第3章 冬(12月)

第13話 疑問と予感

 十二月になって、世間はクリスマスについての話題で持ちきりだ。

英梨えりちゃんはクリスマスになにやるの?」

「ダンス部のみんなでクリパ」

 英梨ちゃんはスマホを見せてくれた。

のね。彼氏持ちは追放した」

「なるほど……」

 どうやら、そういうことらしい。詳しく聞くのは怖かったので、諦めることにした。

「でも、クリスマスって、だいたい三週間後だね」

 学校帰りにわたしは一人で家に帰ることにした。

 もう十二月だ。

 クリスマスのイルミネーションや、ケーキの予約販売の広告をよく見るようになった。

 わたしは寒がりなので、すでに学校指定のコートにマフラーと手袋をする防寒のフル装備で学校に来ている。

 クリスマスの予定なんか、家族とお兄ちゃんの彼女さんとクリスマスパーティーするくらいだ。

 わたしは何にも予定とかはそれ以外には入っていなかった。

「――碧峰あおみね

 少しだけ気だるげな低い声が聞こえてきた。

 後ろを振り向くと、上遠野かとおのが缶を二つ持っていた。コーンポタージュとココアのパッケージだった。

「どうしたの? 上遠野」

「コンポタ、飲む?」

 そう言って上遠野はコーンポタージュの缶を手渡した。

「いいの? 何だか申し訳ない……」

「自動販売機で数字が出るところあるだろ」

「うん」

「あれがゾロ目が出て、もう一本もらったんだ。ココアを買ったから、コーンポタージュはさすがに味が混ざって飲めない気がするから」

 そのときに上遠野は頬を赤くして、恥ずかしそうだった。

「うん。ありがとうね! 上遠野、これ好きなんだ~」

 手のなかでジーン……と温かくなる感覚が伝わってきた。

「上遠野、これから帰るの?」

「うん。あ、そうだ……予定入ってる? クリスマスの翌日」

 クリスマスの翌日は何にも予定は入っていない。

 でも、なんでそんなことを聞くのか、少しだけ不思議に思った。

「空いてるけど……どうして?」

「いや……また連絡するから、そこ空けてくれる?」

「うん……わかった」

 それから、上遠野と駅まで並んで帰った。

 何にも話さなかったのに、とてもドキドキしていた。

 コーンポタージュを飲んで、ゴミ箱に捨ててから電車に乗った。

「またね! 上遠野」

「うん、またな」

 わたしが先に電車を降りて、そのときにLINEにメッセージが来た。

 そのメッセージ内容を見てびっくりしてしまった。

『再来週から休むから、冬休みに勉強を教えてくれる?』とのメッセージだった。

 再来週は十三日からでどうやら、その週は休むみたいだった。

 すぐにOKのスタンプを送ってから、疑問がわいた。

「でも……どうしてだろ? 再来週、休むって」

 文化祭の前後に上遠野は一週間単位で休むときがあった。

 そのことに関係しているようで、先生もそれは知っているようだった。

 そう言えば……上遠野が休んでいる期間に仲の良かった友だちが、フィギュアスケートの地方大会に出ていたのを思い出した。

 いまでもLINEでやり取りをしているので、自然と練習をしてるとか国内外の試合に出たとかのメッセージが来る。

 友だちは二人とも全日本選手権に出場することになっている。

 全日本選手権はオリンピック選手や世界で活躍している選手が出場するから、国内で最もトップレベルの大会なんだ。

 そのときに休んだときの期間が東日本選手権と被るのに気がついた。

 学校で暴力を振るわれる直前で、そのあとに心を閉ざしてしまっていたの。

「上遠野……もしかして」

 わたしは思わず頭を横に振って、その可能性を強引に消した。

「そんなこと。ない……」

 いままで口のなかでしていたコーンポタージュの味が薄くなっていく。

 それが現実になるのがとても怖かった。

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