第2章 秋
第7話 ヘーゼルの瞳と心の傷
わたしは文化祭のときから、
文化祭前は話しかけていたこともあったけど、警戒心はなくなっていた。
「上遠野……またピアス、つけてきたのか」
「すみません、あとで取ります!」
先生に対する態度は相変わらずで、ちょっとビクッと体がこわばってしまう。
上遠野は先生に注意されて、その背を見ながら舌打ちしていた。
それを見て、クラスメイトもそっとしているみたいだった。
でも、上遠野は落ち着いた表情でこちらを向いている。
「か、上遠野」
「ちょっと、屋上に行こ」
すぐに教室出て、上遠野は屋上に続く階段に向かった。
屋上には昼休みしか許可されていないけど、昼休みになったいまの時間でも人はいなかった。
「ここなら、人がいないし。一人になりたいときは、だいたいここにいるんだ」
屋上の階段の反対側に向かうと、壁にもたれ掛かるように上遠野は座った。
わたしもその隣に座って、上遠野がいきなり話し始めた。
「あのさぁ。俺の目の色、変じゃない? 考えてたんだけど……」
あまりにも突然だったので、上遠野の方を見てしまった。
「え? どうして?」
光の加減によっては緑とかに見える上遠野の瞳は、日本人としては珍しいんだ。
「……昔、変な目って言われたことがあるから」
「え、そうなの? 上遠野」
上遠野はポツリポツリと自分のことを話し始めた。
「目や髪が違うのは……俺の父さんがロシア人だったからみたい」
「ロシア……?」
上遠野は外国人の血を引いているんじゃないかという噂が流れていたことを思い出して、思わず納得してしまった。
「お父さんに……似てるんだ?」
彼は首を横振った。
「会ったのは中一が最後だったけど……似てると思う。よほどの事情があるみたいで、母さんは少ししか話してくれなかった」
上遠野は体育座りで膝に顔を埋めて、話をしている。
「そうか……色々複雑なんだね。ごめん、余計なこと聞いて」
「大丈夫だよ。俺の目の色はヘーゼルブラウンっていうみたいで、
ここまでは普通の話をしてるように見えた。でも、上遠野の表情は暗かった。
「小学生になってから、いじめられるようになったんだ。俺は外人だからって」
上遠野はかなりつらいできごとだったらしく、それを知った両親は暮らしていた街から引っ越して中学時代を過ごしていたという。
「その頃にはさ、もうあの頃の気持ちにはなれなかった。トラウマで精神的にもつらくて、それに反抗期が重なって……家じゃだいぶ暴れちゃった」
その声は震えていて、涙声になっている。
「上遠野……つらかったんだね?」
わたしの言葉に彼はうなずいて、顔を見せてくれた。
そのとき、ちょうど日光が雲の隙間から射し込んできた。とても計算されたかのように。
その光は上遠野の涙が溜まったヘーゼルブラウンの瞳を明るくさせる。
「つらかった……戻れるなら、何にもつらくない頃に戻りたい」
それは本心で普段、先生と接する態度とは全く違うことを教えてくれた。
「そっか。いままで大変だったね、ずっとそばにいてあげる」
わたしは上遠野の手をそっと触れたとき、彼は涙をぬぐわずにこちらを見ていた。
そっと抱きしめられる。
「え!? ちょっと……上遠野!?」
びっくりしてしまって、彼の体を引き離そうとしてしまう。
「……そのままで、少しだけいてほしい」
「いいよ。休み時間が終わっちゃうよ?」
そのときに上遠野のことをほんとだったら、すぐに突き放して屋上を出ているはずだったのに……言葉を言ったときがびっくりしてした。
「もう。帰ろう……碧峰」
「わかったよ。たまには相談しなよ? 聞くだけでも気分は楽になるから」
上遠野はとても嬉しそうに笑っていた。
その笑顔をずっと見ていたいと感じた。
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