第16話 人気者
「さて、では残りのメンバーを集めるとしましょうか」
元気ハツラツな様子で言う笹倉に、俺は低い声で言う。
「いや、まだ決定じゃないんだけど。なんで同じ班に?」
「わたしはちゃんと約束を守っていたのに、それでちょっと離れていたらカワイー女のコと仲良くなっちゃって。羽島さんとは話すのに、わたしとは話さないとはどういうことなのかな?」
ああ、そういうことか。
これはあれだ、やっぱり怒ってるんだ。笹倉と仲良くしてるのが周りに知られると怖いから校内では関わらないでと言いながら、他の女子と仲良くなったのが気に入らないんだ。
別に深い意味はないし、そもそも笹倉と羽島とでは男子人気が桁違いなので問題は問題として全然残ってるんだよ。でも羽島の前でそんなことは言えない。
かと言って、笹倉を説得できるようなそれっぽい言い訳も思いつかない。
詰みです。
「返事がないってことは、つまりオッケーってことだよね?」
「ああー、えっと」
「いいじゃないですか。私と筒井君、それに笹倉さんが加わればあと一人でグループ決定なんですよ。断る理由あります?」
「いや、ところがどっこいあるんだけど」
「ちょっと羽島さん、近いね? もうちょっと離れようか」
「へ?」
「そういう話じゃなくて今はグループに入るかどうかをだな」
「これくらいの距離、友達なら普通だと思うんですけどダメなんですか? 私、基本一人なんで距離感測るの苦手でして」
「へえ友達ってその距離許容されるんだ。それは朗報だよ朗報。良いこと教えてくれてありがとう羽島さん」
「い、いえ……」
あれ、俺しっかりスルーされた?
笹倉と羽島の間に微妙な空気が流れている。女同士特有のあの気まずさ溢れる怖い空気だ。
しかももうグループには入る感じなんだけど。
「あと一人、どうしましょうか?」
「誰でもいいよ……せめてうるさくない人がいい」
何度も何度も繰り返して言うが、笹倉木乃香は人気のある女子である。友達が多いので、こういった班決めの類は困ることなどないだろう。
それは普通に組む相手がいるという意味であるし、自分は何もせずとも相手からアプローチされるからという意味もある。
班決めが始まってから、男子はまるで獲物を狙うハイエナのような視線で笹倉を見ていた。いつ、どのタイミングで誘うのがベストなのかと、そんな思考さえも読み取れてしまうほどに前のめりだった。
そりゃイベントを一緒に過ごせば仲良くもなるだろうから、誰もが一緒の班になりたがるだろう。
しかし、問題が起きた。
そう、俺です。
男子はだいたい二人から三人、多ければ四人だが、少なくとも男子のグループは出来ている。あとはどこの女子グループと一緒になるかという問題だけだったが、笹倉が俺を誘ったことによって問題が増えたのだ。
喋ったこともない空気の俺なんて、ただ邪魔なだけだろうから、同じ班に入れたくはないのだ。だから声をかけるタイミングを失った。
しかし。
ここで。
動いた生徒が一人。
「そっちは今三人? じゃあ、俺を入れてくれないか? うちは男子が四人いてね、ちょっと多いと思ってたんだ」
俺はこいつを知っている。
髪を茶色に染め、ピアスを開け、爽やか笑顔で誰とでも気さくに接するクラスのムードメーカーであり人気者。
女子の不動の一位が笹倉木乃香であるとするならば、男子の不動の一位がこの男。
須藤瞬。
誰とも関わりを持たない俺でさえ、この男のことは知っているのだ。つまり相当有名ということになる。
女子からの人気は絶大で、一日三通は楽部レターないし告白イベントを起こすとされている(真実は定かではない)。
運動神経抜群のバスケ部次期エースと言われているらしく、体育の授業での活躍は噂通り素晴らしく、女子共と同じ場所だった暁には、もれなく授業そっちのけ女子からの黄色い声援が飛んでくる。
モテる奴は馬に蹴られて死ね、と思うのが普通のモテない男子の意見だろうが、須藤は何故か許される風潮にある。
実は俺も許してるクチだ。
何故かというと俺に直接的な害がないから。この男がどこでなにをしようと、どれだけモテていようと俺には関係のない話なのだ。
「須藤くん」
笹倉とはそこそこ仲がいい。
笹倉を狙う男子、須藤を狙う女子、双方共にこの二人がくっつくのであれば仕方ないと思っているようだ。これも噂だけど。
教室で話している二人を見ると、確かに絵になっている、気がする。
「どうかな、笹倉」
「んんー、わたしはいいけど他の人は」
「わ、私は問題ないです!」
羽島は苦難の班決めが終わることにウキウキしているのか、それともイケメン男子と同じ班になれるからテンション上がっているのか分からんけど乗り気だった。
「筒井くん、どう?」
「……いいんじゃないの」
断る理由はない。
笹倉同様に、良い人間は基本的に信用できない捻くれクソ野郎な俺だけど、同性となればそこまで警戒心はない。
なぜか。
それはやはり、害がないからだ。
良い奴振っている人は基本的に自分のためにそうしている。
好きな子に好かれたいからいい格好をする、だとか。直接的でなくとも、回り回って評価が上がるから良い奴を演じていることもある。
いずれにしても、俺の前で化けの皮を剥ぐ理由が見当たらない。
今のこの須藤瞬が、嘘と幻想で出来た仮面を被っていたとしても、俺の前でその仮面を外すことはないだろう。だって、外す理由がないから。
だから、問題ない。
「じゃあ、決定だね。わたし達のグループはこの四人ということで」
パンと手を叩いて、笹倉がまとめる。何にせよ、決まってよかった。
須藤がきたおかげで俺へのヘイトもほんの僅かにだけどう擦れた気がする。それでもまだ全然怖いから、明日からはイジメに気をつけよう。
イジメ、ダメ、ゼッタイ。
「無事、班決めクエスト終了しましたー」
依然として笹倉と微妙な空気の羽島は、班決めが終わったことに感動していた。いやこれクエストちゃうで。
「よろしくな、筒井」
そして、須藤瞬は俺に笑顔を向けるのだった。
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