第4話 文化祭前日

「そっちの段ボール、補強してくれる? 落ちてきそう」

「ガムテ、ちょーだい!」

「ちょっと、男子。差し入れのお菓子、食べないで」

「クイズ係は印刷室に問題用紙、コピーしに行った?」

 クラスの出し物の準備も今日で最後だった。

 うちのクラスは脱出ゲームをやることになっている。

 今日は段ボールを組み立てて、一回順当に行けるかを確かめてから終わったのは午前中で、午後からは部活優先でクラスとは同時進行でやっていた。

「ミッチー、明日から文化祭だね~!」

「うん。クラストレーナー、めちゃくちゃかっこいいよね」

 英梨えりちゃんはクラストレーナーを着て、わたしの前でくるりと一周して見せる。

 黒のトレーナーの両袖には白のオールドイングリッシュというアルファベットの字体で、フルネームがローマ字でプリントされている。

 後ろには紫色のバラがプリントされていて、たぶん店でもこんなの売ってそうな気がする。

 わたしはそのトレーナーをリュックにしまって、英梨ちゃんと一緒に体育館へと向かうことにした。

 上遠野かとおのは一足先に体育館の更衣室で着替えをしているらしく、わたしたちも自分たちの衣装を着ることにした。

 制服を脱いでからそのドレスを着る。

 毎回、英梨ちゃんには背中にあるファスナーを閉じてもらうことになった。

「ミッチー、毎回思うけど……めちゃくちゃかわいいよね~」

「そうかな? ファスナーを引っ張ってくれる?」

 わたしはドレスのファスナーを英梨ちゃんに引っ張る。

「うん。ウェディングドレスみたい。きれいだよ~」

 そのまま緩く編み込んだハーフアップをして、ベールはコームがついていて髪の毛につけても落ちないようになっているんだ。

 ベールは顔を覆わないものでマリアベールとも言われるタイプだと上遠野に言われた。

「うん、バッチリだよ。本番はメイクも軽くしよう!」

 そして、女子更衣室は多くの被服手芸部の部員が準備をしていた。

 わたしはそのときに先に更衣室を出るとスカートの裾を持ち上げて、恐る恐る白いヒールを履いた。

碧峰あおみね稲木いなきは?」

 上遠野は髪の毛のセットは間に合わなかったのか、かなり中途半端なオールバックになっている。

 稲木っていうのは英梨ちゃんの名字で、どうやら探しているようだった。

 英梨ちゃんはチャイナドレスで、スタイルがいいからよく似合っている。

「どうした? 上遠野」

「うん、先生が出る順番の変更だって聞いてる?」

「あ、聞いてるよ! 中国が最初になったってやつでしょ?」

 上遠野が進行表をスマホを見せていく。

 体育館の外は薄暗くなっていて、最後の最後の体育館リハーサルは午後五時半から始まった。

 最初は英梨ちゃん。

 着ているチャイナドレスは、長袖でスリットは少しだけ控えめに入っている。家庭科で使っている教科書に載ってるもので、ちょっとだけアレンジをしているみたいだった。

 次々にモデルの生徒たちが作られたランウェイを歩いていく。

「碧峰」

 上遠野がわたしの肩を叩いて、左腕を差し出した。

 それを見てうなずくと、上遠野の左腕に手を置いた。

 少しだけ緊張していたけど、いつも通りに歩いてポーズをすることができた。


「それじゃあ、明日は楽しくやろう」

「そうだね、ミッチーも」

「よろしくね」

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