第21話 クリスマス
クリスマス当日は熱も下がって、体調も安定していた。
鼻炎を除けばの話だけど……。
クリスマスプレゼントは勉強机の上に置かれていて、それはいつもの二倍の一万円分の図書カードだった。
たぶんそっと置いてくれたのかもしれない。
一つはお兄ちゃんの字で『ごめんな』と書かれてある。
マスクをしてリビングに行くと、お兄ちゃんの姿が見当たらなかった。
「お兄ちゃんは?」
「寝てる。今週には元気になるよ」
お兄ちゃんは大人しく寝ないタイプだけど、今回は熱もすぐに下がっているようだったので安心した。
わたしは着替えてリビングでゆっくりとしていた。
部屋に戻って宿題をしていると、
『元気?』
『うん、熱は下がった』
『良かった。年明けすぐに映画を観よ』
『始業式の前の日ね、めちゃくちゃ楽しみ』
一時間くらいLINEして、宿題を終わらせてしまった。
勢いで終えて、時計を見ると午後七時半だった。
お風呂と夕飯を済ませ、わたしはテレビをつける。
いつの間にかクリスマスソング特集が始まっていて、ある曲がかかると動けなくなった。
好きな曲でずっと聞いてたものだ。
歌詞を聞いていると、涙が溢れてきそうになる。
「どうしてだろ……」
サビで涙腺が壊れて、号泣してしまった。
上遠野に会いたかった。
そういう気持ちになっていた。
「
「え? うん、わかったよ」
涙を拭くと母さんから電話を替わった。
「もしもし?」
『あ、
「上遠野!? どうしたの。てか、なんで家にかけてくるの?」
『ちょっと声が聞きたくて……。それだけ』
電話の向こう側からちょっと照れくさそうな声が聞こえてくる。
それを聞いて口元が緩みそうになる。
声が聞きたいだけで、電話をしてくるのはいいけど……。
「それはいいけど……今度からはLINE通話から、電話をしない? 家電、電話代がかかるからさ」
『いいよ、またな――美智』
いきなり名前で呼ばれたせいでもあるのか、ちょっと時間がかかってしまった。
「え!? ちょ、ちょ、ちょっと上遠野」
そのままブツッと通話が切れた。
ツーツーツーと音が聞こえて、通話が切れているのがはっきりした。
「アイツ~、こんな一面あるの? 不意打ちすぎるよ……」
受話器を置くと、そのまま部屋に直行した。
部屋のベッドに腰かけると、ちょっと気持ちの整理がついていない。
心臓がバクバクいっててうるさい、熱もないのに顔とか体全体も熱くなっている。
「はぁ……」
名前で呼んでくれた、そのことを理解するのに少しだけ時間がかかった。
――美智。
その声がやけに覚えている。
わたしは思わず枕を抱きしめて、ゴロゴロしていた。
でも……上遠野に名前で呼んでほしいなって思ったことはあった。
いつも名字で呼んでたのは普通の同級生として接してくれるだけだし。
窓の方をごろっと寝転がったとき、チラチラと白いものが降ってきていた。
「雪……? すごい」
わたしはカーテンを少し開けると、曇った夜空から白い雪が降っている。
ホワイトクリスマスって言うのかはわからないけど、その単語をすぐに思い付いた。
その光景はとてもきれいでこの風景を上遠野はどこかで見ているのかな?
いつもより幻想的な風景は数十分で終わってしまった。
そのまま眠くなったので、今日は寝ることにした。
夢を見た。
それはあの男の子だった。
「ゆうりくん! こんなところにいたんだ」
ゆうりくんっていうのはスケートクラブにいた頃にいた男の子で、いつもめちゃくちゃスケートが上手い子だった。
「みっちゃん、俺のこと覚えてて。約束だよ」
スケートを辞める日に彼から言われた。
小指を絡めて、約束をした。
目の前にゆうりくんがいなくなって、わたしはびっくりしてしまった。
「ゆうりくん!? どこにいるの?」
自分の姿を見ると文化祭のときに着たドレスを着て、見知らぬ場所でどこかの部屋にいた。
「迎えに来たよ。美智」
後ろから声をかけられ、振り向くと黒のタキシード姿で片手に手袋を持つの上遠野が立っていた。
「おいで」
優しく差し出されたその手を少しだけドキドキしながらも、手を重ねて……目の前が眩しくなった。
「――はっ……何、いまの夢」
気がつくとそこは部屋のベッドの上で、汗だくになっていたの。
「やけにリアルだったな……」
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