第12話 オフ会
日曜日。
午後一時を少し回った今現在、俺はそわそわしていた。
集合時間は一時半。遅刻するのはよくないと思い、少し早めに到着した。
集合場所は秋葉原駅を出たところにある広場、とだけ聞いていたけど広場というだけあって広い。見つけられるだろうか。
緊張で唇が乾く。自販機で買った缶ジュースで喉を潤わせながら、俺はただその時を待つ。
オフ会をすることになったことも含めて、トントン拍子で物事が進んだこともあって、心の準備ができていない。確かに数日の有余はあったけど、それくらいで気持ち作れるなら友達作るのに苦労しねえよ。
ああー、緊張するなあ。不安だなあ、帰りたいなあ……。
そんなとき、ブブブとスマホがポケットの中で震える。メンバーの誰かからかもしれないと思い、開く。
『おはよ! 筒井くん、今日は何してるの?』
笹倉だった。
紛らわしいタイミングでメッセージ送ってくんじゃねえよ心臓に悪いじゃないか。
『この前話してたゲーム仲間と飯会だ』
返信すると、例によってすぐに返事がくる。
『オフ会ってやつだっけ? そしたらこれからお楽しみなんだよね。また夜にでもお話聞かせてね』
さすが空気読めるヒロインだ。
こちらの都合を受け入れつつ、夜にはメッセージ寄越せよという催促まで組み込まれた完璧なメッセージだった。
笹倉とのメッセージに少し和んでいると、スマホが再び震える。さすがにさっきの後で笹倉からのメッセージということはないだろう。
と、いうことは?
『やっほー!待ち合わせについたんにゃけど、誰かいるかにゃ?』
『我も今しがた到着致した』
『俺ももう着いてるぞ』
遅れて俺も返事をする。
二人とも広場に到着しているのか。そう思いながら俺は広場を見渡すが、人が多くてさすがに見つけられない。
『人が多くて合流できそうにないんだけど』
『確かに。だったら今からゲームセンターの前まで同時に移動するにゃ。そうすれば同じくらいのタイミングで到着した三人が、メンバーってことになるにゃ』
『承知』
『オッケー』
言われて、俺は目的地であるゲームセンターに向かって歩き始める。あえて周りは見ずに、視線はまっすぐゲームセンターだけに留める。
そして。
ほぼ同じタイミングでゲームセンターの前に到着した俺を含めた三人。十中八九、これがパーティメンバーだろう。
一人は丸みのあるメガネをかけた、オタクという存在を思い浮かべたときにとりあえず出てきそうな典型的なオタク容姿の男。チェックシャツにジーンズなところもポイント高い。
もう一人は黒髪のローツインテ。漫画とかでよく見るツインテールに比べて括る部分が下がっているだけで、なぜか大人びた印象になるのが不思議だ。こちらは白のワンピースの上にジャケットを羽織る女性。
ていうか、この女性どこかで見たことあるような……。
「あ……」
まじまじと見ていると、あちらが先に声を上げた。顔を見る限りどうやらあちらも俺のことを知っているっぽい。
「うそ」
そんなに信じられない出来事起きてる?
生き別れた兄貴とかと再会したときみたいなリアクションなんだけど。え、俺って唯以外に姉弟いたっけ?
なんて、冗談だけど。
「お前、まさか羽島か?」
羽島愛奈。
俺と同じ大幕高校二年三組図書委員の、あの羽島愛奈である。学校ではおさげにメガネだから、雰囲気が違っていて一瞬分からなかったけど、面影もあるし間違いないだろう。
「やっぱり筒井君、なんだね」
「まさか、こんなところでクラスメイトの顔を見ることになるとはな」
そりゃあれだけ驚くわけだ。
別に都内限定でパーティを募ったわけでもないのに、集まったメンバーが全員都内というだけでも驚きなのに、まさかその中に同じ学校の同じクラスの人間がいるとは思わない。
「ケフンケフン」
俺と羽島が驚きを共有していると、もう一人のオタク野郎がわざとらしく咳き込んだ。
「あ、悪い」
「二人が知り合いなのは何となく察したけれども、それで僕を置いてきぼりにするのは悲しいじゃあないか」
もう一度コホンと咳払いをして、俺と羽島二人の顔を見比べる。
「えーと、それで、どっちがシリンダーでどっちがウインガウルなのかね?」
「は?」
無礼にも俺は思わず声を漏らしてしまう。
「いやいやいやいや、え、今なんて?」
「だから、どっちがシリンダーでどっちがウインガウルなのかなと聞いたんだが?」
「一応、もうそれしか選択肢はないですけど念の為に確認すると、あなたが青姫?」
羽島が恐る恐る尋ねると、オタク野郎はフフンと鼻を鳴らしてなぜか誇らしげな顔をした。
「いかにも! 僕こそが青姫そのもの。改めて、よろしくにゃ!」
「……」
「……」
「……さすがに冗談だよ」
冗談になってねえんだよ。
鳥肌立ったじゃねえか。
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