第30話 エアメール

 明日から学年末テストが始まる。

英梨えりちゃん、この前言ってたカフェ。行く?」

「行きたい! あそこのパンケーキ、気に入ったからね」

 英梨ちゃんは学校指定のコートを着ずに、寒いのに毎日登下校しているんだ。

「コートって着ないの、英梨ちゃんは」

「うん、学校指定のコートって、ちょっと高いし……重ね着で大丈夫だよ」

 カフェは今日は営業しているので、英梨ちゃんと一緒にカフェに行くことにした。

「英梨ちゃんって……すごいよね」

「どんなことが?」

「うちら部活とかも一緒じゃないし、めちゃくちゃ仲が良いじゃん? ちょっと不思議だと思って……」

 英梨ちゃんは窓の方を向くと、少しだけ考えてから話し始めた。

「ミッチーは不思議な力があるなって、上遠野がああだったこともあったし……。不思議と人を変える力があると思うんだ」

「人を変える力……?」

 そんな力が自分にあるっていうのは、とてもびっくりした。

「うん。わたしも変わったかも、昔は自分の周りしか見えてなかったから」

 あんまり自覚がないので、あんまりわからない。

「英梨ちゃん、次壱ノ原いちのはらだよ。降りるよ」

「うん、降りる!」

 駅から徒歩で十五分くらいの場所にそのカフェはあった。

 外は古めかしい洋館で蔦の絡まる壁は、まるでそこだけ日本じゃない雰囲気を醸し出している。

 そのカフェのなかに入ると、白とクリーム色で統一された明るいお店だった。

「ギャップが激しいよね。ここのお店」

「そうだね。めちゃくちゃギャップがある」

 そこでパンケーキを頼む。

 英梨ちゃんはテイクアウトで、家族の分を買っている。このカフェでは五個以上テイクアウトにすると、割引券をもらっているんだ。

「はい。次回、お店にご来店されると使える割引券です」

「ありがとうございます」

 頼んでいたパンケーキはできたてだった。

「わぁ……めちゃくちゃおいしいね! できたての方が特に!」

 英梨ちゃんは笑顔で食べていて、とても嬉しくなった。

 そのまま英梨ちゃんは帰っていった、テイクアウトしたパンケーキを持って。

 それを見送ったときだった。

「あら。美智みちちゃん。お久しぶりね」

 後ろを向くと、そこにはカフェのオーナーさんがいたの。

「お久しぶりです、神崎かんざきさん。パンケーキ、おいしかったです」

 神崎さんは近所に暮らしてるおばあちゃん

で、ここのカフェはもともと神崎さんの実家を改築したものなの。

「美智ちゃん、さっきのはお友だち?」

「はい」

 そっと神崎さんはわたしの頭を撫でる。

 まるで孫のようにわたしをかわいがってくれていた。

「その制服、東海林しょうじ学館高校でしょ? うちの孫も同じ高校に通ってるみたいでね。同い年なのよ」

「お孫さん、いるんですか?」

 神崎さんからお孫さんの話を聞いたことがなかったので、びっくりしてしまった。

「ええ、娘の息子なんだけどね。おつきあいしていたロシアの方と結婚するって言って、夫と大ゲンカの末に結婚して……私も含めて絶縁状態だったの」

「そうなんですか……」

 そのときにお孫さんの五枚の写真を見せてくれた。

「たまに私宛に娘は写真を送ってくれたのよ、ここ最近のもあるけど……手持ちのはこれしかないの。美智ちゃんには特別よ」

「あ……この子って」

 その写真には金髪の赤ちゃんが眠ってるもので、とてもかわいい子だった。

 それとお母さんに抱っこされて、満面の笑みを浮かべている写真とかがあった。

 でも、その笑顔にはどっかで見たような感じがしたけど……気のせいかもしれない。

「神崎さん、ありがとうございました。また来ます!」

 お代を払って、そのまま家に向かった。



 わたしは家のポストには父さんと母さん宛の手紙が二通、その他に赤と白と青で縁取られているエアメールが届いている。

 宛名はわたしで裏を見ると、そのには差出人の名前が書かれてあった。

佑李ゆうりくんからだ! エアメール!?」

 家に入るとすぐにリビングに両親宛の手紙を置いて、急いで部屋に向かって手を洗いに行ってから手紙の封を開ける。

 便せんを開けると佑李くんの字が飛び込んでくる。

 オーストリアに着いてすぐにこの手紙を書いていて、自分の練習をしているというものだった。

「そっか……がんばってほしいな」

 最後の文章を見て、笑ってしまった。

『学年末テスト、がんばれ』と書かれてあったから。

 これでテストもがんばれそうだ。

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