第3話 純白と黒
ドアを開けたときに、部員のみんながこっちを見ていた。
真っ白なドレスを着るのは初めてで、そのときに部員のみんなに囲まれてしまったんだ。
「かわいい!
「ミッチー、メイクしたら結構いけるよ。上遠野くんの見る目あるよね」
ファッションショーのモデルとして参加する予定でいる
メイクを終えてから鏡を見て思わず、顔が赤くなるのを造花の花束とベールで隠していた。
「碧峰……?」
「
その声は上遠野のものだった。
被服室の入口の方に目を向けたときだ。
「うそ……」
そこにいたのは丈の長めの黒いジャケットにズボンにグレーのベストを身に包んで、白いシャツにはベストと同じ色のネクタイをしている。
その服装はまるで結婚式に参加する新郎みたいで、こっちに恐る恐るやって来た。
明るい茶髪は軽く前髪を横に流していたので、普段前髪で隠れて見えなかった顔がはっきり見えるようになった。
「あれ?
わたしは別人がそこにいるようで、思わずびっくりしてしまっていた。
上遠野の茶色と緑色が混ざっている瞳が、揺れ動いている。
「うん。まさか……碧峰が」
「ちょっと~、せっかく似合う人が着てくれたのに」
他の部員たちに言われているからか、とても照れたような表情でこっちを見ていた。
「碧峰……ほんとにファッションショーに出てくれるの?」
「うん。よろしくね、上遠野」
「よろしく。もう着替えてくる」
上遠野はすぐに被服室を出て行ってしまった。
「あらぁ……照れちゃった。彼はちょっとだけ、感情を出すのが下手だから」
「でも、自分のドレスを着てもらえて嬉しいと思うんだ」
わたしはすぐに衣装から制服着替えてから、そのまま家に帰ることにしたんだ。
「また、集まりとかがあるかもしれないから、LINEを教えてくれる?」
「ああ、わかりました」
ファッションショー用のグループLINEに入れてもらい、わたしはそのまま急いで帰ることにしたんだ。
「碧峰!」
上遠野が教室まで来たの。
「上遠野。また明日」
わたしは勇気を出して、上遠野に言った。
「うん」
そう言って昇降口を出た。
その日はクラスの準備じゃなかったので、早めに家に帰ることができた。
心が軽くなって、ワクワクしているような気分になる。
ファッションショーはずっと出ないような気がしていたのに、その衣装に身を包んだだけなのに……別人になれるような気持ちだった。
そのときに上遠野が着ていた衣装も、とてもかっこよかったんだ。
変に意識しているわけではないけど純粋にかっこよく見えた。
「ただいま~、母さん」
「おかえりなさい。
リビングで母さんとお兄ちゃんがテレビを見てた。
「うん。文化祭でファッションショーのモデルをやることにしたの」
「すごいよな。被服手芸部のファッションショー、美智もやるんだ?」
わたしはリビングのソファに座ると、お兄ちゃんがスマホで学校のサイトを見ていた。
「うん。そうだよ、ファッションショーのモデルさんが不足してて」
お兄ちゃんも同じ高校に通っていた卒業生で、いまは大学三年生で高校の隣の敷地にある系列大学のキャンパスに通学している。
お兄ちゃんはとても楽しみにしているみたいだ。
文化祭の準備もあとちょっとで終わりそうになっていた。
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