第35話 いつもの風景

 佑李ゆうりくんが帰国して、数日が経った。

 学校に月曜日に戻ってくることを担任の先生が話してくれたんだ。

『月曜日、壱ノ原いちのはら駅で待ってるよ』

 何枚かの写真と共にLINEが来ていた。

 どの写真も佑李くんは笑顔で、たまに動画を撮られているのもあった。

 それはバンケットでワルツを踊っているときので、少し年下の子と踊っている。

「なんか楽しそう……すごいな」

 服装は黒いスーツで暗い赤のネクタイにネクタイピンが光っている。

 衣装とは全く違う雰囲気になっていて、買ったのかとても似合っている。

 わたしはその写真を見て、まるでその場にいたような気分になれる。

美智みち、何を見てるの? ちょっと見せて?」

「あ、母さん。友だちから送られてきた写真。スケートの試合が終わったのあとの夕食会のやつだよ」

 母さんにスマホを渡して写真を楽しそうに見ている。

「楽しそうね~。今度、その友だちを連れてきなさいね」

「いいの?」

 友だちを家に連れてくるのはダメなのかもって思ってたけど、この前英梨えりちゃんと勉強会をしていたこともあった。

 たぶん友だちを連れてきてもいいらしい。

「いいわよ~、美智の友だちなら大歓迎よ」

「あ、うん。また決まったら、話すから」

 わたしはそのときに佑李くんからのメッセージに返信をした。

『わかった、楽しみにしてる』

 明日が佑李くんと学校に行くのが、少しだけ楽しみになった。




 月曜日は少しだけ早めに家を出た。

「美智。今日は早いわね?」

「うん! 友だちと待ち合わせてるから、待たせるのは嫌いだから」

 朝食を食べてから、すぐに家を出ることにした。

 すぐに歩いていくと、LINEが来ていた。

『ちょっと遅れる。七時半に改札に行く』

『うん、わかった』

 佑李くんと待ち合わせまであと五分くらいで、その時間が近づくにつれてドキドキしてきた。

 改札の方から見慣れた東海林しょうじ学館高校の制服を来た男子高校生がやって来た。

 明るい茶色の髪にヘーゼルブラウンの瞳をしている彼は、わたしを見つけると笑顔でこっちにやって来た。

「みっちゃん。お待たせ」

「佑李くん、おかえりなさい!」

「うん、ただいま」

 少しだけ照れながら話している。

「あのブレスレット。お守り代わりにつけて、優勝できたよ……ありがとう」

「どういたしまして。でも、優勝できたのは佑李くんの実力だよ?」

 佑李くんは大技の四回転ルッツを成功させて、優勝していたのでニュースになったりもしていた。

「それじゃ。行かないと、学校に遅刻する」

「うん」

 試合のことはあまり話さないことにした。

 なんとなく……そんな気持ちになった。

 電車に乗ったときに、わたしは佑李くんと話をしていた。

「あれ? 佑李くん、この男の子と女の子って」

 送られてきたなかで、一枚の写真に気になっていたものがあったの。

 それは佑李くんとロシアの二人の選手と撮った写真だった。

 一人は茶色に近い金髪にグレーの瞳、もう一人は妹なのか同じ髪色に緑がかった茶色の瞳をしていた。

「ああ。これはアレクサンドルとソフィア、俺の父さんの再婚相手との子ども、父さんが同じ弟と妹。サーシャとソーニャって呼んでる」

「そうなの? 似てるな~って、思ったから」

「うん。父さんにも言われたよ。サーシャとソーニャ、俺がそっくりだって」

 そんなことを話ながら、二人で学校に行く。

 わたしはそのまま歩いていくことにした。

 学校の最寄り駅に着くと、人が増えてきた。

「みっちゃん。まだだいぶ先になると思うけど、大学生になってから海外に武者修行に行くつもり」

「うん。日本で待ってる」

 佑李くんが練習場所を変えて、新しい自分を探したいんだと思う。

「俺はいままでスケートを通して、自分の視野をどんどん広げる」

 そのまま通学路を進む。

上遠野かとおの。おはよー! ミッチー、おはよー! 二人ともお似合いだね」

 英梨ちゃんが声をかけてくれた。

「おはよう。稲木いなき、そろそろ言うの、やめてほしいな……恥ずかしいから」

 佑李くんは英梨ちゃんに恥ずかしそうに話している。

 これが日常の朝の風景だった。





 放課後、わたしは佑李ゆうりくんから花束をもらった。

「みっちゃん、バレンタインの代わり……ほんとは当日に渡せればよかったけど」

 それは淡い赤とピンクのバラの小さな花束で、とてもかわいい雰囲気だったの。

「いいの。ありがとう! 佑李くん……きれいだね」

 そのときに佑李くんは恥ずかしそうに笑った。

 バラは十二本で何か意味があるのかな? って思ったけど、少し調べようと思っていたけど、家に戻るとそれすら忘れていた。

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