないですよ」


「目の前にいる女の子のことをもうちょっとちゃんと見るべきだと思うなあ」


「……善処します」


「よろしくお願いします」


 そんな話をしながら歩くこと約五分。バーベキュー場に到着した。

 バーベキュー用の焼き場が横にズラーっと並んでおり、その一つ一つに手洗い場がついている。施設としてはなかなか優秀に見えるな。

 近くには川も流れており、バーベキューを終えた人達があそこで遊んだりするのだろう。

 ところで人々は川でどうやって遊ぶの? キャッキャ言いながら水かけ合う以外に思いつかないんだけど、それリア充以外楽しめなくない? ぼっちはどうすれば……ああそうか、水切りすればいいんだ。あれ楽しいからな!

 生徒が集合したことを先生が確認し、そこで一度長めの先生の話が入る。校長の話は長いことで有名だけど、平教師でも話長いな。あの先生は校長の才能があるかもしれない。

 若干ブーイングの空気をようやく読んだのか、先生の話が終わる。そうして各班ごとに調理を始めるよう指示が入る。


「さて、それじゃあ調理開始といきたいけど。まずは下ごしらえか」


 エプロン姿がいやに似合う須藤が仕切る。なにこいつ、何でこんなにエプロン似合うの? 専業主夫にでもなるの? 顔的にヒモっぽくなるけど大丈夫か?


「みんなは料理できる人?」


「わたしはある程度」


 エプロン姿に衣装チェンジ(と言いながらただ水色のエプロンを装着しただけ)した笹倉がおずおずと手を上げる。

 だが。


「……」


「……」


 俺と羽島はちらと互いの様子を伺った後に首を横に振る。

 料理なんてしたことないよ。いつもママが作ってくれるんだもん。逆にお前らいつ料理するんだよ?

 笹倉はまだ分かるけど須藤はいよいよどのタイミングで料理するの? 両親が共働きで妹や弟のご飯作ってんのか? 何それどんだけ好感度上げるんだ。


「それじゃあペア作るか。ここはやっぱり女の子同士の方がいいかな」


「え、そう?」


「その方がやりやすいんじゃないかな。だから、俺が筒井と組んで笹倉は羽島さんと組みなよ」


「いやいや、別にそんなことはないよ。何なら同性同士の方がギクシャクするパターンもあるよ」


「ぎ、ギクシャクするんですか……」


 きっと深く考えてもないんだろうけど、笹倉の言ったことに羽島がガビーンと肩を落とす。


「あ、いや違うよ? そういうことじゃないけど、必ずしも女の子同士がいいとは限らないって話」


「そ、そうですか……」


「せっかく男女が二人いるんだから、ここは青春らしく男女ペアでいこうよ!」


「どういう理由なんだいそれは。でも、羽島さんがどう思ってるか」


 須藤はえらく噛み付いてくるな。どれだけ俺と組みたいんだよ。なにあいつホモなの?


「羽島さんはイケメンと同じペアで嬉しいでしょ。女の子はみんなイケメンが好きだしね」


 そして、よく分からない理論で押し通し結局須藤は羽島と、そして俺が笹倉と組むことになった。


「あの、よろしくお願いします」


「ああ、せっかくだし楽しもう」


 須藤と羽島はとりあえず火起こしの準備に取り掛かった。俺は何をすればいいのかと笹倉の顔を見る。


「えへへ、一緒にがんばろうね」


 笹倉はえらくご機嫌だったとさ。

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