第24話 映画

 三学期の始業式が始まる前日。

 わたしは東原ひがしはら駅前で待ち合わせをしていた。

碧峰あおみね、お待たせ」

上遠野かとおの、久しぶりだね!」

 彼は黒のコートを着ている上遠野が見えた。明るい茶色の髪が見えたときに、ちょっとドキドキしていた。

「碧峰。明けましておめでとうございます」

「あ、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!」

 わたしは東原駅前にある映画館に行くことにした。地元の上遠野についていくことにした。

「碧峰は大丈夫? インフル」

「あ、うん。去年のうちに治ってたし……もう平気。あと……映画、すごく楽しみにしてた」

 上遠野も表情が明るくなっている。

「そうだね。俺も楽しみにしてた……今度の大会はオーストリアに行く」

 上遠野は二月にあるオーストリアの国際大会に日本代表として出場する。

「あと、上遠野」

 映画館にたどり着いたときに声をかけた。

「渡したいものがあるから……映画が終わってからでもいい?」

「うん」

 そのときに上遠野は手を引かれて、前売り券で席を買う場所に向かう。

「すごいな……次の次まで席が埋まってる」

「人気なんだな~、この前の年末に特番で大々的に宣伝してたし」

 なんとか席を取れたのは午後二時半から始まるときで、いまの時間は十二時半になっている。

「どうする? あと二時間くらいあるけど……」

「そうだね~。昼飯も食べるなら、ここにする? かなり時間は潰せそう」

 スマホで上遠野が見せてくれたのは、近所にあるショッピングモール。

「ここなら映画館とは直結してる。フードコートもあるから、暇つぶしになると思う」



 ショッピングモールにあるファミレスでお昼を食べてから、そこからわたしと上遠野は映画館に向かうことにした。

「あった」

 映画の座席が書かれた券を見せると、スタッフが上映されるスクリーンへと歩いていった。

 第六スクリーンは若い女子が多くて、男子はあんまりいなかった。

「誘ってよかった。碧峰を」

「うん、これだと……気まずいね」

 お互いに話を始めて、上映を待つことにした。

「俺。映画を見たら、七時からリンクに行くことにする」

「わかった。クラブの全体練習だよね?」

 上遠野がうなずくと、あることを聞いてきた。

「みっちゃんだよね? 碧峰は」

「うん。上遠野は佑李ゆうりくんだもんね、思い出せた」

 彼は何か言いかけたものの、上映が始まるのでブザーと照明が落とされた。

 始まって、主人公の陽葵ひまりは普通の女子高生。

 片想いをしているのは同級生の翔弥しょうやだった。

 でも、翔弥には昔から一人の女の子に想いを寄せている。

 すれ違いを何回もしながら、お互いに想いを寄せていることに気がついていく……そんな話でラストシーンは、涙が止まらなくなっていた。



「あ~、泣いた……」

「みっちゃん。泣きすぎだよ、ティッシュ」

 ティッシュをもらって、なんとか落ち着くまで待ってくれた。

「ありがとう。感動して泣きすぎた」

 優しくこっちを笑いかけてくれるのが、全く変わっていないような気がした。

「みっちゃん。ちょっとこっちに来て」

 わたしは上遠野――佑李くんが手を引かれて、外に出るとそのまま小さな公園に向かう。

「ここって、前にも来たことあるよね?」

「うん。みっちゃんが辞めるときに来た」

 中二になる春休みにスケートを辞めるときに、ここで美樹みきちゃんと蒼生あおいくんと佑李くんと一緒に行った場所。

「うん。佑李くん」

 わたしはいつの間にかスケートをしていた頃と同じ呼び方で、自然と話しかけていた。

「みっちゃん。ずっとさ……」

 目の前にいる佑李くんはとても大人に見えた。教室にいるような雰囲気ではなかった。

「どうしたの? 佑李くん」

「なんでもない……。ごめん」

 そう言って、佑李くんを改札まで送ってくれた。ずっと顔が赤かったんだけど、どうしたんだろう? って思いながら改札の前に来た。

「また明日な。みっちゃん」

「うん。佑李くん、また明日学校でね!」

 そう言って、改札前で別れた。

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