第26話 告白

 一月も半ばを過ぎたある日。

「屋上に行かない?」

「いいよ」

 佑李ゆうりくんがふと昼休みに一緒に屋上に向かった。

「え~、どうしたのよ。上遠野かとおの、ミッチーを悲しませないでよ?」

 英梨えりちゃんが佑李くんのことをからかっている。

 何か察しているのか、わたしにウィンクしてきた。

 たぶん泣かせることはしないけどね。

「わかってるって。稲木いなき碧峰あおみねと話すだけ」

「寒いから。カイロ、いるか? 佑李」

 お昼を食べてからすぐに佑李くんがいきなりそんなことを言ったのか、不思議に思ってしまった。

「佑李くん。屋上って閉まってるんじゃないの?」

「いや。屋上は開けてるよ、昼休みだけね」

 屋上のドアを開けると寒空で風がとても冷たく感じてしまうくらいだった。

「うわっ、寒っ、寒くないの? 佑李くん」

「さすがにカーディガンのままだと、寒いよな? これでも着てろ」

 佑李くんがブレザーを脱いで肩にかけてくれる。

 わたしにとっては大きいブレザーは温もりがまだ残っている。

「ありがとう……寒くないの?」

「うん。寒さにはもともと強いんだ」

 佑李くんが少し歩いたところで座ると、隣に座って空を眺めていた。

「みっちゃん。俺、来月になったらオーストリアに行く」

「試合でしょ?」

「うん……とても楽しみにしてる。海外のライバルのスケーターも出場するからね!」

 佑李くんがちょっと大人っぽくなったような感じがした。

 もう同じクラスになって半年以上経つけど、ここ最近が大人っぽく見えるようになっていた。

「でも……少しだけ不安で、練習のときもジャンプは成功率が落ちてるんだ。優勝したいのに変なプレッシャーがある」

 そのプレッシャーの正体はわかった。

「佑李くん」

 わたしは佑李くんの両手を握る。

「みっちゃん……?」

「練習をコツコツとがんばってるって、蒼生あおいくんと美樹みきちゃんが言ってた。自分を信じてほしい!」

 そのときに佑李くんは照れるように笑ってうなずいていた。

「そうだね。でも……言われると、照れる」

「くすぐったくなるよね」

 手を離すと、佑李くんが黙ったまま空を見ていた。

「うん……みっちゃん」

「どうしたの? ブレザー、返す?」

「そういうわけじゃないんだ」

 そっと近づいてわたしにか聞こえない声で言った。

「好き」

 その言葉を聞いたとき、顔が熱くなった。

 目の前に顔を赤くした佑李くんがいて、わたしの心臓の鼓動が速くなっている。

「わたしも――」

 想いを伝えようとしたときだった。

 屋上に昼休みを終えるチャイムが鳴り響く、それが少しだけ遅くに鳴ってほしかった気がした。

「そろそろ……みっちゃん」

 そっと佑李くんが手を離すと、わたしは佑李くんの手を握った。

「みっちゃん……?」

「うん。佑李くんのことが好き」

 ようやく想いを伝えることができた。

 佑李くんはびっくりして、しばらくしてガッツポーズをしていた。

「ほんとに……いいの?」

「うん。佑李くんがいい」

 にやけてるのを見せないように佑李くんは左手で口元を隠している。

「ありがとう。俺、嬉しい。つきあってください!」

 ずっと握っていた手を離すと、佑李くんのブレザーを返す。

「うん、よろしくお願いします!」

 お互い笑いあって教室に戻ることにした。

「英梨ちゃん! ただいま」

「ミッチー。なんか嬉しいことでも……」

 英梨ちゃんはあとから来た佑李くんの表情で、何かを察したのかニヤニヤしてこっち見ていた。

「そういうこと? 上遠野とつきあう?」

「うん……そういうこと」

 英梨ちゃんはびっくりしていたけど無言で肩を軽くパシパシ叩かれ、五時限目の授業が始まるチャイムが鳴ったんだ。




 下校時間になり、佑李くんと一緒に帰ることにした。

「みっちゃん。一緒に帰ろ」

「うん」

 スマホにあった写真を見せることにした。

「これ、今年の初詣で撮った写真」

「あ。美樹ちゃんたちもいたのかよ……誘ってくれれば行ったのに」

 佑李くんは少し悔しそうな表情でスマホの写真を見ていた。

「来年は一緒に行く? 初詣」

「行こう」

 そのときの笑顔はいままで見たことがないくらい明るかった。

 夕焼けに照らされているけど、とても眩しく見えた。

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