幕間2
病院での検査に異常はなく、睦月は夕方過ぎにホテルにチェックインした。軽くシャワーを浴びると、すぐに外に出て浅葱おすすめの黒豚とんかつを出すレストランで食事を済ませた。RDIに連絡を入れて強化潜水服のレンタルを頼んではいるが、すぐにどうにかなるものでもないだろうと、明日の調査に向けて道具を幾つか仕入れた。ホテルに戻って一息つくとノートパソコンを開いてテレビ電話アプリを立ち上げる。
『メイ。聞こえる?』
『きこえるー。むつきくんがテレビにうつってるー』
緑の瞳の少女がモニターを通してしゃべる睦月に両手を振って答える。浅葱がモニターを通して睦月と会話しているのを見ているはずだが、基本的にカメラは目線に同期しているので、睦月の顔が映ることはない。
「はっはっは、すごいでしょ。ご飯は食べた?」
『うん。せんぱいとにくじゃがたべました』
「そっか、おいしかった?」
『すごくおいしかったです』
「今日は何してたの?」
『おえかきして、ポプロンみて、それから、せんぱいとトランプしたー』
「楽しかった?」
『うん。すごくたのしかった』
「よかった。今日は僕は帰って来れないけど、大丈夫?」
『むつきくん。かえってこないの?』
説明はしていたはずだけど、メイが不安そうな顔をする。それを見ていると父性が刺激され愛おしくてたまらない。本当に自分は親バカだなと苦笑する。
「ごめんね。でも、代わりに先輩が一緒に過ごしてくれるから」
『ほんとぉ?』
「そうだよ。僕もなるべく早く帰ってくるようにするから」
『うん。はやくかえってきてねー』
「がんばる!」
『がんばってね。あのねー、むつきくん、おねがいがあるの』
「どうした?」
『”まおう”かってきてほしいの』
「うん。うん。うーん。どういうことなかな?ちょーと、先輩呼んで貰って良いかな?」
『ちょっとまっててー、――――ん、どうしたの睦月君?』
「”どうしたの睦月君”じゃないですよ!メイに何を言わせてるんですか!」
『なんのこと?私は何も言ってないわよ』
「先輩。さすがにそのお惚けが通じるわけ無いでしょ。6歳くらいの子供が芋焼酎を欲しがりますか!」
『ちょっと!睦月君。メイちゃんにどういう教育しているの?まさか、お酒飲ませたりしてないでしょうね!』
「いやいやいや、開き直るのもいい加減に…、はぁ、もういいです。もう一度メイに代わって下さい」
『わかったわよ。メイちゃーん。睦月君呼んでるよ。えっ?なになに?魔王買ってくれないと嫌だ?ごめん。睦月君。もう眠たいって』
「先輩。丸聞こえなんですが?いいからさっさと代われ!」
『へいへい』
『むつきくん、もどったよ』
「はあ。メイはそのままでいてくれな」
『どうしたのー』
「なんでもない。あんまり先輩の言葉を聞いちゃ駄目だからね」
『へへ。せんぱいもおなじこといってたー』
「くっ、先を越されたか!僕は明日もお仕事だから、また夜に話しようね」
『うん。まってる』
「じゃあ、遅くならないように眠るんだよ」
『はーい』
「メイ、お休み」
『むつきくん、おやすみー』
ビデオ電話を切ると、大きく息を吐いた。
メイとの会話は数少ない癒しだ。出張でさえなければ、寝る前に絵本を読んであげたりする時間が何よりも楽しみだったりする。メイを事務所に匿って数日は、彼女の扱いに困っていたものだが、すぐにメイの可愛さの虜になっていた。それが初の出張となり、離れ離れになって寂しさを感じているのはメイよりも睦月のほうだったりする。
少しだけでも話が出来たのは幸いだった。
浅葱トラップが仕掛けられてはいたけども、今日の調査で受けた精神的ストレスの大半はリセットすることが出来たと思う。ベッドに大の字に倒れこんで、天井を眺める。
メイのためにもなるべくはやく仕事を終えようと決意を新たにする睦月だった。
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あとがき
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