第5話 文化祭1日目

 私立東海林しょうじ学館高校の文化祭は午前十時からスタートして二時間が経過している。

 教室には三年生の模擬店として中庭に出している食べ物のチケットが完売した放送がひっきりなしに流れてくる。

「十二時半だ。そろそろシフト交代だね」

 ちょうどよく、次のシフト交代のグループがやって来ていた。

 英梨えりちゃんと同じシフトグループの真野さんが伸びをしながら話した。

 クラスの脱出ゲームは人気のアトラクションになり、あっという間に行列ができていたんだ。

 あと人気のアトラクションは一年生の三クラスがやっているお化け屋敷。

「一年生、七クラス中三クラスだっけ? お化け屋敷」

「そうだよ。ファッションショーが終わったら、行こうかなって考えてるよ」

「うん。ミッチーと英梨ちゃん、ファッションショーは見に行くからね!」

 真野さんたちはこれからお化け屋敷に向かっていった。

 わたしと英梨ちゃんの二人で上遠野がいる被服室に向かうことにした。




 被服室にはドレスとスーツの最後の手直しをしている上遠野かとおのがいた。

「文化祭を楽しまないの? 上遠野は」

「え? 稲木いなきたちも、屋台の食べ物、食べに行ってくればいいのに。あと、調理部のクッキーとか売ってるぞ。隣で」

「売り切れた」

「マジか……速いな」

 上遠野はここ最近ピアスをしてこなくなっている。

 どうしてかはわからないけど、少しだけ優しい雰囲気に変わりつつある。

 その瞳は真剣で、わたしのドレスにのスカートのウエストの辺りからキラキラとした布を縫い付けているように見えた。

「何をしてるの?」

「ドレスのスカートに縫い付け忘れてた布を縫ってるんだよ……。もうすぐで終わる」

 わたしはその光景を見ていたときだった。

 スマホの着信音が鳴り、わたしは急いで電話に出る。

「もしもし!? お兄ちゃん!」

美智みち。とりあえず、迎えに来てくれ……職員玄関にいる』

「わかったよ!? そこで動かないでよ!」

 わたしは通話を止めると、被服室を飛び出した。

 お兄ちゃんがいるのは職員室に近くの玄関で待っていた。

 人混みが多かったけどなんとか見つけて、そこからすぐにお兄ちゃんと一緒に被服室へと戻ることにした。

 お兄ちゃんは被服手芸部の元部長で、数年前のファッションショーでデザイナー兼モデルをしていた。

上遠野かとおの~!! 卒業生の先輩を連れてきたよ~」

 わたしは被服室のドアのところで叫ぶ。

「え? うそ……碧峰あおみね先輩!?」

 上遠野とお兄ちゃんは知り合いみたいで、去年の文化祭にも遊びに来てたみたい。

佑李ゆうり~。妹が世話になってる」

「え! 碧峰が妹……マジか」

 そろそろファッションショーの時間みたいで、被服手芸部の集合がかかった。

「それじゃあ、お兄ちゃん。先に体育館に行ってて!」

「うん」

 そう言って、わたしはお兄ちゃんとは別の入り口から体育館に向かう。

 女子更衣室にはダンス部と吹奏楽部が着替えを始めていて、わたしは急いでドレスに着替えてからすぐにヘアセットをして更衣室の外に出る。

「碧峰。とりあえずメイクを稲木にやってもらってから、ベールをつけてくれ。俺は着替えてくるから」

 上遠野はすぐ更衣室が空いて、すぐに衣装を入れたバックと一緒に向かっていった。

 ちょうど英梨ちゃんが着替えを終えて、更衣室から出てきて被服手芸部が使っているスペースでメイクをしてもらうことにした。

「メイクをお願いします!」

「任せなさい、すぐにやってあげるよ」

 わたしはすぐにメイクをしてから、すぐに体育館の舞台裏から入った。

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