第33話 変化

 ちょうど学年末テストも終わって、学校ではみんなホッとした表情が増えてきた。

 学校行事は三月にある修学旅行のみで、めちゃくちゃ楽しみなんだ。

 クラスでは佑李ゆうりくんが試合に出たことを、ニュースで見た子がびっくりしている。

 ニュースといってもネットニュースで佑李くんが四回転ルッツを跳んでいたことと、ショートプログラム二位で優勝の可能性があることも載っていた。

「ミッチー、上遠野かとおのがめちゃくちゃすごいことになってるよね?」

 下校するときに英梨えりちゃんと二人で話を始めた。

 誰も邪魔されたくないのか、彼女は屋上に続く階段に向かう。

 ざわつく廊下はとても賑やかな声が響く。

 そこから少し離れた場所のここは、その賑やかさが少し薄く聞こえてくる。

「うん。四回転ルッツとか? あれはすごかったよ」

 英梨ちゃんも動画配信を見ていたみたいで、そのときにトリプルアクセルを跳ぶ佑李くんの映像が見えた。

「英梨ちゃんも見てたの? あの試合の動画」

 そのときに笑顔でスマホでその動画を見せてくれた。

「あとからね、上遠野が滑ってるところだけ」

 滑っている佑李くんの表情は明るくて、とても楽しそうだったんだ。



 家に帰ると、先にテストの答えを書き直していく。

 数学のテスト直しをして提出するのが恒例なの。

 しばらくして時計を見つめる。

 時刻は十時になろうとしていた。

 でも、そのときに佑李くんのグループが始まる時間で、急いでスマホで動画を見始めた。

 その小さな画面には滑っていく六人のスケーターがいた。

 色とりどりの衣装を着たなかに濃紺のシャツに黒のズボン姿の佑李くんが、ジャンプの練習をしていたんだ。

「ショートは二位だしな、まだ逆転優勝することもできる順位にいるけど。どうだろう」

 まだ練習も追い込みの状態なのか、四回転ルッツをしきりに練習している。

 四回転ルッツはショートプログラムで初めて成功させた。

「え!? うそ、四回転ルッツ、もう一人いた」

 その直後にショートトップに立ってるロシアのアレクサンドル・ペトロフ選手が四回転ルッツを跳んだ。

 この選手はジュニアのスケーターなんだけど、四回転ルッツを武器にしているのでかなりすごい選手なんだ。

 佑李くんの髪型も前髪を横に流しているので、いつもより少しだけ大人に見えるようだった。

 彼の滑走順はグループの最初で、残り一分はリンクで滑っていた。

 そこからトリプルアクセルを決めて、六分間練習を終了する合図のアナウンスが聞こえてきた。

「あ、次じゃん! 佑李くん」

 佑李くんの出番が来て、めちゃくちゃ緊張してしまった。

 わたしは祈るような感じで、画面を見つめていた。

 国名と名前がコールされてから、リンクの中央でうつむいた。

 ドビュッシーの『月の光』に乗って、佑李くんは笑顔で滑っていく。

 でも、全日本選手権と違ったのは笑顔が寂しげではなくて、本当に幸せそうな笑顔に変わっていたことだった。

「あ、次のジャンプ……四回転ルッツ!?」

 予定では四回転ルッツを跳ぼうとしているし、ショートプログラムで跳べてから楽に跳んでいてびっくりした。

 相当な衝撃があるのに、それを耐えるのもすごいと思った。

「すごい……」

 着氷の勢いで滑っていく佑李くんはまるで別人のような雰囲気で、何かに吹っ切れたような感じがしているんだ。

「すごい……」

 佑李くんに心境の変化があったのかもしれなかった。

 まるで何かを得て幸せが訪れたような気持ちで、ずっと滑っているように見える。

「あ……」

 一生懸命に滑っている姿が昔の佑李くんに重なる。

 それはずっと見ていたものなのに、なぜか遠い昔のことだと思っていた。

 すると最後のジャンプをおりて、最後のステップはずっと軽やかに滑っていく。

「佑李くん……すごいな。四回転も他のジャンプも跳べるんだ」

 ラストのスピンはものすごく速い速度でスピードで回り始め、プログラムを締め括るようにポーズをしたんだ。

「やったぁぁぁ!」

 その得点は全日本よりも高い自己ベストで、ソファで座ってる佑李くんはびっくりして立ち上がっている。

 しかも信じられないって表情で呆然と立ち尽くしていた。

 本人は申し訳ないけど、その表情に思わず笑ってしまった。

「フフ、佑李くん……びっくりしている」

 その得点はダントツの一位だった。

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