第30話 元カノと台風(奏目線)

「おー風が強くなってきたねー」

「そうだね。本降りになる前に今日はおいとましちゃおうかな」

「えー!? 泊まっていけばいいじゃん! 奏ちゃん病み上がりなんだし、体が冷えて風邪がぶり返したら大変だし!」


 そう言われても……。


「今日泊まるつもりはなかったから、服持ってきてないし……」

「あたしのを貸すから……ってサイズが合わないかーあははー……ごめんねぇ、貧相な体で……」

「自分で言って自分で傷付かないで! そういうわけだから……」

「……あ、もしかしたら! ここに……! あった!」


 風花さんは、押し入れから何かを取り出して、私に見せてきた。

 ……これって?


「この寝間着、使ってよ!」

「確かにこのサイズなら私が着ても小さくないけど……どうしてサイズが合わないものがあるの?」

「成長を見越して買ったんだけど……見ての通りだから……ねっ?」


 悲壮感溢れる風花さんの表情を見て、私はもう何も言えなかった。

 

「あーでも、その……下着が……」


 流石に、それを使い回すのは……ちょっと厳しいものがある。

 せっかく寝間着があっても、下着が無いのは……。

 ブラは寝る時だし、無くてもいいけど……。


「それなら、ここに!」

「……なんであるの?」

「あたしの家友達が泊まりに来たりするから、そういうのフリーサイズで備えてるんだよ。これで何も問題はないね!」

「じゃあ、突然だけど……お世話になります」


 台風のせいで、私は急に風花さんのお家にお泊まりすることになったのでした。


「今日お父さんとお母さんは? 挨拶しないとだし……」

「さっき連絡があって、パパとママは台風の影響で帰ってこられそうにないからホテルに泊まるだって」

「そうなんだ……」


 挨拶をしなくていいっていうのは緊張しなくていいから、いいんだけど……いつもお世話になってますってちゃんと挨拶をしたかったって気持ちもある。


「お風呂と晩ご飯まで時間あるけど……何しようか?」

「またゲームでも借りに行く?」

「いやそれは三柴君に悪いよ……」

「いいのいいの、あとで連絡させて届けさせるから!」

「まるで宅配便みたいな扱いだね……」


 三柴君にも改めてお礼をしないといけないかもしれない。

 

「……晩ご飯までに時間はあるけど、下ごしらえぐらい先にやっちゃおうか?」

「うんっ、賛成! 冷蔵庫の中身は結構豊富だったと思うし、割と何でも出来るよ!」

「風花さんは普段料理とかするの?」

「んー……ママの手伝い程度かな……奏ちゃんは?」

「私もそのぐらいだけど、一応時間があったら自分で作るようにしてる、かな」


 なんとなく将来の為に料理ぐらいは自分1人で出来た方がいいような気がして、休日の家にいる時とかは自分で作るようにしてる。


「くーっ! 女子力! そして可愛い! あたしがお嫁にもらいたい!」

「わわっ、急に抱き着かないでっ! 危ないからっ!」


 私たちは肩を並べて下ごしらえの準備を始めた。

 ……私からしたら、風花さんみたいな明るい子と結構した方が楽しくなりそうって思うんだけどなぁ……。


×××


「毎度ーっ。ゲームのお届けに参りやしたぁー」

「うむ。ご苦労であった」

「お前いつか痛い目見せてやるからな」

「いつもごめんね、三柴君」


 三柴君はゲームを渡すだけ渡して、すぐに自分のお家に帰っていった。

 文句は言うけど、ちゃんと持ってきてるくれるなんて……三柴君はいい人だなぁ。

 逢坂くんの友達を名乗れてるだけのことはあるかも。


「さて、物資も届いたし……早速遊ぼう!」

「う、うん……そうだね」


 やっぱり幼馴染みの距離感ってこんな感じなのかな? 

 私本でしか読んだことがないから、現実の幼馴染みのことはよく分からないなぁ。

 ゲーム機を片手に持って、ポニテを揺らしながらたんたんっと足音を響かせながら自分の部屋に戻っていく風花さんに続いて。部屋の中に入る。


 ――ピロンッ。ピロンッ。


「あ、柚葉ちゃんからLINE」

「そっちも? 私も雨城さんから」


 部屋に入って座った途端に、私と風花さんのスマホが同時になった。

 ということは個人じゃなくて、3人で作ったグループの方かな?


〈雨城柚葉が写真を送信しました。〉――19:02

〈大空くんとお泊まりなう! です〉――19:02


「はっ? はぁぁぁあああああ!?」

「おーやるねえ、逢坂クン」


 ちょっ、一体どういうこと!? どういうことなの!?

 

 送られてきた写真には、笑顔でぎこちないピースをする雨城さんと後方で写真を撮ったことに気が付いていないように顎に手を当て、何かを考えているような逢坂くんが写っていた。

〈一体何をしてるの!? どうしてそうなるのっ!?〉――19:03

〈いえ、さっき大空くんの目の前を看板が吹っ飛ばされていったり、目の前に落雷したりと、帰るには危なすぎるので泊まってもらうことにしました〉――19:03

〈そ、それでも男子と女子だよ!?〉――19:03

〈もしかして、柚葉ちゃん。大人の階段上っちゃう感じ!?〉――19:04

〈奏がスタンプを送信しました。〉――19:04


 それきり、雨城さんからの返信が途絶えてしまった。

 まさか……いや、逢坂くんに限ってそんなことはしないよね!?


「まあ家に2人きりってわけじゃない限り大丈夫じゃないかな? 柚葉ちゃんは結構そういうのガンガン攻めそうな感じだけど、逢坂クンってガード堅そうだし」

「そうだよね!? まさかそんなことにはならないよね!?」


 だけど、どうしても不安だった私はすぐに逢坂くんにLINEを送った。


〈逢坂くんっ!?〉――19:05

〈どういうことっ!?〉――19:05

〈奏がスタンプを送信しました。〉――19:06

〈どうもこうも、台風で帰れなくなった。それだけだ〉――19:06


「逢坂クン、なんて?」

「……台風で帰れなくなっただけだって」

「ふぅーん。柚葉ちゃんは自分の好意を自覚してないっぽいし、これはこれからが面白くなりそうだねっ!」


 面白くないっ! ……やっぱ雨城さんの好意って分かりやすいんだね。風花さんも気が付いてるってことは。

 でも、雨城さんのご両親がいる限り、ひとまずは大丈夫そう?


〈ちなみに今日はお父さんとお母さんは台風で帰ってこられないらしいんですよー。いやー台風にも困ったものですねー〉――19:07


 ダメだっ! 安心出来る要素が消えた!


 私はまた急いで逢坂くんにLINEを送ったけど、返信はこなかった。

 ……まあ、私が騒いだって仕方ないよね。もし、そうなっても、それは逢坂くんが選んだことなんだから。


 嵐というのは外だけじゃなくて、ある意味では時として内にも起こりうるものらしい。

 その後、もやもやとした気持ちを胸に残したままゲームをして、風花さんと2人で食事を作って食べて、お風呂に入ってから、ただ普通に眠りについた。


 ……って気になって眠れるわけないじゃない!

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