第4章 冬休み
第19話 冬休み前
冬休みまであと二日。
全日本選手権が終わってから、初めて
「上遠野! おかえり~!! テレビで見てたぞ。すげぇな~、全国七位だろ?」
テレビで生中継で放送されていたので、すでに成績も知っている人も多い。
そのおかげで彼はすっかり時の人って感じになっていた。
「おはよう……上遠野」
上遠野はクラスメイトに囲まれて、困った表情を浮かべている。
「
自分の席に座るとため息をついて、そのまま机に突っ伏している。
「お疲れ様でした。全日本選手権七位って、すごいよ。あと、国際大会とこも出るんでしょ?」
「うん……二月のオーストリアの国際大会に出る」
テレビとかで聞く四大陸選手権という大きな大会には他の選手が出場するらしく、上遠野はその大会の補欠となっているみたいだった。
わたしはルーズリーフをまとめたリングノートを上遠野の机に置いた。
「あ、授業のノート……教科ごとにまとめてあるから」
「サンキュー、碧峰」
上遠野は再び机に突っ伏すと、寝てしまったようだった。
そのときに
「ミッチー、上遠野のこと好きなの?」
「え……ちょっと、待ってよ!? なんで知ってんの」
英梨ちゃんはニコニコしながら、わたしの方を向く。
「だってミッチーが話してるとき、楽しそうなんだもん」
「自覚してるけどさ……うん。好きだけどさ~」
上遠野のことが好きなのはわかってたけど、本人と会うとドキドキして上手く話せなくなる。
「そっか~、上遠野に告白したら?」
「いきなりは無理! 難しいって」
「できるって」
そのときに上遠野が眠そうな表情で廊下に出てきた。
「あ、上遠野。どうした?」
「碧峰、この映画を観に行きたいんだけど……知ってる?」
スマホには映画のポスターを撮ったらしき写真があって、その映画のタイトルを見る。
「あ、これ知ってる。マンガ原作のものだよ」
「一回、観に行こうとしたけど、女子ばっかりで勇気がなくて……」
上遠野は少しだけ残念そうに笑っていたけど、わたしはびっくりしたのと嬉しいのでドキドキしている。
「あれ。原作は少女マンガだからね」
「うん……それで、クリスマスの翌日に一緒に見に来てほしい」
「いいよ。一応、予定を開けてあるから」
そのまま上遠野は教室に戻ると、隣にいる英梨ちゃんの存在を思い出した。
英梨ちゃんはなにか言いたげでこらえていたらしく、窓の方を向いて深呼吸をした。
「マジで……、あれで付き合ってないの?」
「うん……ってか付き合うかも、わからないし」
呆れたようにため息をついて、わたしの方を見つめる。
「映画に行こうって……ナチュラルにデートに誘うって、どういうこと?」
「だからデートじゃないって」
そう言いながら教室に入る。
不思議とドキドキは収まってて、もうすぐ授業なのでその準備をすることにした。
「みんな、授業を始めるぞ~!」
英語の授業はとても楽しくて、自然とテストの点数も上がっていた。
上遠野も珍しくこの授業ではいつも起きていて、楽しそうにノートを取っているように見えた。
今日はお互い部活をしてから、一緒に帰ることにした。
「上遠野は……被服手芸部の活動はどうなの?」
「うん。ちょっとずつスケートの練習とかで来れなくなってくる前に仕上げをして来たんだ。もう春休みまでは小道具を作るだけだよ」
上遠野の裁縫スキルは結構高い。
文化祭で着た本格的なドレスとスーツが作れる時点で、そっちの道で職業に就けるんじゃないかって思ってしまう。
「将来は? どっちに進むの?」
「ああ、一応。フィギュアスケートの衣装とこを作れたらなって。友だちが通ってる学校の大学で被服についてを学ぶつもりでいる」
わたしはびっくりしてしまった。
「そうなんだ」
「うん。じゃあ碧峰。映画、楽しみにしてるよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます