第三話 郷愁の星空(03)

 睦月はドローンの動きを監視しつつ、扉の外に向かって返事を返す。使用人はいないので、ノックをしたのはこの屋敷の主に違いない。


「いいかしら。それとも、仕事中?」

「えっと、二分ほど待ってもらっていいですか」


 睦月はドローンを回収してから、扉を開ける。


「ごめんなさいね。お邪魔だったかしら?」

「いえ、これから休憩しようとしていたところです」

「あらあら、ちょうど良かったわ。それならお昼をご一緒しないかしら?」

「お昼ですか?」

「お昼は何を?」

「えっと、これですが」


 ここへ向かう途中で買ってきたコンビニの袋を抱えてみせる。お気に入りのチキン南蛮弁当とペットボトルのウーロン茶が入っている。


「それだけだと栄養が足りないでしょ。おばあちゃんの作るご飯だから、若い人のお口に合わないかもしれないけど、よかったら食べてって」

「いいんですか?」

「もちろんよ」


 そういって柔和な笑みを見せる華に睦月は、もうしわけないですと、頭をポリポリとかいた。睦月も自炊しないわけではない。RDIにいた頃は特に、日本食が恋しくて自炊をすることの方が多かった。しかし、日本に戻ってからは、スーパーやコンビニとすぐに日本食が手に入る環境では手を抜くと言うもの。

 それでも、メイを引き取ってからは夕食だけはしっかり手作りしていた。だからと言って、弁当を手作りするほどではないのだ。

 

 華に案内されてダイニングに通されると、しょうゆや味噌のいい香りが漂っていた。彼女が言ったように、そこに並んでいたのは、純和風の食卓が出来ていた。レンコンと蕗の煮物に、鮭の切り身、お味噌汁に、酢の物、香の物が二種類。お金持ち感の全くな質素な食卓であるが、睦月はそれらが懐かしく思った。

 最近のコンビニや、スーパーの惣菜コーナーで見かけることもあるが、どうしてかその手の料理には食指が動かなかったからだ。


「そちらのお弁当も、温めましょうかね?」

「いえ、でも、これだけご用意いただけてますから」

「あら、そう言っていただけるのはうれしいけど、捨ててしまうのは勿体無いでしょう?」

「夜にでも食べますよ」

「そう?悪くならないかしら?」

「じゃあ、失礼かもしれませんが、冷蔵庫をお借りしても構いませんか?」

「もちろん構わないわ。貸して頂戴」


 コンビニ弁当を受け取ると、華はご飯と味噌汁をよそおって戻ってきた。


「さあ、頂きましょう」


 彼女は当たり前のように睦月の隣に座ると、睦月が食べ始めるのを待った。

 見られていては緊張するなと思いながらも、勧められた味噌汁に手を伸ばす。鼻に抜ける香りに、心を落ち着かせる味わいにホッと一息ついた。睦月の母の味とはちょっと違うけども、和食というものが彼に懐古させる。


「美味しいです」

「そう。そういってもらえると、お世辞でもうれしいわね」

「お世辞なんかじゃないです。うちは少し前に母も亡くなって、こういう料理って食べる機会がなくて」

「そうなの。如月さんのお母様なら、まだお若いでしょうに。ごめんなさいね」

「ああ、いえ、気にしないでください。自分でも簡単な料理くらいはするんですけど、煮物とか手の込んだものはさっぱりなんで、本当にうれしんです。この酢の物もすごく美味しいです。酸味と甘さが完全に僕の好みですよ」

「あら、うれしいわね。じゃあ、こちらもどうぞ」


 はい、あーん。とばかりレンコンの煮物をつまむと睦月の前に差し出した。


「あ、あの。一人で食べれますよ」

「まあ、まあ、いいから、いいから」


 口を開けるまでやめる気はなさそうで、仕方なしに睦月はそれを口にした。醤油の甘じょっぱい味わいが広がった。


「お口に合ったみたいでよかったわ。でもね、煮物も酢の物も、そんなに手の込んだ料理と言うわけではないのよ」

「そうなんですか」

「ええ、だって酢の物って切って混ぜるだけなんですもの。煮物だってそうよ。材料を切って火にかけていれば勝手に出来てしまうわ」

「はは、そんな風に言われると本当に簡単そうですね」

「ええ。そうなのよ。料理はそんなに手間でもないから、よかったらまたお食事を一緒にしていただけませんか。私も一人で食べるよりこうして誰かとお食事できるのがすごく楽しいのよ」


 一人で食べるのがさみしいというのは本当だろうが、睦月としては時々伸びてくる華の手癖の悪さが気になるところである。それでも、”依頼人”ということもあって、笑顔で答える。


「断る理由がありませんね。あとでご相談しようと思ったのですが、自然型のDOORでしたので、調査に時間がかかるかもしれません」

「あら、それはうれしいわ。だって、如月さんがしばらく通ってくださると言うことなのでしょう」


 まるで女学生が憧れの男性に会う日を楽しみにするように心を躍らせる。睦月はそんな華を可愛いなと苦笑しつつ、「僕もここに通う楽しみが増えました」と答える。

 もちろん、世辞ではあるが。


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あとがき


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