第15話 ドン・キホーテ

 今日は家のなかがとても静かになっている。

 家に両親とお兄ちゃんが泊まりがけの用事が重なったため、わたしが一人で留守番をしている。

「あ~あ、暇すぎる……どうしよう」

 テレビではフィギュアスケートの全日本選手権の中継を見ていた。

 今日は男子ショートプログラムが始まった。

『男子ショートプログラムの六分間練習がスタートしました。このグループは実力者揃いですね』

 テレビの向こう側には色とりどりの衣装を着た選手が滑っていく。

 選手紹介がされているなかで、アナウンスが流れ始めた。

『――上遠野かとおの佑李ゆうりさん。東海林しょうじ学館高校』

 上遠野のフルネームが呼ばれて、四方にお辞儀をしてリンクで足を前後にしている。

 着ているのは赤と金色で刺繍とかラインストーンがつけられた黒の闘牛士の服を着ている。

 だいたいの演技をするときの曲は予想できた。

 髪の毛もオールバックにして、まるで別人のように見える。

「上遠野だ……別人だぁぁ」

 上遠野はすぐにジャンプを確認している。

 軽々と三回転半……トリプルアクセルを成功させている。

「わぁ……軽く跳んでるな~、羽根がついてるみたい」

 そのときに英梨えりちゃんからLINEの通話がかかってきた。

「英梨ちゃん? あ、上遠野がテレビに出てるの見た!?」

『マジで? 見てるよ。スケート選手なの、全然、気づかなかったよ!?』

「うちも、気づかなかったよ……去年も出てたみたい」

 去年はジュニアからの推薦出場、でもフリーでかなりの順位を落としたらしい。

『ミッチー、フィギュアスケート経験者だよね? 少しだけ解説してくれる?』

「いいよ~。スピーカーにしておくよ」

 そのまま英梨ちゃんが質問してくることを答えていく形式で、フィギュアスケートのルールとかを話して通話を終わりにした。

 そのときに上遠野が四回転ジャンプを決めた。ハの字に踏み切ったから、四回転サルコウだ。

 四回転サルコウを着氷したあとに再びジャンプを踏み切って、連続ジャンプの予定にしているみたい。

 でも、次に跳んだのはトウ(つま先)をつくように踏み切るのはトウループだけど、二回転でよろけながら着氷している。

 そして、最後に四回転トウループを着氷して、六分間の直前練習が終わったの。

 残り五人の選手はリンクの外に出て、控えのスペースに向かうのが見える。

 すぐに上遠野がフェンスのところでコーチと話している。

 東原スケートクラブの先生で、昔はわたしも教わっていたことがある人だった。

『佑李』

『はい』

 二人は無言で握手をした。

 そのときにアナウンスか遠くから聞こえてきた。それと同時に歓声と拍手が観客席から聞こえてくる。

 テレビの向こう側にいる上遠野は集中した表情でリンクの真ん中で、プログラムの始まりを合図するようにポーズをした。

 かかってきたのはクラシックでバレエ音楽の『ドン・キホーテ』、スペインか舞台のバレエの演目だった。

 バレエの振付を交えつつ、滑っていく姿がとてもかっこいい。

『最初のジャンプはコンビネーションです』

 スピードに乗って、バックスケーティングをしていく。

 四回転サルコウを踏み切って、コマのように回転してリンクに着氷してその直後にトリプルトウループを跳んだ。

「やったぁ! コンビネーションジャンプ、成功したぁ」

 上遠野がすぐに四回転トウループを予定している。

『続いて四回転トウループ、成功しました! 去年とは全くの別人です』

 歓声が止まないなかで、二本目の四回転トウループを跳んでいた。

 そこからスピンを始めると曲調が変わって、ステップシークエンスを始める。

 そのときのステップはまるでバレエダンサーのようで、見えないヒロインをエスコートしたりしてるように見えた。

 わたしは目が離せなくなっていた。

 最後のトリプルアクセルは着氷が両足になっちゃった。

「あっ、惜しいな~!」

 それ以外はノーミスで滑っていて、得点は結構高そう。

 上遠野はかなりホッとした表情だけど、悔しそうな表情をしている。

 得点は現時点でのトップではあったけど、ショートプログラムが終わると七位になっていた。

 フリーは明後日にやるみたいで、また見ることにした。

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